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第十四話 黒衣の悪霊

「セイちゃん、いってらっしゃい。気をつけてね」

「いってくるよ」


 ミヤコはお腹が大きくなるにつれて、とても強く、たくましくなっていった。

 前は、セイウンが出かける時には、とても寂しそうにしていたが、元気に送り出してくれるようになった。


(母は強しというやつか)


 セイウンも、ミヤコの体調がいつも気がかりだったが、最近はあまり心配しなくても大丈夫だと、思えるようになっていた。

 しかし、他に不安要素があった。

 最近、お祓いを請け負った先々で、あの美青年化け物に会ってしまうのだ。

 特にセイウンに何かするわけではなく、ただ彷徨う魂を食らい、食事をしているだけのように見えるのだが。

 あまりにも邪気が強過ぎる為、放っておいて良いものか、祓ってしまった方が良いのでは無いかとも考えていた。

 

(自分もタダでは済まないだろうな)


 最初に化け物と出会ってしまった時に、すでに力の差を見せつけられてしまったのだ。

 もうすぐ産まれてくる子供や、ミヤコの為にも、今自分が死ぬわけにはいかない。

 害が無いのであれば、放っておいた方が良いのかもしれない。

 セイウンにしては珍しく、少し弱気になっていた。


 その日の依頼は、家を建てるための、土地のお祓いをする仕事だった。

 その土地は、何とも言えない、嫌な感じに包まれていた。

 長い年月が経過しているはずなのに、晴れない憎しみと強い怨念、そんなものをヒシヒシと感じていた。

 除霊に慣れているセイウンでさえ、そこに長時間居れば心が病み、頭がおかしくなってしまうかもしれない、そう思える程に、その土地の雰囲気は狂気じみていた。

 依頼主の男性は、一軒家を建てようと土地を購入したのだと言う。


「この土地は、一体…」

「はい、安く出ていたので買ったのですが…家を建築しようとすると、関わった方々が、次々と怪我をしてしまうのです」

「そうですか…。ここはとても危険な気を感じます。やれるかどうか分かりませんが、取り敢えずお清めをしてみましょう。申し訳ないのですが、お祓いの間は危険なので、なるべくここには近寄らぬ様、皆様にお声がけをお願いできますか? 」

「わかりました。今まで色々な方にお祓いをお願いしたのですが、全然効果がなかったので…あなたが最後の頼みの綱かと思っております。どうぞ、よろしくお願いします」





 その夜、セイウンはその地で火を焚き、お清めの準備を始める。

 しかし、この濃い邪気には覚えがあった。


「化け物! いや、一夜殿と申したか! ここにいらっしゃるのではないか? 」


セイウンの声に応え、一夜は姿を現す。


「よく分かりましたね」

「この地からは、あなたと同じ邪気を感じる。ここはいったい? 」

「ここは、私が生まれた場所、とでも言いましょうか? 」

「生まれた場所? 」


 生まれた時に発した邪気を放置した結果、周りの隠の気や、霊を寄せ集める結果になってしまったのだろうか。

 

「時々、集まって来た悪霊は食っていましたが、私には人間が住める程の、平穏な地を作り出すことは出来ませんから」


 一夜は、あっけらかんと言ってのける。

 確かに、化け物にお祓いをしろと言っても、無理なのかも知れない。

 ここは、セイウンが何とかするしかないのだろう。

 少し大掛かりなものになってしまうが、護符や、地面に書き込む陣を入念に準備し、お祓いを始めた方がいいだろう。


 セイウンが準備をしている間、一夜は素知らぬ顔をしながら見ていた。

 準備中も、気を抜けば体が動かなくなりそうな程、の重圧を感じていたが、自らに結界を貼りながら、何とか準備を整える。

 周りを見渡してみると、いつの間にか一夜は消えていた。

 一夜が居ると、更に悪霊を呼び寄せてしまいそうだし、じっと見られるのも落ち着かないので、居なくなってくれてよかったと、ホッと肩を撫で下ろす。


 セイウンは、木の棒に白い紙がつけられた大幣(おおぬさ)を構え、お祓いを始める。


高天原(たかあまはら)神留(かむ)まり()

(すめら)親神漏岐神漏美(むつかむろぎかむろみ)命以(みこともち)ちて

八百万神等(やほよろづのかみたち)

神集(かむつど)へに(つど)(たま)

神議(かむはか)りに(はか)(たま)ひて

()皇御孫命(すめみまのみこと)

豊葦原(よあしはらの)瑞穂国(みづほのくに)

安国(やすくに)(たひら)けく知食(しろしめ)せと

事依(ことよ)さし(まつ)りき …』


 途中まで大祓詞を言い終えた時、ふと嫌な予感がし、地面に目をやる。


「許すまじ、許すまじ。たかが呪いから生まれた悪霊よ。我を祓うと言うか! 」


(呪いから生まれた? まさか…)


 セイウンが思考を巡らせていると、そいつは地面から手を伸ばし、セイウンの足を掴む。


 「くっ!! 」


 セイウンを地面に引き込もうとしているのだろうか。

 力を込めて引っ張られ、身動きが取れないどころか、足が潰されてしまいそうだ。

 懐から護符を取り出し、足を掴む手に投げ付ける。

 

