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エドワード2

もうすぐアデールのデビューだというとき。

義父から結婚の打診を受けた。

「アデールと結婚する気はあるか」

「はい」

何も考えずに、すぐに返事をした。

アデールが、妻になる。心臓がドクドクと大きな音を立てる。あの可愛いアデールを、妻としてこの腕に抱き、キスをして……

「そうか。良かった。アデールを娶らずとも、公爵家を継いでもらう気でいる。だが、そこにアデールも一緒であれば、こんなに嬉しいことはない」

トリティティ公爵家は、大きな権力を持った家だ。もちろん、その親族も、力を持つ。

母と結婚し、エドワードを息子として迎えるときも、たくさんの妨害があったと聞いている。

それもすべて退けて、義父は母を望み、エドワードを息子とすることを望んだ。

まあ、こうしていられるのは、トリティティ公爵家がこれ以上力をつけるのを妨害する動きもあったからだと聞く。

力のある家と結びつき、さらに勢力を広げることを案じられた結果だ。

義父も、貴族の力関係が崩れてしまえば、国が腐敗すると考えている。

そんな、あり得ないほどの幸運に恵まれ、エドワードは、本来ならば手が届かない素晴らしい女性であるアデールを妻にすることが約束された。


――だが、それは夢だった。


デビューの日。

美しく着飾ったアデールをエスコートする役目を担ったのはエドワードだった。

家族としてデビュタントをエスコートするのは、ごく自然なことだ。

しかし、両親ではなく、義理の兄。

これは、トリティティ公爵家は、二人の婚姻を発表する場でもある――はずだった。

デビューの日、アデールは今にも泣きそうな悲壮な顔をしていた。

「アデール。体調が悪いのか?」

心配しても、アデールは首を振るばかりで何も答えない。

舞踏会の会場に着いたが、これ以上無理をさせてまでここに居るべきだろうか。

エドワードは帰ることについて考えていた。

けれど、アデールはすっと背筋を伸ばし、堂々たる姿で会場に入った。そして、エスコートしていたエドワードが邪魔だとばかりに睨み付けて他の貴族と交流を始めたのだ。

トリティティ公爵家令嬢。

彼女が目線を送れば、誰でもアデールと知り合いになろうと近寄ってくる。

エドワードが近づくと、邪魔だと言わんばかりに遠ざかっていく。

アデールの体調を心配しても無視をされる。

「アデール……どうしたんだ」

デビューの日、きっとアデールは緊張するだろうと思っていた。

だから、アデールをずっと近くで支えていようと思っていたのに。

ふたを開けてみれば、邪険にされて、無視される始末。

そして、エドワードは、アデールが王太子にすり寄っていく様を見て分かってしまった。


――アデールだって、格好いい男性と恋愛したいよな。


エドワードは、お世辞にも格好いいと言われる容姿はしていない。

体が大きく、黙っていると厳しい顔をしているので、できる限り柔らかい態度をとるように心がけていた。

だが、そんなもの、本物の貴公子の前では比べるまでもない。

きっと、アデールは、エドワードとの結婚の話を聞いて、絶望したのだ。


それから、アデールは家族にも冷たい態度をとり始めた。使用人にも声をかけず、高飛車な物言いをするようになった。

反面、舞踏会では男性に多く声をかけ、特に王太子を追っているようだ。

エドワードとの結婚話に、絶望するほど嫌がると思っていなかった。

嫌だと口にしてくれれば、無理強いするつもりはなかったのに。

舞踏会のエスコートは相変わらず、エドワードが務めた。

ただ、最初だけ一緒にいて、すぐに離れていくアデールのお目付け役。

どんなにアデールが気に入った男性がいたとしても、既成事実は作らせない。既成事実で結婚するほど、アデールは相手に困らないはずだ。

貴族の力関係のせいで、王太子は難しいが、それ以外ならば。アデールが相手を決めたら、結婚できるだろう。

デビューから一年が経過した。そろそろアデールも婚約者を正式に決めて、結婚してもいい時期だ。

舞踏会のエスコートという名のお目付け役は、そろそろやめた方がいいだろうか。

アデールは、意地になっているかのようにエドワードを睨み付けていることがある。

エドワードも、アデールから邪魔にされることが嫌で避けているので、他の貴族からは二人の仲は悪いと思われている。

本当だったら、とても良好だったはずなのだ。

しかし、エドワードとの結婚話のせいで、アデールの態度が変わってしまった。

エドワードと結婚させられないと分かれば、元の甘えん坊なアデールに戻ってくれるのだろうか。

舞踏会会場から出て行くアデールを見送って、エドワードはトリティティ公爵家に準備された休憩室に籠った。

同情的な視線も、公爵家を狙う野心的な視線もたくさんだ。

アデールが結婚したい相手を見つければ、エドワードにもそれなりの相手を見繕うだろう。

そこに、エドワードの意思は必要ない。

義父に任せてしまおう。

アデールでなければ、結婚したい相手などいないのだから。

部屋の窓から外を眺めると、外灯に照らされた幾人かの男女が見える。あの中に、アデールがいるかもしれない。

公爵令嬢としての一線は守ってくれるだろうか。

もう、いっそのこと、誰かに決めて欲しい。とどめを刺してくれないだろうか。


エドワードは、一度夢を見てしまったからこそ、辛かった。

アデールが家族に、使用人にあんな態度をとるほど、エドワードとの結婚を嫌がったのだ。


苦しいため息を吐いたとき、ノックもせずに頬を腫らしたアデールが入ってきた。


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