表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/17

プロローグ とある天空女王の末裔

「流行りの服は嫌いかしら?」


 私は天空女王を目指す女、ロムスカーナ。

 王都でも流行のドレスを、目の前にいる田舎臭い芋娘に見せた。


「……いりません」


 だけど芋娘は頭を下に向け、首を左右に振って拒絶する。



 黒い髪に青い瞳。

 田舎臭く整えられていない髪は、ボサボサとまでは言わないものの、あまり手入れがされていない。


 目は大きくぱっちりしていて、顔立ちは整っている。


 日頃から家畜の世話をし、山の合間を行き来する生活を送っているにしては、肌荒れが少なくて白い。



「あらダメよ。女の子なんだから、おしゃれをしなくちゃ。

 あなたはとても美しくなれる原石。

 私がお手入れをしてあげましょう」


 今はただの芋娘でも、磨き上げればとても素敵な女の子になれる。

 私の勘がささやいている。


 だって、彼女は私と同じ。

 かつてこの世界を支配した、天空王国王族の末裔なのだから。


 私は、芋娘の黒髪を櫛で丁寧に撫でつけ、所々にある枝毛をカットしてあげる。

 山での生活で擦り切れ、傷だらけになっている手に、クリームを塗っていく。


 顔にする化粧には少し悩んだものの、素材の良さを生かすために薄めにする。

 口紅を付けて、最後に服を着替えさせる。


「どう、これがあなたよ」


「……す、素敵っ!」


 おめかしをした芋娘を鏡の前に立たせれば、そこには王都でも滅多に見かけることがない美少女の姿があった。


 はあっ、見ていて思わず惚れ惚れしてしまうわ。


「レシアナ、あなたには輝ける美貌があるの。

 女性として、これからはきちんとお肌の手入れをして、お化粧をして、綺麗な服を着ないとダメよ。

 それが淑女としての嗜みよ」


 レシアナとは芋娘の名前……いいえ、もはやレシアナを芋娘なんて言うのは、彼女に対する侮辱にしかならないわね。



「素敵です、お姉さま!」


 そして生まれ変わったレシアナは、感極まった声で言った。


「お姉さま?」


「ダ、ダメですよね。

 ロムスカーナさんのことをそう呼んじゃ」


 お姉さま。

 クッ、なんて甘美な響き。

 美しく生まれ変わったレイアナに呼ばれた瞬間、私の心臓は恋のキューピットの矢に撃ち抜かれてしまった。


「いいえ、これからも私の事はお姉様と呼んでちょうだい。

 私もあなたのことを、本当の妹だと思ってレシアナって呼ぶわ」


「はい、お姉さま!」


 許してあげると、レシアナは喜んで私の胸に飛び込んできた。

 レシアナの手が私の腰に回り、強く抱きしめてくる。


 ハフッ、そんなに強く抱きしめないで頂戴。

 胸が苦しい。


「お、お姉様の胸が凄く大きい」


「レシアナ、お転婆はダメよ。せっかくのお化粧が台無しだわ」


 私の豊満な胸に飛び込んできたものだから、レシアナの顔が私の胸に埋まってしまう。

 そのせいで、お化粧も台無し。


 外見が一流になったとはいえ、まだまた中身は芋娘のまま。

 フフッ、これからの磨きがいがあるってものだわ。


 何しろ彼女は、私と共に未来の天空女王になるのだから。



「ねぇ、レシアナ。ところで私、一つ知りたいことがあるの」


「何ですか、お姉さま?」


「あなたは知っているはずよね。天空城へと向かうための、古い呪文か何かを」


「はい、お姉さま。呪文は……」


 それからレシアナは、天空城へ向かうための呪文を口にしてくれる。




 でも、そのせいで私たちのいる軍事要塞の地下にあったロボットが起動し、まさか要塞を破壊して回ることになるなんて思いもしなかった。

 ロボットは目から繰り出すレーザーで要塞を破壊しつくしてしまった。

 幸いロボットを破壊することには成功したものの、被害は甚大。


 そのどさくさに紛れて、レシアナが空賊のガキに攫われてしまう。


「お姉さまー!」


「レシアナー!」


 空賊に連れ去られる、レシアナの悲しい悲鳴だけが空にこだまする。


 待ってて、レシアナ。

 なんとしても、私があなたを助け出すわ。




 この後、私は要塞の指揮官である将軍を篭絡した。


「閣下、私が政府からの密命を受けていることをお忘れなく」


「ム、ムフフッ、分かっているともロムスカーナ君」


 私がスーツの胸元を少し緩めてやれば、目の前にいる禿げの中年将軍は、鼻息を荒くしながら、手をワキワキと動かして近づいてくる。


「ダメですわ、閣下。ご褒美は天空城に辿り着いてからです」


「ハヒンッ」


 気持ち悪い禿将軍の手をはたき落とした。

 なのに、喜色の混じった声を出す禿将軍。


 まったく、男なんて野蛮な種族は、どうしてこうなのかしら?

