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第六話 祓詞

 調べるとは言ったものの、今まで普通の中学生としての生活しか送っていないミコは、何をして良いのかわからなかった。

 まずは、学校帰りに『アキラ』の家の身辺と家族の事を調べてみる事にした。





 二葉の言っていた話はどれも引っかかる事ばかりだった。

 最初に、アキラの両親だけが、どうやら交通事故で亡くなったとの事だった。

 とても不思議な事故だったらしく、単独事故でブロック塀にぶつかった…との話だったのだが、警察が調べて所によると、死亡した直接の原因は心不全だった、との事だ。


(両親二人が同時に心不全を起こす事なんてあるのだろうか? )


 両親が亡くなった後、すぐにアキラの体調不良が初まった。

 それまで元気だったアキラは、急に体調不良を繰り返す様になった。

 最初は病院の診断で、身体からは病気も発見されず、両親が同時に亡くなってしまったことで、心身喪失状態だったのだろうと診断された。

 しかし、それからもアキラの体調は、一進一退を繰り返していたようだ。

 

 そんなある日、アキラが家で寝ていた時に、火事が起きてしまった。

 逃げ遅れたアキラは火に巻き込まれ亡くなってしまったとの事だったのだがーー。


「その時、僕は起きていたんだ。ちゃんと意識もあって…聞こえたんだ。僕の家族の事を許さないって。燃える炎の中、そいつは…僕の体を押さえつけながら…」


 そう言いながら辛い記憶を思い出してしまったのだろうか。二葉の顔は青褪めていた。

 両手で自分の腕を抱えながら小さく震えている。


(可哀想に…)


 考えてみれば、二葉はまだ子供なのに、とても怖い思いをしていたのだ。

 そんな事を思い出してまでミコに頼み事をしてきた理由は、生き残ったアキラの姉を心配しての事だった。


「あいつの言葉を信じるなら、お姉ちゃんも危ないかも知れない」


(確かにそうだろう。一体どんな奴が…何故アキラの家族を? )


 ミコは震える二葉を抱きしめると、必ず姉を助けると約束するのだった。





 そして、アキラの燃えた家の前ーー。

 

 取り敢えず一夜と二葉を連れて来たのだが、二葉はずっとミコの腕にしがみついている。

 それを冷めた目で見ている一夜は、時々ボソッと『式神のくせに…』と、聞こえるか聞こえないか位の声で言ってくるのだ。

 そんな、何となく険悪な一夜は取り敢えず置いておいて、意識を集中してみる。

 ここに来た時から嫌な感じがしていたが、集中してみると、その嫌な感じがハッキリと感じ取れたのだった。

 怨み、妬み、嫉みその全てを一つに纏めた黒い感情。

 気持ちが悪くなる位にヒシヒシとそれらを感じるのだが、それだけだった。

 その根源の様な、強い存在はそこには無かった。


「ここには元凶は居ないようだね」


 ミコがそう呟くと、うなづく一夜。


「しかし、このままだとこの家は悪霊の集まる場所になるかも知れませんね。そうなると、この辺の陰と陽のバランスを崩してしまいそうです」

「崩れると何か困るのか? 」


 ミコは首を傾げながら、一夜に尋ねてみる。

 『そんな事も知らないのですか』と、一夜の顔は言っているが、未だに神道の教えを何一つ勉強していないミコには理解出来るはずも無い。


「陰と陽は一つ。光がある所に必ず陰が出来る様に表裏一体なのです。人間は必ず陽の感情と陰の感情を持ち合わせている。それなのに、この場所に陰の気ばかり集まるようになると、どんな人間でも陰の気に当てられて病気になる」

「そうなんだぁ。じゃあ、親父を呼んでお祓いでもしてもらうか」

「ふぅ〜」

 ミコの答えを聞いて、一夜は息を吐いた。

「ミコ様、貴方には天から与えられた力が有る。しかし、その力の使い方を知らなければ宝の持ち腐れです」

「そんなこと…言われてもなぁ」

 式神召喚は今まで何度もイメージをしてきて、大体内容は掴んでいた。

 しかし、お祓いをするなど、今まで考えたことも無かったのだ。


(う〜ん…)


 考え込んでいたミコに声を掛けたのは二葉だった。


「ミコ様、僕がミコ様と戦った時に、僕を吹き飛ばしたあの力…。もちろん、僕も吹き飛ばされちゃったんだけど…僕の中の悪い奴は完全に消し飛んだんです。その力は…? 」

「う〜ん…」

 

