堕ちた妖精⑩
物語もクライマックスです!
___そこには、”妖精の羽”を失っていた少女がいた。
こちらへ向かって歩いてくるエディは、満足したような顔をしながらでも少し寂しそうな顔をしていた。
「リュミル。これが月の十字架です」
僕にそれを手渡そうとするが、それを受け取りも彼女のことが心配でならなかった。
「エディ。君の羽が……どうして」
「これが、私の”代償”なのです。正統後継者は、トネリコの樹の枝を使うことが許されます。しかし、それは違反行為になのです。何者であろうと始まりの樹を傷つけてはならないと言うのが、妖精がはじめて生まれた時からの始まりの樹との契約なのです」
そんな契約を妖精が始まりの樹と結んでいたことなんてリュミルは知らなかった。
隣でその話を聞いていたセピルも驚いたような顔をしていたので、ごく一部の妖精しか知ることのできない情報だったのだろう。
彼女は、何とか気力を振り絞って立っていたのだろう。
ふと、足の力が抜けてしまい地面に倒れ込んでしまう。
慌てて僕とセピルは彼女の元へと駆け寄り声をかける。
彼女を抱きしめ、声をかけるリュミル。
今の彼女は、本当に”普通の少女”のようだった。
その声が届いたのか重く閉じていたエディの瞳が開き、僕と目が合った。
「大丈夫です。少し疲れてしまっただけです」
それを聞いて安堵するリュミル。
エディは、力を振り絞りながら彼らに言葉をかける。
「契約を破った妖精には、罰が降ります」
「罰?」
「妖精である証の”羽”を奪われ、次第に人間へと”堕ちる”のです。おそらく私は妖精を見ることも声を聞くこともできなくなるでしょう。だから、その前にセピルあなたに託したいのです」
「エディリーヌ様…何をですか」
「あなたに次の正統後継者になってもらいたいの」
「え…」
「あなたには、その資格が十分にあるわ。妖精に愛され、人間に愛されているあなたにどうか、お願いしたいの」
その言葉にセピルはどう返せばいいのかわからなかった。
なぜなら、その任を与えられた者の末路をあたしは知っているから。
これを継承しなくては、いつか世界が同じような事態になった時、今度は誰も救うことができないということも理解している。
セピルの頭の中で、目まぐるしく思考と思い出が駆け巡る。
そして、彼女は決意する。
”彼ら”が愛した世界をあたしも、守りたいと心の底から思った。
「リュミル。あんたが帰ってくるまでちゃんと世界を見守っていてあげる。だから、早く帰ってきなさいよね」
「…約束するよ。絶対帰ってくる!」
叶わぬ約束だと分かりながらも、その約束がある限りあたしは大丈夫だとそう思えた。
「エディリーヌ様。そのお役目を継承いたします」
「ありがとう。セピル。そしたら、手を」
セピルの差し出した手を、エディが握ると手のひらに正統後継者の証が刻まれる。
「エディリーヌ様。これは…」
セピルの手には、古びたカギが握られていた。
「その鍵は、狭間の門を閉門するときに使う鍵です。セピル、決して無くしてはいけませんよ」
すると、地上からあの地響きが聞こえる。
それは、あまり時間がないことを示していた。
「リュミル。時間がありません。どうか私たちの愛する世界を救ってください」
エディから月の十字架を手渡され、リュミルは地上へと向かう。
あの深く長い階段を今度は、全力で登っていく。
呼吸は、乱れ足も棒のようになっていて休みたくなる。
だが、休んでいる暇なんかない。
彼は、無我夢中で階段を駆け上がった。
やっとの思い出、始まりの樹の外に出る。
目の前に広がるのは、銀霧に包まれた僕らの世界。
恐怖の染まりつつある絶望の世界だった。
リュミルは、手に持っている月の十字架を掲げ、希う。
この愛する世界を守りたい。
自身の全てを乗せて、月の十字架に命を注ぐ。
すると彼の願いに応えたのか灯火が月の十字架に宿る。
その灯火は、次々とこの世界に侵食した銀霧を晴らしていく。
銀霧が晴らされていくことによって、居場所を失った影魔たちは、狭間の門の中へと引き返していく。
___あと少し。
そう思った瞬間、月の十字架に宿る灯火が小さくなる。
もう、僕の命は使い切ってしまったのか。
まだ、全ての銀霧を晴らせたわけじゃない。
だから、こんなところで倒れるわけにはいかないんだ。
リュミルの、精神も体力も命も限界をすでに超えていた。
本来、人間が扱うには危険すぎる代物だ。
でも、今、このとき、世界を救うことができるのは、僕にしかできなかったんだから仕方がない。
薄れゆく視界の中で、彼は願った。
___エディに会いたい、と。
そのとき、崩れ落ちそうな僕を後ろから抱きしめた。
そこには少女がいた。
こんなところに、まだ生きている少女がいるはずがない。
じゃあ、誰だ。
「リュミル。私は最後までそばにいますから」
僕はその声を知っている。
その少女は、僕の一番大切な人なのだから。
リュミルは、最後の力を振り絞る。
この世界には、まだまだ見たことない面白いもので溢れている。
”いつかこの世界を一緒に冒険する”という約束を果たすために今、世界を救わなくてどうするんだと全ての力を注ぎ込む。
彼の宿した灯火が大きくなり、その輝きは世界を飲み込んだ。
彼は、空を見ていた。
何とか古樹にもたれ掛かり、一面に広がる青い空を宝物のように眺めた。
エディが僕を見つけて、駆け寄ってくる。
___ごめん。もう何を言ってるかうまく聞こえないや。
彼女は、涙ぐみながら僕に謝っている。
___いいんだ、謝らなくて。これは、僕がしたくてしたことなんだから。だから泣かないで。
彼女の涙をほとんど力のない手で拭う。
___そうだ。エディに一度も伝えられなかったことがあったんだ。
リュミルは、最後の力を振り絞り、彼女にその言葉を紡ぐ。
「エディ…僕は、君を…愛してる」
最後に1番伝えたかった言葉を彼女に伝えることができたから一気に力が抜けていく。
消えゆく意識の中、最後に彼女の言葉が聞こえたような気がした。
「私もあなたを愛しています」
エディはリュミルを抱きしめ、最初で最後の口付けをした。
___これは、妖精に愛された人間と堕ちた妖精の物語。
彼らの手によってこの世界は救われ、狭間の門は閉門した。
ここまで昔昔話を読んでくださりdありがとうございます。
やっと、下地が整いました。
次か次の次くらいから本編に突入です!