 私が天空女王になった暁には、空飛ぶ城にこの世のあらゆる美人の女の子たちを集めて、ブスと男だけになった地上を焼き払わないといけないわ。



 そのためにも、レシアナには何としても私の元に戻ってきてもらわないと。





 その後、なんだかんだあったものの、軍の飛行戦艦を使うことで、私たちは目的の天空城へたどり着き、そこで空賊のガキからレシアナを取り返すことにも成功した。


「お姉さま、怖かったです。ウワーン」


「レシアナ、私の胸の中で好きなだけ泣きなさい。

 おお、よしよし。今まで1人で怖かったでしょう」


 空賊に連れ去られたせいで、レシアナは髪を切られてショートカットになっていた。

 そんなレシアナの頭を、優しくなでて上げる。


「女の命である髪をこんなにするなんて。

 あの空賊どもは、あとで縛り首にしないといけないわ」


 女の敵である男に、慈悲など無用。

 まして、私の大切なレシアナにこんなことをした空賊のガキは、私自ら処刑してやりたい。



 でも、その前に私たちにはやるべきことがある。


 私の中でワンワン泣いて、胸にたくさんの鼻水までつけるレシアナ。


「……」


 私、レシアナの事をとても可愛いと思うけど、ちょっとこれは我慢が必要だわ。


「ゴ、ゴメンナサイ、お姉さま」


「いいえ、今まで1人だったのだから、仕方ないわよ」


 怒らないように気を付けるけど、流石に口の端がヒクヒクと動いたのは自分でも分かった。


「……」


 私が内心で怒っていることが伝わったようで、しょんぼりと俯いてしまうレシアナ。


「レシアナ、落ち込まないで。

 それもこれも、全部空賊どもが悪いのよ。

 あなたが落ち込む必要なんて、まったくないわ」


 悲しげなレシアナを見ていたら、私はなんて小さなことで怒ってしまったのだろうと、後悔してしまう。


 私ったらダメね。

 まだ少女でしかないレシアナの、ちょっとしたやらかしに目くじらを立ててしまうなんて。


「ねえ、レシアナ。

 あなたが落ち込まないで済むように、これからいいところに連れて行ってあげるわ」


「いいところ?」


「そうよ。

 私とあなた。天空城の王族の末裔である、私たちが本来いるべき場所に連れて行ってあげる。フフフッ」




 この後、私とレシアナは天空城の中枢区画へ向かい、そこで天空城の全てを掌握した。



「将軍のアホ面には、心底うんざりさせられますわ」


 そこからは、天空城の強力なロボット軍団を操って、ただのエロ親父である禿将軍を処刑する。


「死になさいっ!」


 さらに天空城に乗り込んでいた、飛行戦艦の兵士()どもを、ロボットに殺させていく。



「この世に、男なんて生き物はただの1人もいらないわ。

 全ての男を滅ぼして、私とレシアナで女の子だけが生きていく世界を作り上げるのよ」


「お姉さまっ!」


 この世の全ては、女の子の為にある。

 天空城の力を使って、男なんてケダモノは、一匹残らずこの世から駆逐するの。



 そんな中、飛行戦艦が動き出して、あろうことにも私たちのいる天空城に向かって、砲撃を仕掛けてきた。


「まあ、この私と戦おうというのかしら?」


 戦おうとしなければ、今回は見逃してあげてもよかったのに、男とはなんて愚かな生き物なの。


 天空城のロボットに総攻撃を命じれば、ロボットの放つレーザー攻撃が飛行戦艦に次々と命中していく。

 船体の各所が火を噴き、船体の中央部分から真っ二つに折れていく飛行戦艦。


「見てみなさい、レシアナ!男がゴミのようだわ!」


 アハハハ、最高のショーだわ。

 飛行戦艦から、次々に男が落ちていく。


 これほどの愉悦はないわね。


「お、お姉さまっ!」


 だけど、男どもが死んでいく光景に愉悦を覚える私とは対照的に、レシアナは怯えていた。