『森羅万象の五つのことわり

相剋 陰を巡らせ 

土のもの、木を以て制す』


 セイウンの言葉に応え、護符から木の根が張り巡らされ、土を割る。

 それと共に、手はセイウンの足から離れ、自由を取り戻す。

 足にはクッキリと手形が付き、 骨を砕かれたようで、立ち上がる事が出来ない。


(このままでは、まずい! )


 護符を掴みながら次の攻撃に備えた。

 その時ーー、


「セイちゃん!! 」


 一瞬、何が起こっているのか分からなかった。

 ミヤコは駆け寄ってきて、セイウンに抱きついてきた。


「ミヤコ…!? 」

「セイちゃん、大丈夫? 」


 ミヤコはセイウンの肩を支える。


「どうしてここに!? 危ないから逃げなさい! 」

「あの方が、セイちゃんが危ないって教えてくれて…」

「一夜殿!? 」


 どうやら、いつの間にか居なくなっていた一夜が、ミヤコをここに連れて来てしまったらしい。


(何という余計な事を! )


 これではミヤコが危険だ。

 しかしまるで、セイウンが危うくなる事を最初から分かっていたのではないかと、思わせるほどのタイミングだ。


「ミヤコ、いいか? ここに居る悪霊は、その辺の悪霊と比べ物にならない程の力を持っている。今すぐに、ここから離れなさい」

「あなたが危ないと分かっていて、ここから離れることは出来ません。私は悪霊と戦う事は出来ません。でも、あなたの足になる事は出来ます」

「でも…」

「信じています。私と赤ちゃん、両方守って下さいね」


 微笑みながら、ミヤコはそう言い切ると、セイウンを立ち上がらせる。

 何故だろう。

 今日のミヤコからは霊力を感じていた。

 それも、自分の持つそれよりも遥かに大きく、深く、そして安らぎを感じる。


(これは一体…どういうことなのか…)


「セイちゃん? 」

「ああ、ミヤコ。力を貸してくれ? 」

「はい!! 」


 セイウンはミヤコの力を使い結界を張る。 


「許すまじ、我を喰うだけでは飽き足らず、消そうと言うか!! 」


 まただ。

 一夜の生まれた場所。

 そのせいで、ここには邪気が充満しているのかと思っていたが、違っていた。

 一夜と同じ邪気を持つものが、明確な恨みを持ち、ここに留まっている。

 悪霊は、四方八方から攻撃をしてくる。

 姿が見えないので、次にどう攻撃をしてくるのかの予測が付かない。


(このままでは集中してお清めが出来ない…)


 そう思っていた時、


「父上、そろそろ潮時ですよ…」


 おどけた口調の一夜の声がしたかと思ったら、黒い雲のような物が土地全体を包み込む。

 竜巻のように、黒い雲が渦を巻いたと思ったら、地面の中から黒い狩衣(かりぎぬ)を纏っと男の霊を連れて来る。

 よく目を凝らしてみると、黒い雲だと思っていたものは、何千、何万も集まった小さな虫だった。


「おのれ! お前など、生み出したばかりに…!! 」

「それについてはお礼を言わせて頂きます。愛おしい人と、もう一度巡り会えるかも知れませんし…」


 一夜の視線が、ミヤコに向いたような気がしたが、今はそれどころでは無い。

 一夜が引きつけてくれている間に、この土地を完全に清めなければいけない。


「父上、あなたの執拗さにはそろそろ愛想がつきました。体を食ってやったのに、魂を分散させて何度も何度も蘇ってくる。しかし、それももう、終わりにしましょう」

「何度でも甦ってきたのだ。ここで終わりになどせん!! もうすぐ私は、膨大な力を与えてもらえる所だったのだ! 」

「あなたがいる限り、私は自らの存在を醜い物として、忘れる事が出来ない。少しでも美しくなってから巫女様の魂をお迎えしたいのです」


『…今日の夕日の(くだち)

大祓(おおはらい)(はら)(たま)(きよ)(たま)ふ事を

諸々聞食(もろもろきこしめ)せと()る! 』


「終わりです、父上」


 セイウンのお清めの言葉が終えると同時に、一夜は、自らが巻き込まれぬよう、黒衣を纏った霊から距離を取る。


「ぐぁぁぁ、お前など! お前など美しくなれぬわ! 恨みと憎しみの象徴! 我が生み出した、最高傑作の呪い! お前は…」


(少し力が足りないのか!? )


セイウンは霊力を最大まで高めているのだが、黒衣の霊は、それを上回る程の負の感情を撒き散らし続けている。


(このままでは、先に力尽きてしまう!! )


 そう思っていると、ミヤコが横から手を添えてきた。


「セイちゃん。私も、一緒に戦うから…」

「ミヤコ…ああ、一緒に…戦おう!! 」


 ミヤコの添えられた手からは、凄まじく大きく、清らかな力の流れを感じた。


「逝ね!! 悪霊退散!! 」


ぐがぁぁぁぁぁ!!!


 黒衣の悪霊は絶叫しながら、塵となって消滅した。

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