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銀霧のグレンツェ  作者: 鳥居賀風
伝承『堕ちた妖精』
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堕ちた妖精①

始まりの樹(フェアリークライス)の幹に登り、朝日をみる。

これが、僕の1日の始まり。


そして、勢いよく地上に向かってダイブする。

”ダイブ”という言葉では、少し生易しいかもしれない。

いわば、飛び降りだ。これを毎日繰り返す。


その飛び降りを見て、いい加減にしてほしいものだとそう思っているものがいた。

何故なら……



「あんたいい加減にしてよね!こんなのやってたらいつか絶対死ぬから!」


そんな声が彼の頭上で聞こえた。

そう、彼は今飛んでいるのだ。



頭上にいるか彼女に向かって彼は話す。

「でも、いつか人間だって君たちみたいに自由に飛べるようになるかもしれない。それの予行練習だよ」

「あのね、羽もないのにどうやって飛ぶのよ。あたしがいないとあんた今頃、即死よ。この自殺マニア」


そうトゲのある言葉を僕に発してくる頭上の羽の生えた女の子。

彼女の名前は、セピル。

始まりの樹(フェアリークライス)に住む妖精。

落下している僕、リュミル=ヴァーラインを抱き抱え助けてくれる友達だ。

彼女は幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた友達であり、家族だ。


彼女は、地上近くたどり着くとため息をつくなり、抱えていた僕を落とす。

ドシンと周囲に落下音が響く。



「痛ててて。もうひどいなー」

痛がりながらも笑っているリュミルを見て、セピルは呆れる。

「あんた見てると、バカは死んでも治らないってことを実感するわ」


セピルは、地上に降りてきて、樹の幹に腰をかけてこちらに話しかけてくる。

彼女は、妖精といっても”羽”が生えているだけで普通の女の子とほとんだ変わらない。

身長は、リュミルよりも小さいくその可愛らしい緑髪のツインテールはアイデンティティと日々彼女は豪語している。

容姿は、幼く14歳くらいに見えるが、妖精は人間と違って歳のとり方が違うらしい。

だから、セピルはリュミルより実際はお姉さんなのである。


「セピル、僕にはしたいことがたくさんあるんだよ。妖精みたいに魔法が使えなくても人間はなんだってできるんだ。だから、手始めに僕は空を飛ぶことを決めたわけだよ」

「あのね、だったら空飛ぶための努力をしなさいよ」

「してるさ。だからこうやって毎日あの樹から飛び降りてる。僕のイメージでは完璧なんだ。飛び降りるだろ?すると背中から羽が生えて…」


リュミルの妄言が始まった。

これが始まると話し終えるまで介入の余地はない。

そうセピルは知っていた。


「……ということなんだよ。だから僕は、あそこから飛び降りるんだ」

「じゃあ、明日はあたし助けないからね?」


沈黙。


ここでお通夜があったかのような沈黙が突如として生まれた。

そして、リュミルは手を叩き話題を即座に切り替えた。


「そ、そういや、母さんが今度りんごパイを焼くからセピルも食べにおいでって言ってたよ」

セピルが勢いよく幹から飛び降り、こちらに近づいてくる。

「ほんとのほんと?」


セピルにはパーソナルエリアがないのかそれとも興奮してこの距離に気がついていないのか。彼女の顔が僕の目の前にあった。

僕は数秒目を離すことタイミングを逃してしまい、急いで別の場所の視点をずらす。

「セピル…!!顔近い///」


セピルは我を取り戻したかのように急いで距離を取る。


「ごめん!…そのあたし…りんごパイには目がなくて…その」

「知ってる。セピルが食いしん坊だってこと」

「違うから。りんごパイが大好きなだけだからね!!」


彼女のその膨らませたほっぺが少し赤く染まる。

りんごパイか。

そういえば、彼女もりんごパイが好きだった。

僕は近くの木の根元に腰をかけ、空を見上げ彼女に話しかける。


「ねえ、セピルは、この樹の外の世界に行ったことある?」

「何よ、突然。昔行ったこともあったかもね。もう、忘れちゃったわ」

「昔さ、ある妖精と約束したんだ。いつか一緒にこの世界を冒険しようって!元気にしてるかなエディリーヌ」



彼は、青い空を見つめながらあの時の出会いを思い出していた。









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