「どうしたのかしら、レシアナ?」


「こんなの人間のすることじゃないです!」


「きゃあっ!」


 まだ幼いレシアナには、衝撃が強すぎたらしい。

 私が手にしていた、天空城を操るための天空石をレシアナに奪われてしまう。



 そのまま、私の元から逃げ出すレシアナ。


 どうして私から逃げようとするのか?

 醜い男を処分しただけなのに?



「レシアナ、ダメよ。いい子だから、石を返しなさい」


「いやー、来ないでー」


 ――ドゴンドコン、ボカーンッ!


 そしてあろうことか、中枢部の壁を拳で何度も殴りつけて、壁を破壊してしまうレシアナ。


「ちょっと待って。レシアナってあの見た目で、ゴリラ並の力を持っていたの!?」


 見た目はただのか弱い女の子にしか見えない。

 でも、天空城の中枢部の壁を拳で破壊するとか、どう考えてもゴリラ並のパワー。



「いいえ、私の可愛いレシアナがメスゴリラのはずがないわ。

 レシアナ、いい子だから石を返しなさい」


 私はかぶりを振ると、逃げ出したレシアナの後を追いかけることにした。


 でも、念のために拳銃をいつでも撃てる状態にしておきましょう。

 素手でレシアナに襲われたら、勝てる自信がまったくないわ。





「キャー、お姉様助けて―!」


 だけど、逃げた先でレシアナが私に助けを求めてきた。


「……」


 私が急いで走って行くと、そこは天空城の玉座の間だった。

 そこではあろうことにも、空賊のガキがレシアナに大砲としか表現できない銃を突き付けていた。


 クッ、空賊のガキが生き残っていたなんて、なんて失態。



「レシアナ!」


「お姉さまっ!」


 空賊に捕まったレシアナを、今すぐ助け出してあげたい。

 レシアナが必死に手を伸ばしてくるけど、それを空賊のガキが掴んで離さない。


 ……あのレシアナの怪力を抑え込めるとか、あの空賊のガキも、どういう力してるのよ!

 見た目はただのチビガキのくせして、まさかオスゴリラなの!?



 でも、私はレシアナを人質に取られてしまって、このままでは身動きが取れない。


 私の銃の腕前なら、100メートル先にあるコインを撃ち抜くこともできるけれど、万一レシアナに当たってしまっては大変。


 女の子の柔肌に傷がついたら、一体どうするの!?



「空賊のガキ、3分間待ってあげるわ!」


 レシアナを人質に取られてしまった私は、何とかこの状況を打開する方法を考えなければならない。

 そのために、時間稼ぎをすることにした。


 いざとなれば、銃でガキを撃ち殺せばいいけれど、それは最後の手段にしておく。


 レシアナのお肌は、空賊の命なんかより遥かに貴重なのよ。


 でも、それが失敗だった。




「あぁぁ、目がぁ、目がぁーーー、ああああーーーー」


 3分の間に、空賊のガキはレシアナから天空城の自爆呪文を聞き出し、あろうことにもそれを使った。

 その際に発生した強力な光に、私は目を焼かれ、何も見えなくなってしまう。


「ああ、ああああー、レシアナー、どこにいるのー!?」


「お姉さまーっ」


 こんなことってありえないわ。

 天空城が自爆してしまい、私の大切なレシアナを助けることもできないなんて!


 その後、天空城全体を襲う地響きが大きくなり、私の足元の床が崩れ落ちた。

 私の体は重力に引かれて、遥か下方にある海へと落ちていく。


「レシアナー!」


 私は空賊のガキからレシアナを助けることができなかった。

 そして最愛のレシアナの名を叫びながら、海面へ叩きつけられる。



 そこで、私の意識は終わる。

 私の人生が、幕を閉じて終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