脱出②
振り向く時間さえなかった。
俺の足を掴んだそれは、拘束魔法のようななものなんだと思う。
俺は、アルディアだけでもと思い、必死に彼女を背負い投げ、俺との距離を放した。
俺は、状況把握のために背後へと視線を送る。
「おーい、ただの友達くん。現実はそう簡単に君のことを逃してはくれねーよ」
その声は、煙幕の向こう側から聞こえてくる。
やばいやばいやばいやばいばい…殺される。
俺の全てがそれを感じ取っている。
レーチェがいるそこまであと少しなのに。
俺はレーチェと目を合わせ叫んだ。
「レーチェ、頼む。せ、せめてお前とアルディアだけでも逃げてくれ」
「エリアス君、なんを言ってるの。そんなこと」
彼女の言葉の続きを遮るように俺は、言葉を重ねる。
「このままだとみんな死んじまう。助けられるやつが死んじゃダメだろ?」
「エリアスくん…」
俺は、偽物の笑顔をレーチェにみせる。
レーチェには、俺の覚悟が伝わってきたのだろう。
そんな泣きそうな顔しないでくれよ。
「アルディア。すまない、君だけでも逃げてくれ」
「いえ、私も戦います。これは元々私の戦いなんです」
「それはダメだ。素人の今の君にはあの化け物は倒せない。…そうなんだろ?」
「でも…でも…君を置いて逃げるなんてできません」
「だ、大丈夫!俺には秘密の脱出方法があるから!」
「なら、私もそれで!!」
「残念だけど、それは1人用なんだ。だから、先に行ってくれ。君は生きてやらないといけないことがあるんだから」
エリアスは、彼女に伝えた。
彼女には、俺の意思が固いことを理解していた。
だから…こんな選択はしたくなかったが、彼女は急ぎレーチェのもとへと駆け寄る。
風が吹き始める。
レーチェとアルディアの周りを覆い、それは、一瞬にして散開した。
もうそこには、2人はいなくなっていた。
急に、身体の自由を得る。
今度は、身体ごとあの影魔の方に向ける。
ゆっくりと煙幕は晴れていき、その中から影魔の姿が次第に現れる。
「わざわざ、俺に殺されるために残ってるんなんて、君も物好きだねー」
「別にお前に殺されたくて、残ってたわけじゃないさ…」
俺はこうやって会話をしている間にも、思考を巡らせる。
さっきアルディアには、秘密の脱出方法があるとは言ったけど、そんなものなんてない!あれは、彼女を安心させるために咄嗟についた嘘だ。
目の間にやつが現れた。
やつの右手の手刀が俺の心臓目がけて突き出される。
早すぎる。
こんな化け物とアルディアは戦っていたのかよ。
俺は、避けようとした瞬間に足を滑らせ、相手の意表を着くように尻餅をつきその攻撃を偶然にも回避する。
だが、跡がない。
武器なんて持ってないし、距離を取ろうにも近すぎる。
逃げ出した瞬間に、俺は終わってしまう。
終わってしまう。
「なあ、せめて優しく殺してくれないか?」
俺は、そんなことを目の前の影魔に話していた。
「命乞いかと思ったら、殺し方を俺に要求するなんてお前イカれてるのか?」
「イカれてなんていないさ。多分、俺が1番最弱で1番正常。もう俺の命は一瞬にして終わる。ならせめて痛くないように殺してほしいと思うのは普通のことだと思うが」
俺は、何を話しているんだ。
殺され方を相談している?わからないでもこれしか今できることはない。
「お前の言うことを聞く通りはないが…せめて心臓ひと突きで終わらせてやるよ。俺は慈悲深いからここまで残っている弱者への最後のプレゼントだ」
「は、はは…。そんなプレゼント嬉しくないや」
影魔の手刀が再び俺の心臓目掛けて放たれようとしていた。




