堕ちた妖精②
あれは確か、今日のような青いというふさわしい空の日だった。
僕はいつものように水を汲みに精神の泉に訪れていた。
早朝の時間帯は、まだ、村の人も起きておらずいつも一番乗りで泉の水を汲む。
しかし、今日はいつもと違った。僕より先に先客がいたからだ。
まず、その先客がどのような状況だったのかだけ説明させてほしい。
僕がいつもの通りの時間帯にいつも通り水を泉に汲みにいく。
すると、そこには見たこともない可憐で美しい白銀の髪の妖精の少女がいた。
僕はここで失敗してしまった。
そこにいる妖精は水を僕と同じように汲みにきたわけではなかった。
水浴びをしていた。
その可憐な姿に見惚れてしまっていた僕は、こっちを振り向いた彼女と目を合わせてしまった。
これが僕の失敗。
この数秒後、僕の意識はなぜだか薄れていった。
気がつけば、僕は横たわっていた。
僕は、彼女の太ももに頭をなぜか乗せており、視線の先にはあの妖精がいた。
「ごめんなさい。まさかこの時間帯に人間が来るなんて思わなかったのです」
彼女は申し訳なさそうに僕に謝罪をする。
しかし、この状況は15歳の少年にはちょっと恥ずかしかった。
急いで飛び上がり、彼女から離れる。
「謝らないで!僕こそごめん。気がつかなくて!!」
ふたりは、お互いに謝っていることがおかしくなり、二人顔を見合わせながら笑い合う。
「僕は、リュミル。リュミル=ヴァーライン。君の名前は?」
「私の名前は、エディリーヌ。どうぞ”エディ”と呼んでください」
「わかった!僕のことはリュミルと呼んで!」
「…リュミル」
彼女は、なんだか嬉しそうにそして大切にその名前をぽつり呟く。
そんな彼女を見つめながらリュミルは言葉を交わす。
本当に友達のようにたわいものないどこにでもあるような会話。
でも、その会話は今まで生きてきた中で一番緊張もしたし一番楽しい時間だった。
リュミルは、会話の途中にふとお腹が鳴る。
そうだ!と思い出したかのように荷物から昨日の残り物であるりんごパイを取り出す。
「これ、昨日の残り物だけどエディも食べる?母さんのりんごパイは絶品なんだよ」
手渡されたりんごパイを手に、エディはどうやって食べるのかと戸惑っていると、リュミルが見本を見せる。
「りんごパイなんかに上品な作法なんてないのさ。大事なのは、ガブリと食べること!」
そういうと大きな口を開けガブリとりんごパイを食べる。
それを見て、エディも同じように真似をする。
「…大事なのはガブリと食べること」
彼女は、彼の方を見てから勇気を出してガブリとりんごパイを齧り付く。
すると目を輝かせ、ガブガブと一気にりんごパイを食べてしまった。
「お気に召したようで良かったよ。まだあるけど食べる?」
エディは、うんうんと首を縦に揺らし、その後我に帰ったかのように恥ずかしそうに手渡されたりんごパイを頬張る。
その美味しそうに食べる彼女の笑顔を見て僕も嬉しくなる。
いつの間にか僕は、彼女に夢中になっていた。
楽しい時間はすぐに経ってしまう。
残念な気持ちになりながら、エディに別れを告げようとする。
「リュミル…あの、もし良かったらまた会いにきてくれますか?」
彼女は、恥ずかしそうにそう僕に声をかけてきた。
「当たり前だよ!また会おう、エディ!」
僕は、そういい彼女と別れを告げた。
今思えばこの時だったんだと思う、僕が彼女に恋をしたのは。