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新居

変な雰囲気になって終わってしまった。


だから、後から聞くつもりだったのに。


唇を尖らせるアデールの頬を撫でて、エドワードは微笑む。

「ここで言うことでないと思っていたなら、後から私に聞くから大丈夫だという言い方をしてくれ。それだけで分かるから」

言われて、気が付かされた。

エドワードにだけ言うと言えば、それ以上聞かれることはなかっただろう。アデールも、気になりすぎて早く聞きたかったせいだ。

「うう……ごめんなさい」

「うん。恥ずかしかったが、まあ、大丈夫だろ」

そう言って、エドワードはアデールを抱き寄せ、こめかみにキスを落とす。

驚いて見上げると、照れくさそうに微笑んでいるエドワード。

エドワードの大きな手が、アデールの頬を包み込む。親指だけが、アデールの目を押さえたせいで、反射的に目を閉じる。

ちゅっ……と可愛らしい音がして、唇が離れた。

まぶたから親指が離され、目を開けると、今までにない距離にエドワードがいた。


「――――――っっ!?」


アデールは息をのんで、しっかりと感じてしまった唇の感触に意識を奪われる。

これが……!

これが、婚約者の距離か……!!

エドワードは困ったように首を傾げて、もう一度まぶたを触る。

さっきと同じように目を閉じると、今度はもう少し長く唇が触れ合う。

唇が降れたまま、まぶたから親指は放され、そのまま頬を撫でられる。

アデールはピクリとも動けないまま、エドワードの唇を受け入れ続ける……が、苦しすぎてグイッと彼の体を押し返した。

抵抗もなくエドワードはアデールから離れる。

どうしたのかと、きょとんをアデールを見ているが、どうして苦しそうにしていないのか、不思議でならない。

「ちょ、ちょっと、息が続きません」

ぜいはあと大きく息をしながら、アデールは少しエドワードと距離をとる。

「……息」

小さく呟いて、エドワードはふっと笑う。

「深呼吸をしてからだったら、もう少し大丈夫かと……!」

「いや、一週間後にきちんと教えよう。今は、我慢できなくなったら大変だから」

アデールの提案に、エドワードは彼女の頭を撫でて嬉しそうにする。

息を長く止められるコツでもあるのだろうか。

息を止めている間が苦しいくらいなら、我慢できるのに。

アデールが考えていることが分かったのか、エドワードは笑みを深める。そして、アデールを促して、リビングを出る。

「アデール、私が数年前から別棟をいただいたことを知っているだろう?」

その別棟への連絡通路を歩きながら、エドワードが説明していく。

元々あった執務棟を、エドワード専用として、父が本棟へ執務室に移したことは知っている。

アデールを避けているとき、エドワードはこちらから戻ってこなかった。

小さな頃から、こちら側は、仕事の場所だから、子供は入ってはいけないと言われていて、同じ敷地内だというのに、アデールは別棟に行ったことはほとんどない。

連絡通路が終わった途端、雰囲気が変わって、アデールは目を瞬く。

別棟に来たのは、小さな頃、家庭教師に父の仕事姿を見学に連れて行ってもらって以来だ。

その時は、殺風景だった廊下が、柔らかな色の壁紙に貼りかえられ、可愛らしい雰囲気になっている。

「こちら側が、私たちの新居として準備している。アデールの私室と寝室は、趣味もあるだろうから途中だが、一週間で、できるだけ整えよう」

ただの執務棟は、新婚夫婦の新居として、準備が進められてきていた。

アデールが結婚しなかった場合は、このまま執務棟として使うだけだったらしい。

アデールの私室とエドワードの私室から繋がる真ん中に、寝室がある。

夫婦の寝室だ。

まだベッドにシーツがかかっていなかったり、家具に布が被ったままだったりするが、彼の言うとおりに一週間で使えるようになるだろう。

「他に気になることは?」

「あとは……初夜の……っお、お義母様にお願いします」

初夜の服をエドワードに言ってどうする。

「……そうしてくれ」

エドワードが頭を押さえて項垂れてしまった。

「ああ……ついでに、母に閨のことを少し聞いておいてくれ」

「はい!」

元気に返事をしたアデールに苦笑を返し、エドワードは残りの部屋も案内した。


一週間後、神官が公爵邸を訪れ、結婚は滞りなく成立した。

アデールは義母から与えられた閨の知識に目を回し、実際に執り行った初夜での行為に羞恥で死にそうになった。

「初夜を楽しみにしていただろう?どうだった?」

意地悪くエドワードから聞かれて、アデールはベッドに沈み込んだ。

長くキスをする方法も教えてもらい、『我慢』がどういう意味かも教えられた。

……無知って怖い。

「……意地悪です」

アデールが真っ赤になって睨むと、エドワードは甘く目を細めて彼女にキスを落とした。


急なことだが、父が頑張ってくれたおかげで、三日間の結婚休暇をとることが出来た。

二人きりで三日間をゆっくり過ごし、エドワードは仕事に戻る。

エドワードは後継と認められ、さらに忙しくなった。

だけど、帰ってくるのはアデールがいる別棟。

それだけで嬉しくて、アデールはエドワードがこの家に来る前にしていた領地運営の勉強をもう一度始めた。少しでも、彼の助けになれるように。

アデールは社交界にほとんど出ることはなくなったが、夫婦そろって招待された場合などは、上品に着飾って出席することもあった。

結婚前のアデールとの違いに、周囲は、最初は驚いていた。すぐに化けの皮が剥がれると思っていた人も、舞踏会に出席しても、できるだけエドワードの傍にいたがるアデールを好意的に見るようになった。

アデールが奔放な令嬢を演じたのは、デビュー後一年間だけだ。結婚して落ち着いたアデールを見た人たちを、あの一年を若気の至りなのだと結論付けた。


「アデール」


甘く柔らかく、エドワードは妻を呼ぶ。

アデールは花がほころぶように満面の笑みを浮かべると、愛する夫に寄り添うのだ。

無理矢理結婚させられたかに見えた令嬢は、幸せなのだと、貴族中が知ることになるのは、もう間もなくの事。



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