物語みたいな出来事①
店から出ると外はもう真っ暗になり、ガス灯が明かりがついていた。
俺はすべき仕事を全て終え、いつもの帰路に着く。
予定だった。
しかし、今日は違った。
俺の右手には、あの妖精に羽のデザインの本を持っていた。
もっと正確なことを言えば、右手には本を、左手は妖精少女の手を握らされている。
「レーチェ。言っておくけど、俺はまだ人探しするなんて言ってないからな。お前が言ってることも全部信じたわけじゃない」
「わかったわかった。でも、君は絶対あたしを助けてくれるよ」
「なんでそんなことわかるんだよ」
「君はそういう人だって僕は昔から知っているからね」
彼女は、俺に”エヘヘ”と笑いかける。
改めて彼女の背中につく”羽”を見ると妖精なんだなと実感する。
今日、見せられたモノだってそうだ。
あんなことがこのラディウスという世界で密かに繰り返されてきたということが信じらえなかった。
この繰り返しを例えるならば、”世界救済システム”とでもいうのだろう。
誰かの犠牲によってこの世界が成り立っているのなら、この”人探し”というのもこの世界を救うための”犠牲者”を探しにいくということである。
その犠牲者によって世界は救われる。
___それは、繰り返して良いなのだろうか?
そんなことを歩きながら考えていると、道の先に男女が抱き締め合っていた。
こんなところでするなよ。と思っているとレーチェが足を止める。
「エリアスくん…動かないで」
俺の手を引き立ち止まらせる。
彼女の顔は、緊張感に満ちた表情をしていた。
「なんで…銀霧が出てないのにどうしてここに…」
俺は再び目の前に男女の方を見る。
闇夜のせいで抱き締め合っている男女だと思っていたが、それは間違いであった。
”抱き締め合っている”というところまでは間違っていないが、その女は、男性の首筋を噛みちぎり喰べていた。
その女は、一心不乱にその男を喰べている。
人間の姿をしながら、ガス灯によって照らされた影は、人間ではない化け物の姿を映し出す。
その姿を見てレーチェは、俺に小さく囁く。
「あれは、影魔だよ、エリアスくん。…今のうちに逃げるよ」
___逃げる。
そうだ、このままここにいたらあいつに殺されてしまう。
わかっていた。
でも、このまま逃げてもいいのか。
あの喰べられている男は、もう助からないだろう。
でも、あいつをここで逃げたりしたら、他の人たちが襲われるかもしれない。
そんなちっぽけな偽善心のせいで逃げ出すのが、数秒遅れてしまった。
影魔がこちらに気がつく。
___俺は、逃げ出した。
命をここで失いたくないとそう心から願った。
走って走って走って、ガス灯を何個過ぎ去ったかもわからない。
俺は、読書ばかりで運動していなかったのが祟ったのか、足がもつれ地面に倒れ込む。
急いで、背後を振り返り影魔がいるかどうか確認する。
無事、あいつを撒けたようだ。
___ポツンと雫のようなものが頭に何滴か落ちてきた。
雨が降りはじめたのかもしれない。
そう思い、その雫を払う。
赤色が手に残る。
真っ赤な液体。
空を見上げると、あいつがいた。




