保健室に棲まう麗人
「な、七峰お前、どこから湧いて出てきやがった!」
俺にお姫様だっこされた夕日は、手足をばたつかせながらそう聞いてくる。
「そんなの決まってるじゃ無いですか夕日先輩。俺はいつでも夕日先輩の側にいるんですよ」
「うーわ、キモ、キショッ! 私の熱烈なファンでもそこまでしないわよ!」
「安心して下さい先輩。俺はファンではなく、あなたを監視する警備員です。ようは要注意人物ってことです」
「私の何処が要注意人物だっていうのよ!」
「やれやれ、どうやら記憶が曖昧なようだ。保健室でゆっくり休んだ方が良いですね」
「話を逸らすな、勝手に人を障害者認定するな!」
なおも暴れる腕白な子犬をがっしりと抱えたまま、俺は保健室にまで辿り着いた。
「失礼しまーす。すみません、この人、頭おかしくなっちゃったみたいなんで、しばらくベッド貸してくれますかーーーーって、誰も居ないのか」
スライド式の扉を開いて中に入るも、もぬけの殻。この時間に保険室の先生が保健室にいないなんて、職務放棄をいいところだまったく。
「じゃあ夕日先輩、このベッドでお休みになってくださーーっておおっと」
「離せ、早く離せ! お前なんかに寝かしつけられてたまるものかって、えーーーー」
俺がベットに夕日を降ろそうと気を緩めた瞬間を、夕日は逃さなかった。今なら縄がほどけると思った彼女は力を入れて俺の抱擁から抜け出そうと藻掻き、そしてーーーー
「あ、」
「ふぇ?」
俺は夕日に覆い被さるように、ベットに小さな少女を押し倒していた。
俺の太ももに彼女の華奢な太ももが当たり、捲くしあがったスカートからは可愛いパンツが覗く。じゃれ合う子犬が万歳するように、彼女も腕を振り上げた状態で、シャツとスカートの間からも人肌が露わになる。掌では無く肘をついたため、お互いの息がかかるくらいの距離に夕日の顔がある。
数秒の間、俺と夕日は無言のまま、互いの顔を見つめ合っていた。
「ひっーーーー」
唐突に、夕日が悲鳴を上げる予兆のように、息を短く吸った。俺は逃げようにも逃げられない体勢で、今から発せられるサイレンを直に浴びると、そう思っていた。
「あら、私の知らないうちに、二人はそんな関係にまで発展していたのね」
俺と夕日しかいないはずの保健室に、聞こえてくるはずのない声が響く。俺たちが保健室に入ってから誰かが入ってきた気配は一切無かった。しかしその艶っぽく、色っぽい声は確実に近くにいる。
その結論に至った時、ベッドで重なり合う俺等は同時に、カーテンで仕切られた向こう側のベッドに顔を向けた。
俺はゆっくりと、白い布の仕切りを掴み、そして引いた。
「ーーーーーーー!?」
「ーーーーーーーか、会長!?」
なんとそこにいたのは、ベッドに手をついて横たわる、式部紫生徒会長であった。