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義兄が継ぐために

「……アデール?」

そこには、エドワードがいた。窓の傍に立って、外を眺めていたようだ。

これから、すぐに王に謝罪文書と、アデールを反省のために修道院に贈る旨の手紙をお送りしなくては。

エドワードに言って、すぐに手配をしてもらうべきだ。

だけど……頬が痛い。じんじんとしびれるような痛さが、熱を持っていることに気が付く。

「その顔はどうした?赤くなっている」

形の良い眉をひそめて、心配げにアデールのことを覗き込んでくる。

背の高いエドワードは、アデールと立って話すときは、決まって腰を折って、彼女の目を覗き込みながら話すのだ。

修道院に送ってもらう。今、自分が何をしてきたのか、しっかりと話すべきだ。

しかし、

「……いたい」

じわりと涙が浮かんで、弱音を吐いたら、もうだめだった。

顔を叩かれたのなんて、初めてだ。しかも、男性に。あんなに強く。

アデールは、思わず目の前の大きな体に抱き付いて泣き声をあげてしまった。

エドワードはきっと困っているだろう。

だけど、何も言わずに頭を撫でてくれている。

慌ただしいノックの音がして、すぐに扉が開く。

「アデール様。氷を貰ってまいりました。……ああ、エドワード様。ここにいらしたのですね。よかったです」

アデールがこの部屋に向かった時から、すぐにカエラは冷やすものの準備に走ってくれていた。

カエラがタオルに包まれた氷を差し出してくれる。

それをエドワードが受け取り。優しくアデールの頬に押し当てた。

「座ろうか。どうして、顔が腫れるような事態に?」

エドワードは半分抱きかかえるようにして、アデールをソファーに座らせてくれる。

大きな体が気持ちいい。

エドワードに寄りかかりながら、頬を冷やされて、もう動きたくなかった。

「アデール?」

きちんと計画通りに進んだ。

少しやりすぎたような気がするけれど、修道院に行く理由としては充分だ。

エドワードに言えば、すぐに手配してくれるだろう。

重責にくっついてきた、したくもない結婚。

そのアデールが排除できるのだ。きっと、あっという間に整えてくれる。


そして、アデールは二度とこの腕に抱きしめられることはない。


もう少しだけ。もう少しだけ……思い出が欲しい。

「何でもありません」

涙声で言っても、エドワードを心配させるだけだ。

でも、もう少しで本当のことを言うから。もう少し……王太子が動き出す前には……。


「カエラ」

「王太子殿下に殴られておいでです」


……なんて風に感傷に浸っていたのに、エドワルドに呼びかけられたカエラがあっさりとばらしてしまう。

思わず睨み付けてしまうと、同じだけ不満げな顔で見返された。

そして、アデールの言動をつまびらかにされてしまった。

どうして一言一句覚えているのだ。

無駄に優秀なカエラをもう一度睨んでから、エドワードから離れる。

「そんなに王太子殿下が好きなのか?嫉妬に狂うほど?」

見上げた顔は、困惑しか浮かんでいない。

アデールを責めたり、公爵家に泥を塗ったなどという怒りが見当たらないことにホッとする。

「いえ。殿下……というか、私より偉い人に怒られるようなことをして、修道院に行こうという計画がございまして」

「…………………………何のために?」

エドワードは眉間に皺を刻んで、しばらく考えた結果、分からなかったようだ。

こてんと首をかしげてアデールを見下ろす。

アデールは今こそこの綿密な計画を公表するときだと、胸を張る。

父に言っても、多分聞き入れてはくれないから、エドワードにやってもらうのだ。


「お義兄さまが、公爵家を継ぐためです!」


「…………うん?」

さらに深く首を傾げられた。

「いや、継ぐ気でいるよ。アデールが殴られることとの因果関係はないだろう?」

殴られることは想定外だった。ついでに、殴り返すほど失礼なことも、するつもりはなかったのだ。

「お義兄さまが公爵家を継ぐ際に、私が邪魔になるので、排除しようと思います」

この一年間、一人で進めてきた計画。

これから、アデールは修道院に旅立つのだ。

この後はエドワードには公爵家を継いでもらう。そして、アデールは修道院を脱走するという計画が残っているが、それは教えられない。阻止され、公爵家に連れ戻されたら、今までの行動が台無しだ。

「アデールが邪魔なはずがないだろう。アデールは私と結婚して……」

「お義兄様、それはいけません!お義兄様は、公爵領を治めてくださる方です。きちんと愛する女性と共にあらねば」

エドワードの言葉を遮って、アデールは声をあげた。

やはり、エドワードはそのつもりだったのだ。義務として、アデールを娶るなどと。

「愛する……?アデール、私にそんな女性が他にいるようにみえたか?」

エドワードがアデールに体を寄せてくる。

アデールは、エドワードの問いかけについて考えてみる。

「いいえ。でも、これだけの美しい方がいるのです。一人や二人、候補がいてもいいのでは」

舞踏会には若く美しい女性がたくさん参加している。

アデールが邪魔さえしなければ、エドワードには素晴らしい結婚相手が現れることだろう。


「お義兄さまが幸せな結婚をするには、私はどうしても邪魔でしょう?何もせずにのほほんと生活している私が、重責を担うお義兄さまの足かせになってはいけません」


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