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3. 相談してみた

 あれから何度もメリッサとのやりとりが続いた。

 しかし、いまだにオレの努力は空回りしていた。本当にそろそろまずかった。

 ギルドに入るたびに、どんよりとうらめしそうな目がずっとオレを見ている。

 

 依頼を終えた帰り道、ため息ばかりが漏れていた。

 

「なんなの、暗いわね。依頼人からも褒められてたのに何が不満なのよ」

 

「うるさい、誰のせいだと思っているんだ」

 

「いい加減あきらめてよ。人生大事なのは開き直りらしいよ」

 

「誰だ、そんなことを言ったバカは。足元も見ずにまっさかさまに落ちていく人生なんてごめんだ」

 

 こちらの苦労も知らず、当の本人は実に明るい笑い声を上げている。

 ギルドの受付カウンターで依頼完了の報告をしていると、メリッサがいち早くギルド内の酒場に腰を下ろした。できれば、あのどんよりした目から逃げるためにここは避けたかったが既に注文を始めている。

 

「……大体、どうしてそんなにうちにこだわるんだよ。このパーティーの格付けはCランクだ。堅実に稼げればいいし、これ以上冒険するつもりもない。おまえだったら、どこでだってやっていける。この街じゃ、大きな依頼なんてあんまりないぞ」

 

「なあに? 今日は褒めて落とす作戦? でも、あたしだってCランクなんだからそんな高望みなんてしないよ」

 

「ちがうだろ……この前Bランクに上がったって聞かされただろうが」

 

 冒険者ギルドでは個人にも格付けがある。A~Fまでのランクに別れ、新米はFから始まる。

 ランクが更新されれば、割り振られる依頼も変わる。

 

 中堅とよばれるCランクに到達するまで、オレがかけたのは十二年だった。一方でメリッサはわずか三年。

 冒険者は実力主義だ。何にでも突出した才能を持つものはいる。それがメリッサという少女だった。

 

 Aランクに到達する日も近いだろう。Aランクともなれば、国からも重要な存在として指名依頼も来るらしい。

 いつか、こんなすごいヤツとパーティーの仲間だったなんてことを自慢する日が来るのかもしれないだなんて思っていた。

 

「そうだっけ? でも、今で十分だと思ってるよ。せっかくパーティー全員がCランクでお揃いになれたのにね~。あたしだけ仲間はずれみたい」

 

 食事だけを済ませるとさっさとメリッサは帰っていく。年齢を聞いたことはなかったが、まだ酒を飲める歳ではないらしく、時折酒を飲むところをうらやましそうに見ていた。

 

「おわった?」

 

「ああ……くそっ、それをよこせ」

 

 メリッサとの言い合いをにやにやしながら眺めていたリーファから酒のジョッキを奪う。一気に呑み干すと、鬱憤をぶつけるように乱暴にテーブルに置く。

 

「あらら、これはおかわりが必要そうね」

 

「あー、もう! なんであいつはあんなに頑固なんだよ。はっきりいって、あいつの実力はうちじゃ持て余してるんだよ」

 

 魔術はその威力や範囲の広さが注目されがちだが、狭い洞窟や崩れやすい遺跡などではその使用は制限される。

 メリッサの扱う魔術は繊細な制御を要するものを得意としている。充満した毒素を吹き散らし、壁に通り道を開け、動きの素早い魔物の足を凍らせる。

 十数年、冒険者を続けてきたがこれができる魔術師は少なかった。

 

「最初は頼りなかったのに、いつの間にかわたしたちを引っ張るようになってたからねぇ」

 

「……何度も助けられた」

 

 それまで黙っていたガンツがぼそりとつぶやく。

 ある遺跡で罠にかかってしまったことがあった。出入り口が閉じられ部屋の中が水で埋まっていく中、メリッサの魔術が天井を打ち抜いて事なきを得た。

 

「そうだよ、全部あいつの努力だ。休みの日も他のやつらに同行して経験を積んだらしいからな。あいつの実力は本物だし努力もできる。わざわざ貴族の家を飛び出して冒険者になったんだ。Aランク目指せばいいだろ。なのに、なんでここに残りつづけんだよ」

 

「さてねぇ」

 

 注目されはじめたメリッサのことを聞いてくるやつが増え始めた。引き抜いてもいいかと直接聞いてくるやつもいるし、メリッサ本人に声をかけている者もいた。

 その誘いをことごとく断っているようだった。その理由はと聞いてみたが、いまだにはっきりと口にしない。

 もっとも、メリッサのことは他のギルドでもお達しがあったらしく勧誘はなくなっていた。

 

「なあ、あいつを辞めさせるのになんかいい手はないか?」

 

「そういわれてもねぇ。わたし自身としてはあの子のこと嫌いじゃないし。そんなにいうなら、あなたがメリッサに嫌われて、こんなとこにいたくないって思わせればいいんじゃない?」

 

「……嫌われる、か」

 

「例えば、あなたみたいなおっさんが言い寄るとかどう?」

 

「おっさんって言うな。まだ二十代だ」

 

「そう? わたしたちエルフから見れば十歳ぐらいは誤差よ」

 

 完全に思いつきらしく、リーファはいたずらをしかける子供のような笑みを浮かべている。

 すると、周囲でさわいでいたやつらも話に乗ってきた。すでにギルド内ではメリッサが貴族の令嬢であることは公然の秘密になっている。

 

「どうせなら、かわいいとか言ってみろよ」

 

「前から気になってたとかもいいな。普段からそんな風に見られてのかって気持ち悪さ倍増だな」

 

「ひと回り以上も離れた男から好意を寄せられるという状況、やばいなぁ……。メリッサは潔癖なところがあるし、もしかしたらひっぱたかれるかもな。あの年頃の女の子の防衛本能はやばいぞぉ」

 

 周囲は勝手に盛り上がり無責任にこちらをはやし立ててくる。酒が入るにつれて、どうすればあいつに嫌われるかということで盛り上がっていった。

 

「おーし、わかった。ぶちかましてやるぜ!」

 

「おー、その意気だ。がんばんなよ~」

 


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