ウルトラショート怪談 足音が……
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
雪を踏みしめる音が、さっきからずっとついてくる。東北生まれの彼にとっては耳慣れた音だ。彼はぶるっと身震いして足を速めた。
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
彼はあえて振りかえらなかった。足音が聞こえないふりをしてきた。それがこの世のものではないとわかっていた。しかし、このままでは仕事どころじゃない。
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
彼は足を止め、思いきって振りかえった。
ぎらぎら照りつける日差しがまぶしい。
プールサイドには、多くの水着の男女が寝そべっている。プールでしぶきをあげて子供がはしゃぎ、色あざやかなビーチボールが宙を舞う。泳者専用のコースでは、列をなして泳ぐ水面に陽光がきらめく。
監視員の彼は、濡れたプールサイドを歩きはじめた。
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
了