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第十二話 三月

「正成、此れへ」


 火府音の呼び掛けに答えるように、正成が姿を表す。


「お呼びですか? 」

「話は聞いていたな? お前はこれより、ミコと共に行動し、守れ」

「……お言葉ですが……」

「妾の言う事が聞けぬと申すか? 」

「……」


 正成が何か言いかけたのだが、被せるように火府音が話だし、口を噤んだ。

 これが恐怖政治って言うか、パワハラなのだろうか。

 正成を連れて行けと言うくらいなので、彼は火府音の加護を受けていないのだろう。

 それなのに、火府音に従っている理由は何なのだろうか。

 ふと疑問には思ったが、今はそれを聞いている場合ではない。


「ふう、まあ良い。お前の言いたい事もわかる。一夜の事であろう? 」

「……はい」

「確かに、その者が使役している式神、一夜は、禍々しい生まれである。しかし、それについてはお主も人の事は言えまい? それに、この清めの力を受けて尚、ここで平然としてられるのは、この者が悪では無いと、証明しているではないか」

「御意……」

「私はお断りいたしますよ」


 火府音と正成の話を遮るように、一夜が声を上げる。


「この者は、あなたの言いつけを破り、人間を傷つけました。それに加えて、ミコ様に手をかけるつもりだったのです。そんな奴をミコ様のお側に置くわけにはいきません」

「ふぅん、お主の言う事も、もっともじゃな。妾は、正成には自分で考え、自分で動けるようになって欲しかったのだ。だから、今まで規制などは掛けずにいた。しかし、こうなってしまった以上、致し方あるまい。正成、覚悟は出来ているだろうなぁ? 」

「ひ、火府音様、お、お許し下さい。それだけは!! 」

「問答無用じゃ」


『山神 火府音の名におき

この者に大いなる枷を与える』


 一瞬、正成の手足が鎖に繋がれたように見えた。

 しかし、瞬きをした瞬間にその鎖は姿を消す。

 何が起こったのかと考えていると、火府音が口を開く。


「これで問題ない。今この時より、正成は人間を斬ることは出来ぬ。一夜よ、お主も正成の強さは分かっているだろう? ミコを守る為に、此奴の力は役に立つ」

「……」


 一夜は、依然、納得のいかない顔で正成を睨みつける。

 ミコも、不安はある。

 しかし、一夜と渡り合える正成の力を借りられれば、これからの戦いにおいて、とても有利になるはずだ。

 ミコは、少し考えた後答える。


「火府音様、正成さん、よろしくお願いします」

「うむ、仲良き事は美しき事じゃな! 正成を頼んだぞ! 」


 正成は、無表情のまま、鼻を鳴らし、ミコから顔を背ける。

 一夜は、憎々しげな顔で正成を睨みつけ、火府音はニコニコと、満足そうにミコを見つめていた。

 菖は遠い目をしながら皆の様子を見守っていた。


(もしかして、火府音様は厄介払いしたのでは? )


 正成の事だから、色々と問題を起こして、菖にも迷惑を掛けていたのでは無いだろうか。

 この先の人間関係を考えると、自分の決断が少し不安になってきた。


「時にミコよ、お主、星詠みに出会ったらしいなぁ」


 菖は、話を変えてきた。


「はい、たまたま同じ学校に居たんです。今は、一緒に戦ってくれる、大切な仲間です」

「うむ。そうか。ひとつだけ忠告というわけでも無いのだが……、誰かを信用し過ぎるのは危険な事じゃ。それだけは、肝に銘じておいてくれないか? 」

「うっ、はい」


 心当たりあり過ぎだ。

 一夜は自分からやって来たのでともかく、二葉も三月も、一時の感情のままに引き入れて、式神にしてしまった。

 ……


「あっ! 三月!! 」




 

 ミコ達は、山を降り、家路に着いていた。

 あれから数日探したのだが、三月は見つからなかった。

 三月は、霊にしては意志が強く、長く彷徨っていた為、自我も芽生えていた。

 山をお清めする時に、一緒に清めてしまった……なんて事は無いと思われるのだが、もしも、三月が清められる事を望んだ場合、お清めされていたとしても不思議はない。

 家に帰っているかもしれない可能性を考えて、帰宅してみたのだが、やはり三月は帰っていなかった。

 ミコは、久しぶりに帰ってきた部屋のベットに寄りかかると、後悔と自責の念で、唇を噛み締める。

 

「くそっ」


 顔を布団に埋めると、拳を握りしめ、ベットを叩く。


 トントン。


 ノックの音が聞こえて部屋の入口を見ると、扉を開けっ放しにしていた。

 カズマは、部屋の入り口に立ち、申し訳なさそうにミコを見ていた。

 どうもカズマには、情けない所を見られてばかりだ。


「カズマ……どうした? 」

「ミコ、ごめんな……。ずっと言おうと思っていた事があって、なかなか言えなかったんだけど」


 カズマは、頬を掻きながら言いにくそうにしている。

 ミコの隣に座ると、一瞬目を伏せ、決心したように前を見る。


「一人で外を回っている時に、捨てられた御神体を見つけた。すぐに消えてしまうような、本当に微かな霊力だったけど、そこに残っていたのは……三月のものだった」

「!! 」

「あくまで可能性だけど、三月は媒体から抜け出した後、御神体を動かた……」

「三月が!? そんな……。そもそも理由が無い」

「理由は分からないし、確証も無い。俺の想像だけ。だから、ミコにだけ伝えておこうと思って」

「そう……分かった。教えてくれてありがとう」

「ミコ、あんまり気を落とすなよ。三月はきっと大丈夫だ。いつかまた会えた時に、きっと色々話してくれるさ。ミコが信じた子なら、最後まで信じてあげよう」

「……うん、そうだね」

「だから泣くなよ」

「泣かないよ」


 カズマはやっぱり優しい。

 皆が、三月を式神として迎え入れるのに反対していたから、ミコが一人になるのを待ってくれたのだろう。

 そして、いつもいつも、ミコが欲しい言葉をかけてくれる。

 

(きっと大丈夫。そして、また会えるよね? )





「戻りました」

「お帰り。外は楽しめた? 」

「はい。サキト兄様」

「で、結果は? 」


 妹は静かに歩き出し、正座をしたサキトの膝に頭を預ける。

 サキトは静かに症状の頭に手を置くと、目を瞑り妹の体験を見る。


「そうか、予想以上に楽しめたようだね」 

「すみません。兄様」


 申し訳なさそうに謝る、妹の頭に静かに手を置くと、頭を撫でてやる。

 

「サクラ……いや、三月って言った方がいいのかな? 」

「兄様……」

「ごめん、ごめん。サクラが可愛くて、つい意地悪を言っちゃった」


 困ったサクラの顔の顔を見る為に、いつもつい意地悪を言ってしまう。


「どうだった? 僕の器は? 」


 サキトの質問に、サクラは大きく頷く。


 クスクスっ。


 サキトが嬉しそうに笑うと、サクラも笑顔を見せてくれた。

 歳の離れた妹とは、こんなに可愛いものなのだろうか。


(この子の為にも、生きなければいけない)


 サキトはそう決意すると、そう決意すると、サクラの頭を再び撫でてやるのだった。

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