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謁見

次の日、父とエドワードは正装に身を包んで城に出かけていった。


義母にお茶にしようと誘われ、そのまま、一日中二人で過ごした。

義母は何も聞かず、時折、庭の花がきれいだとかいう話を聞かせてくれた。

二人でぼんやりと庭を眺めていると、門から馬車が入ってきた。

今朝、二人が乗っていった馬車だ。

慌てて立ち上がって外を見ていると、やはり、父とエドワードが降りてくる。

「お義兄様が帰ってきました」

「あら、早いわね」

アデールの言葉に、義母もあわてて立ち上がる。

まだ夕方と呼べるような時間になっていない。

アデールと義母は、急いで玄関に向かう。

そこには、ジャケットを執事に渡しながら何かを話している父と、後ろで苦笑いしているエドワード。

階段を下りていくと、父がチラリとアデールを見上げて舌打ちをする。

――って、ええ?舌打ちした?

初めて見る父の様子に、アデールは驚きが隠せない。

父は、目を丸くしているアデールを無視して、エドワードを振り返る。

「お前が説明しろ」

「了解です」

エドワードは困ったように笑いながら、アデールに手を伸ばす。

よく分からないけれど、求められるままにエドワードに近づくと、柔らかく頬にキスをされる。

「ただいま」


――この対応も初めてだ。


デビュー前の子供と認識されていた時でさえ、キスでお帰りなさいは、したことがない。

ただ目を見開いて固まることしかできないアデールを見て、エドワードはくすくす笑う。

「私とアデールの婚約は認められたよ」

すぐには反応できなかった。

家族を責めないように心の準備を必死でして、不安を押し殺して……喜ぶ準備はしていなかった。

「ありがとうございます」

じわじわと涙があふれてきて、声もかすれてしまった。

「ああ。それでね?」

腰に腕を回されて、歩くように促される。

先を見ると、父がざかざかと歩いていき、その後を義母が戸惑いながら追いかけていっていた。

「結婚式は、一週間後になったんだ」

「……はい?」

エドワードの声が聞こえたのか、義母も振り返る。

「ちょっと、もめてしまってね」

「もめたで済ませられる話ではないでしょう!?」

義母の珍しく大きな声が聞こえた。

「そうなんだけどね」

エドワードは首を傾げて義母に応えてから、アデールを見下ろす。


……一週間後。結婚式。エドワードと、アデールの。結婚。


単語が頭の中に流れて行く。

一つ一つの単語が、思考回路に到達するたびにアデールの頬は上気していって、目がキラキラし始める。

「アデール、嬉しい?」

アデールの反応を、半ば予想していたようにエドワードが聞く。

「はい!」

嬉しいに決まっている。

エドワードと結婚できるなんて、夢に見ることさえおこがましいはずだったのに。なんと、一週間後!

「お義兄様!結婚休暇は取れますか!?」

「いきなりそこか」

突っ込みつつも、目線を上に向けて、「できるだけ取ろう」と答えてくれた。


王との謁見は、最初は穏やかに始まったらしい。

王は、女性に手をあげた王太子に苦言を呈し、ケガをしていないかと心配してくれるほどだったそうだ。

トリティティ公爵として提示した娘の処分に、王は納得し、それで終わるはずだった。

そこに、王太子が口をはさんだのだ。

曰く、「トリティティ公爵令嬢から、さんざん誘惑されていた。自分は断り続けていたにもかかわらず、つきまとわれた。他の令嬢といるときに嫉妬して向かってきたから処断を下したまで。それをやり返した挙句、大げさな演技までするとは何事か」とのこと。

王太子にそう言われては、王も判断に迷うところ。

完全に、王太子に何の非もないのに王族に手をあげたとなれば、公爵家が提示した罰では軽い。

ただし、アデールの頬の腫れは、多くの目撃者がいた。

叩かれた時にいた衛兵と使用人、王太子本人の護衛。もちろん、お相手の令嬢もいたが、気が動転して記憶がありませんと、証言はしてくれなかったそうだ。

しかし、使用人一同が全員、アデールが叩かれ、王太子と対峙している間に赤くなっていったということを証言している。

女性に手をあげたという光景が衝撃的すぎて、尾ひれが幾重にも連なって広がっていっているらしい。

王太子がいくら正当な処断だったと訴えても、令嬢に対してやりすぎだという感は否めない。

調停役として謁見の間に控えていた宰相がその説明をすると、王太子はエドワードを指さして言った。

「どうせ、その男だって、アデールの体が欲しいだけで考えた罰だ!」

その場の全員が驚きに固まっているのを気が付きもせず、王太子は訴える。

「だったら、私の妾……いや、それでは罰にならないな。いっそのこと、使用人にすればいい!私自らが可愛がって……」

そこで、王自らが「黙れ」と命令した。

その王太子の下品な台詞で、トリティティ公爵の訴え通りになることは決定したようなものだった。

アデールがつきまとっていたことも、王太子が断り続けていたことも、信憑性が怪しい。

しかし、そんな訴えをしてまで、王太子がアデールを欲していることが、王は危惧したのだ。

公爵家の令嬢を、妾、ましてや使用人になどできるはずもない。もしも何かの拍子に王太子が手を出して、令嬢が孕んでしまったら、王太子妃になってしまう。

トリティティ公爵家から王太子妃を出すことは、貴族の力加減的によろしくない。

さらに、アデールはあまり評判が良くない令嬢だ。

彼女が子を孕んで、王太子の子だとわめき出すこともあるかもしれない。そうなれば、内乱が起こるかもしれないと、王は心配した。

だから、罰に条件が加わった。

「結婚は即時行うように」

それに対して、父とエドワードが「あんまりだ。さすがに結婚式の準備をさせて欲しい」と訴えた。しかし、それは認められなかった。

「処分される身でありながら、華やかな結婚式を望んでいるのか」

王からの厳しい言葉に、二人は要求を低くせざるを得なかった。

盛大に行うつもりなどなかった。

しかし、せめてウエディングドレスを仕立て、美しい花嫁として着飾ることくらいは……。

父とエドワードが訴えたが、叶えられたのは、『即時』が『一週間後』に変わったことだけ。

そして、その一週間後までアデールは決して屋敷から出さずに、家族以外の誰にも面会もさせないという、まさに監禁状態を保てと命令が下った。

今更、アデールが王太子を誘惑するつもりがないことは、父とエドワードしか知らない。

そんなこと、説明できるはずもない。

何を言っても、王は条件を覆さなかった。


結果、式は一週間後と決まったのだ。


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