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第十一話 ヒーロー

 あの日から、あの子は私のヒーローになった。


 セイラは、商社に勤める父がアメリカに住んでいた時に生まれた。

 アメリカでは、引っ込み思案だったセイラの性格も、一つの個性として認められていたが、日本に帰国後は違った。

 小学二年生の時に帰国したセイラだったが、日本語が苦手で、その大人しい性格の為か、なかなかクラスには馴染めず、いつしか学校に通う事も苦痛になっていた。

 言い訳をしながら学校は休みがちになり、親に促され、久しぶりに学校に行った帰り道だった。


 ドシっ!!


 セイラは後ろから衝撃を受けて、膝から転けてしまった。

 振り向くとそこには、クラスでも目立つタイプの子達が立っていた。


「お前、アメリカ帰りだからって、良い気になってんじゃねー」


 セイラは決して、調子にのってなどいない。

 ただ、いじめが始まるきっかけは、些細な事だった。

 セイラの通う私立の小学校は、小学校低学年から英語の授業を進めていて、英語が得意なセイラが、その子よりも目立ってしまったのだ。

 ただそれだけだった。

 しかし、その日から執拗にセイラに対して敵意を向けてくるのだった。

 『出る杭は打たれる』とは、よく言ったものだ。

 すでにセイラは、この狭い島国の事を嫌いになっていた。


(今日は三人か…)


 男の子二人と、女の子一人。

 セイラからは表情が消え、いじめっ子達の顔を見ながら、この状況をどう切り抜けるかを考える。


「こいつ、睨んでんのか!? 」

「生意気な顔してんじゃねーぞ! 」


 セイラの顔が気に入らなかったのか、いじめっ子達は転んでいるセイラを更に蹴ってくる。

 いじめっ子達の攻撃は、セイラが泣いたり喚いたりすれば更に酷くなる事を知っていた。

 これ以上何かされたくないセイラは、黙ってこの苦痛な時間を耐えるしかなかった。

 そう、その日までは、そうやってやり過ごして来たのだ。


「おい! その子から離れな! 」


 どこからか声が聞こえてきた。

 自分を蹴る衝撃が無くなった事を確認すると、セイラはそっと顔を上げた。

 そこには自分と同い年位の女の子が、いじめっ子と自分の間に立っていた。

 

「大丈夫? 」

「あの、私、大丈夫から、あなた危ない…から」


 片言の日本語で話すセイラの手を取り、立たせてくれると、その子は自分を守るような位置に立つ。


「なんだ、コイツ! 」

「お前、やるのか!? 」


 三対二。

 元よりセイラは、喧嘩などしたことがなかった為、実際は三対一だろう。


「大丈夫。君に手は出させないから」


 女の子はそう言い切ると、いじめっ子三人を相手に、喧嘩を始めた。





 結論から言うと、その子は強かった。

 そして、その宣言通り、いっさいセイラに手出しをさせなかったのだ。

 しかし、三人が相手では無傷という訳にはいかなかった。

 

「だい、じょうぶ? 」


 セイラは、自分の為に痛い思いをしてしまったその子に何もしてあげる事ができず、泣きながらそう話しかけることしか出来なかった。

 痛いのはこの子のはずなのに、涙が止まらない事が情けなかった。

 

「泣くな! 私は慣れっこだから! 」


 女の子はそう言い切ると、立ち上がり、体の汚れを払う。


「私が助けたかったから勝手に助けた。私がムカついたから、勝手に喧嘩をした」


 その子は、セイラの涙を指で拭ってくれる。


「私は、もっと強くなりたい。守りたいものを守れるように! 」


 夕日を背に、ニッコリと微笑むその子は、とてもカッコ良かった。





 セイラは自分の失敗に気が付いた。

 助けてくれた女の子の、名前はおろか、学校も歳も、何もきいていなかったのだ。

 仕方なく、その日から毎日学校に通い始めた。

 放課後、同じ時間にまた会えるかもしれない、その可能性を信じて。

 

 その子の事を考えていると、自然とイジメの事は気にならなくなっていた。

 自分がウジウジしていると、またその子を傷つける事になってしまうかも知れない。

 そう思うと自然と心が強くなっていたのだ。

 相変わらずセイラは無口だったが、その子にちゃんとお礼を言いたくて、少しずつ日本語を流暢に喋れるようになっていた。


 暫くして、放課後にその子を見かけた。

 男の子と一緒に話しながら歩いていた。


「なんでカズマまで空手始めたんだ? 」

「うるせえ。いつまでもミコに助けられてばっかじゃ、悔しいだろ! 」


 セイラは見つからないように、コソコソと隠れながらその子の後をつけて行く。


(名前…ミコちゃんっていうのか)


 どうやら、仲の良い男の子と空手を習っているらしい。

 ただ、セイラはそれ以上、どうやってミコとの距離を縮めたら良いのか分からなかった。


 観察するようになって気が付いたのだが、その子は誰かを守り、頻繁に傷を負う事があるのだ。

 セイラはその度にミコを助けたいと思うのだが、なかなか行動に移せずにいた。

 そして、いつか役にたつかも知れないと、傷の治療の仕方や、包帯の巻き方を調べ始めた。


 ある日、自室から夜空を眺めていると、星が話しかけて来たように感じた。

 それから、ゆっくり、ゆっくりと、昔の記憶が蘇って来た。


(私は、定めの巫女の側で運命を占い、告げる者)


 セイラは色々な占いを買い集め、色々と試してみた。

 すると、その全てが100%命中するのだ。


(まだミコちゃんにお礼言えてないのにな…)


 セイラは自身の占いで、定めの巫女がどこにいるのか、探し始めるのだった。





 それから十数年後、相変わらずミコを放課後に見かける事があったが話しかけられずにいた。

 すでに助けてもらってから年月が経ちすぎて、完全にタイミングを見失っていたのだ。

 ミコは相変わらず、あの男の子と親しげに話をしながら、空手の稽古に向かっていた。


「ミコ、何処の高校受けるんだ? 」

「ああ、狭山高校にしようと思ってる」

「げっ! 偏差値めっちゃ高い所じゃねーか? 」

「うーん、まあ、先生も今の成績なら大丈夫って言ってくれてるから、なんとかなるんじゃない? 」

「マジかぁ…」


 男の子は、少しガッカリしたような顔をしていたが、セイラはチャンスだと思った。

 セイラは、私立の小中高一貫校に通っていたのだが、受験勉強をする事にした。

 親には少し反対されたが、セイラを小さい頃に助けてくれた恩人と同じ学校にしたいと、相談をしたら納得してくれた。


 入学後、ミコが定めの巫女だとお告げが出た時は、運命を感じた。

 そしてあの日、ドキドキする鼓動を抑え、ミコの制服の袖を掴んだのだ。


 その日から、ヒーローだったあの子は、セイラの一番大切な人に変わった。

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