体育祭の借り物競走の名目が『保健の先生』だったが、先生は今ホテル最上階のレストランでデートをしている
まさか高校生になってまで借り物競走をさせられるとは思わなかった。
「──相撲部主将のふんどし!?」
隣でカードを拾った人が叫んだ。どうやら借りる物に関しては高校生らしく、ハードルが上がっているらしい。
「……保健の先生、か」
楽なお題目に安堵のため息を漏らした俺は、すぐに救護用のテントの方向へとダッシュした。
「安住先生なら、今日は休みですよ?」
「はあ!? 借りれないじゃん!!」
「なんでも、今日はホテルシャラクセーで何とかだって……」
「近いじゃん!! 行ってくる!!」
俺は保健の安住先生がいると思われる一流ホテル、シャラクセーへと向かった。
「お客様、当ホテルはドレスコートにてお願い申し上げておりまして……」
「ジャージはダメ!?」
「ダメ故にお声掛けさせて頂きまして御座います」
「分かりました──隙ありっ!」
「お客様!?」
ガードマンの脇をすり抜け、ホテルの最上階へ向かう。
保健の安住先生は最上階のレストランで知らない男の人と食事をしていたが、二人を纏う空気は重く濁ったような物を感じられた。
「……明日、ラスベガスへ出発します」
「そう……」
「真弓さんには、是非人生の伴侶として側に居て欲しいと思ってまして……まぁ、学校の先生は辞めてもらうようになりますがね」
「随分と私を都合のいい女にするのね」
「下の階に部屋を取ってあります。もし俺についてきて下さるのでしたら来て下さい。待ってます……」
タイミング良く男が席を離れたので、こっそりと安住先生の隣へと忍び足で向かった。
「安住先生」
「幸広くん!? どうしてココに……?」
先生はとても驚いた顔をした。普段の白衣と違い、大人の女性が着るドレスに身を包み、化粧も口紅も、どれもが綺麗で俺はドキッとした。
「先生……俺には難しい話はよく分からないけれど、今の俺には先生が必要なんです……!!」
「フフ……幸広くんったら、そんな顔して。分かったわ。やっぱり私にはこっちの方が性に合っているわ。行きましょ、ね?」
安住先生は俺の手を取り、走り始めた。
皿の上に残されたステーキみたいな物が勿体なく見えたので、二つほど口の中へ入れた。
「幸広遅ーぞ!」
「わりぃわりぃ!」
「三組の幸広君! 大幅に遅れて今ゴールです!」
ゴールゲートを駆け抜け、やり遂げた顔で二人笑い合った。
「じゃ、先生もう大丈夫です」
「……男ってすぐそうやって女を都合良く扱うのね」
安住先生は持っていたワインをラッパ飲みして嘆いた。