第三話 拒絶の結界
そいつが現れたのは突然の事だった。
「定めの巫女が現れたと聞いて来てみれば…まだ力にも目覚めていないんじゃん」
勝手な事を言いながら、そいつは空から地面に降りてくる。
赤毛のロングヘアーを後ろで一つにまとめ、面白そうにミコの顔を眺めてくる。
人間の様な風貌をしているが、そいつが人間で無い事を示す様に、大きな翼を持っていた。
ミコは警戒するように一歩後退り、一緒に居たセイラを守るように立つ。
放課後、セイラは当然のようにミコについて来たのである。
多分、セイラそこそこ戦える子なのだが、いつもの癖でつい人を守る様に立ってしまう。
「そんなに警戒しなくても、今すぐどうこうしようって訳じゃないし。ああ、自己紹介まだだったよね! 」
そいつは手を胸に当て、軽く会釈をする。
「私は朱雀の化身、炎華。一応あんたの敵だよ」
そう言いながら、手のひらをミコにかざし、
「これは挨拶がわり! 」
火球をミコに向かって投げつける。
ミコは、焦らず護符を一枚取り出し、水の壁を作り出す。
「へぇ〜! 一応、戦えるんじゃん」
「最近、お前みたいなの多いからね! 」
「その他と一緒にされると、なんか腹立つじゃん! 」
炎華は全身に炎を巡らせ、ミコの顔面に向かって拳を向ける。
ミコは、顔の前で両腕をクロスし、拳を受けるべく身構える。がーー、
「占星・獅子爪牙! 」
ドォガ!
炎華の拳と、セイラが繰り出した術が激しくぶつかり、爆炎を生み出す。
「セイラ! 」
「ミコさん、下がって! 」
セイラの言葉と同時に、後ろに大きく飛ぶ。
爆炎の中をすり抜け、炎華が迫り来る。
ミコは、五芒星が描かれた護符を地面に叩きつけ、再び一歩下がる。
炎華が札の上を通る瞬間、素早く韻を組み、
「相生・大地」
護符のあった地面は盛り上がり、蛇のように炎華を捉える。
先程まで柔らかく動いていた地面は、コンクリートのように固まり、炎華を放さない。
ミコは土の力を借りて、炎の力を使う炎華の力を打ち消すのではなく、吸収して大地に流す事にしたのだ。
「へぇ〜、なかなかやるじゃん! 」
身動きが取れないはずなのに、まだまだ強気な発言をする炎華。
「なぜ、私を狙ってくる? 」
答えてくれるかどうかは分からないが、取り敢えず炎華に質問をしてみる。
「お前、一夜から何も聞いていないのか? 」
「一夜? なぜ一夜の事を知っている?」
炎華は、唐突に一夜の名を出して来たことに、少し驚いた。
「はっ! お前、一夜の主人だと思っていたが、何も聞かされていないとはな! その程度の関係って事じゃん! 」
むっ
確かに、ミコは一夜の事をあまり知らないかも知れない。
しかし、ミコなりに一夜の事を分かり初めていた所なのだ。
(なんで、こいつにそんな事言われなくちゃいけないんだ! )
ミコは少し腹が立って、炎華を睨みつける。
「図星…じゃん」
あはははっ!
炎華は、笑いながら捉えられていた土を炎で燃やし、灰とかす。
そのまま、何事も無かった様にミコに向かって歩き出す。
「ミコさん! 」
セイラはミコを守るような位置に陣取り、構える。
「知らないのなら教えてやろうじゃん! 一夜は長年私の相棒だった。お前なんかよりもずっとずっと長い時を一緒に過ごしていたのだ。定めの巫女が邪魔をするまではな! 」
炎華は、ミコを睨みつけながら、身体から炎を放つ。
(しまった…)
ミコは体を反転させ、セイラを庇う様な位置に立つ。
「一夜は私の物だ。返して貰おうじゃん! 」
熱気がミコの背中を撫でる。が、それだけだった。
「炎華。いい加減にしてもらいましょうか? 」
「一夜! 」
「ミコ様、遅くなって申し訳ありません」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべてミコを見る一夜。
ミコに背中を向け、炎華と向かい合うように立つ一夜に、とてつもない安心感を覚える。
炎華は炎を治め、甘ったるい声を出す。
「一夜〜!やっと来てくれたぁ〜。お・そ・い・ぞ☆」
そう言いながら、炎華は一夜に抱きつく。
(え…誰)
先程の炎華と喋り方まで違うではないか。
「やめて下さい、炎華。私は貴方と相棒だった記憶などありません。こっちは勝手に付け回されて迷惑でした」
「またまた、照れちゃって☆コイツを痛ぶっていれば来てくれると思ってたよ! 」
「貴方の為に来た訳ではないのですがね…」
溜息混じりに言う一夜だが、炎華は一夜から離れようとしない。
そんな二人を見ていると、少し苛立ってしまい、ミコの腕には力が入ってしまった。
「ミ、ミコさん、少し痛いです…」
「ご、ごめん、セイラ! 」
セイラを抱きしめたままだった事をすっかり忘れていた。
なぜか、少し顔を赤くしたセイラはミコからそっと視線を外す。
(なんか…ムカつく! )
この二人の痴話喧嘩に巻き込まれて、あまつさえ、セイラを巻き込んでしまった事に苛立ってしまった。
ミコは立ち上がり、未だに痴話喧嘩を続けている二人を睨みつける。
「いい加減に…しろーー! 」
その瞬間、ミコの叫びと共に、溢れ出る力を外に解き放っていた。
力はミコの周りで光を放ち、その光から逃れる様に、一夜は後ずさる。
「まさか! 」
一夜が焦ったように目を見開く。
ミコを包む眩い光は一夜と炎華を拒むように結界を作り出す。
「おっと、ちょっとめんどくさい事になったじゃん! 一夜! また遊びに来るからね! 」
そう言うと、炎華は翼を広げ、彼方に消えていった。
ミコ自身も、自分の体に起こった現象に頭がついて行かない。
自分では何もコントロールすることが出来ず、ペタリとその場にしゃがみ込む。
はぁ、はぁ、はぁ。
「な…に? どうなってるの? 」
「ミコ様! 」
一夜はミコに近づこうとするが、
バチっ!
「くっ! 」
結界に阻まれて、一夜は逆に傷を負ってしまう。
はぁ、はぁ、はぁ。
パニックになり、息が上がってしまう。
「ミコさん! 」
セイラは、小さい体で、ミコを包みこむように抱きしめ、
「大丈夫、大丈夫ですよ…」
セイラは、ミコの背中を優しくゆっくり叩きながら落ち着かせる。
はぁ…はぁ…。
「ありがとう…。セイラ。もう大丈夫みたい」
そう言うと、大きく深呼吸してみる。
(いったい、何が起こったんだ…)
そう考えていると、
「拒絶の結界…」
「え!? 」
「定めの巫女が持つ力…拒絶の結界です」
一夜は、絶望したような顔でポツリと言う。
(拒絶…私が、一夜を?)
ミコは、地面に目を落とし、一夜とは目を合わせぬまま、
「一夜、詳しく教えてくれるよね? 」
そう呟く事しか出来なかった。
励みになりますので、感想、ブクマ、評価等、よろしくお願いいたします!