 それを聞いて、ミコは更に考え込む。それもそうだろう。

 あの時の記憶は完全に欠落している。

 そもそも自分が二葉を吹き飛ばしたことさえ覚えていないのだ。


「ミコ様、まず貴方は自分の中にある力を感じる事です。貴方の陽の力、その力をここの陰の気に当てられ、集められてしまった者達へ、加護を与え、清めるのです」


 一夜の言っている事はなんとなく分かる。親父がいつもやっているのを見ていたからだ。

 しかし、今まで料理をしたことのない人が、見ただけでいきなり料理が作れるようになるだろうか。

 答えは『NO』だろう。

 何も教えてもらっていないミコにとっては、暗闇を手探りで歩くに等しい。

 いくらミコが負けず嫌いとはいえ、返事をしかねているとーー、


「仕方がありませんね。ミコ様、今回は私がお手伝い致しましょう」


 そう言い終えると、同時に、一夜はミコの潜在意識の中に入ってきた。


 



 ミコの意識の中に現れた一夜は、前に呼び出した時と違って、光る玉では無く、一夜の姿そのままだった。

 急な事で、少し慌ててしまったが、ここ一週間でこの環境も既に三回目。

 流石に慣れてしまった。


「では、さっそく始めましょうか。まずは目を瞑り、呼吸を私に合わせてください。胸の前で手を組み、自分の中にある、温かいものを感じるのです」


 『いきなりか?』 とは思わなくも無いのだが、既に一夜はミコの体の半分以上を支配している様で、ミコの意思とは関係なく、一夜に操られ、ミコは胸の前で手を組まされている。

 憑依体質とはいえ、ここまで簡単に操られるとは、一夜の力が恐ろしいものだと、改めて感じさせられる。


「ミコ様、集中して下さい」


 一夜にそう言われ、ミコはハッとなった。


(そうだ、今は集中しないと)


 更に集中すると、何だか体がポカポカしてきたような気がした。

 ミコの中に太陽の様な温かな気持ちと、穏やかな感情が湧き上がってくる。

 ミコの全身を優しい光が包む。


「出来たようですね。ではそれを外に押し出して行きます。今回は手伝いますので、感覚を覚えて下さいね」


 一夜はそう言うと、ミコの両手を体の正面に差し出した。

 全身を包んでいた光は収束し、両掌に集まっていく。

 ミコの唇を使い、一夜は祓詩(はらえことば)を連ねる。


()けまくも(かしこ)

伊邪那岐大神(イザナギのおほがみ)

筑紫(つくし)日向(ひむか)(たちばな)小戸(おど)阿波岐原(あはぎはら)

(みそ)(はら)(たま)ひし(とき)

()()せる祓戸(はらえど)大神等(おほかみたち)

諸々(もろもろ)禍事(まがごと)(つみ)(けがれ)

()らむをば

(はら)(たま)(きよ)(たま)へと

(まお)すことを()こし()せと 

(かしこ)(かしこ)みも()す」


 言い終えたと同時に両手の光を解放する!

 優しい光は閃光となり、アキラの家を照らし出す。

 その瞬間、家の中から影のような物が次々に出現し、消え失せていく。





 二葉は、自分の家がミコから発せられている光に包まれていくのを見ていた。

 ミコの光はとても温かく穏やかで、ミコの心の優しさのようなものを感じていた。

 自分の家族の為に頑張ってくれているミコを見て、改めてミコをこれからも支えて行きたいと強く思っていた。

 お祓いが終わると、ミコの体は膝から崩れ落ちた。

 ミコの体が倒れる前に、慌てて二葉はミコの体を支えた。

 その瞬間、一夜がミコの体から出てきた。


「あの、ミコ様は? 」


 ミコの体を両手で抱き寄せながら、一夜に質問する。


「大丈夫です。力を使ったショックで、一時的に意識を失っているだけです」


 そう言いながら一夜は、少し不機嫌な顔をし、ミコの体を支えていた二葉からミコの体を奪うように引き寄せ、抱え上げる。


「あ、ありがとうございま…」

「別に貴方の為にやった事ではありません。それと、貴方のような下級な式神に、ミコ様のお体に触れてほしくはありませんね」


 二葉が礼を言い終える前に、一夜はそう言い放った。

 一夜が、二葉に良い感情を抱いていないのは何となく気がついていた。

 しかし、この言い方はなんだろう??


「申し訳ございません」


 謝りながら、一夜の様子を伺うと、ニコニコしながらミコをお姫様抱っこしていた。

 二葉は、一夜の力の大きさをなんとなく感じていて、一夜に逆らえないことは分かっていた。

 同じ主から呼び出された式神だが、一夜は自分とは全く別の存在と思わせる何かがあったのだ。

 普段は、ミコをチクチクといたぶっている一夜だが、何故か今は愛おしそうにミコを抱えている。


(まあ、いいか)


 とりあえず、皆それぞれ、色々な事情が有るのだろうと、嬉しそうな一夜を見て見ぬふりをすることにした。

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