城山さんにはお城のような、お山のようなおっぱいがあります。
結局のところ昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったせいで、夕日が妹の件を知っている事については確認が取れなかったわけだが、こうなってくると本当に近いうちに妹は生徒会に加入させられてしまうだろう。
俺の頭の中は午後の授業の間、どうやったらあの無敵艦隊紫号と他二名を妹から遠ざけることが出来るかで一杯になっていた。
基本的に青葉高校では一年生から順番に一階~三階へと教室が当てられており、授業も体育や芸術科目を除けば各教室で行われる。
つまり会長と夕日が授業の合間に接触を図ろうとする場合は両端にある階段を見張っていれば未然に防げることになるが、俺の身体は唯一にして一体。これを抜け目なく実行するには味方になってくれる存在が必要だ。
俺はクラスを見渡して味方してくれそうな人物を探す。
「うーん、そんな都合の良い奴なかなか居ないよな・・・・・・。よし、この件はあいつに頼むしかないか」
「ちょっと優理、どうしたの? そんなに怖い目で教室中を見渡して! 命でも狙われてるのか? ウチにできることなら力貸すよ」
俺の動きを不振に思ったのか隣の席の山吹色のショートヘア女子が、自慢の胸をプルンと振るわせながら先生にばれないように声を抑えて聞いてきた。
「確かに敵は強大だ・・・・・・俺たち兄妹の命の危機と言っても過言では無いだろう」
「そうか・・・・・わかった。それで? ウチは何をしたらいいんだい?」
「あぁ・・・・・・。とりあえず待機だ」
「オーケー分かった。先生がそろそろ振り向くから一旦切るよ」
「あぁ、今俺と目が合った、あの問題と一戦交えてくる」
俺と隣のおっぱいは無線通信をするかのように会話をし、俺は先生に名前を呼ばれて黒板に向かった。
「この問題はちょっと難しいからねー。青葉のプリンス君でも手こずるかもね」
すきっ歯を覗かせながらニヤリと口を横に開いてハゲ教師は眼鏡に触れる。
このハゲ眼鏡の数学教師は何かと俺に難問と難癖を吐いてくるが、学年トップなうえに既に大学の勉強までこなしている俺にとっては愚問だ。
皆の視線を集めつつ、白いチョークで黒板に答えを綴っていく。
その後ろ姿でさえも青葉のプリンスは凜々しく華麗で注目の的になるのだ。
「先生、これでどうでしょうか」
「う、うむ・・・・・・。正解だな・・・・・・」
眉がくっつくほど顔を引きつらせて先生は俺に完全敗北した。
たかが人生の先輩、たかが教師、ってだけでこの俺と張り合おうとすること自体が愚民の成すことよ。
能ある鷹は爪を隠すとはいうが、能なしでもせめて鷹で在れ、と俺は思う。
こういう時なんて言うんだっけな・・・・・・。あぁ、そうだ、「ねえ今どんな気持ち?」だ。
ま、俺はそこまで性根が腐っていないし、格下を相手にするなんて無駄なことはしないさ。
俺はハゲ教師には目も暮れずに自分の席に戻ろうと廊下の方を見るようにして振り返った。
その時偶然にも教室移動をする生徒の群れが通りすぎ、その中に他の女子生徒を両サイドに置いて歩く黒髪ロングの妹の姿が目に入ってきた。
なんだ妹にもちゃんと友達はいるみたいだな。安心あんし・・・・・・!?
通り過ぎた妹を心の中で心配をしていたお兄ちゃんの目に飛び込んできたのは!
紫色の・・・・・・ではなく茶色いツインテールの切れ端。
「あいつまさか授業中に妹に接触を図る気か!」
背が小さいことを利用して教室の扉の高い位置にある窓から見えないように、教室スレスレの近さを通っていくという選択の秀逸さ。
あれは完全に夕日の尾だ!
俺はその尻尾を確認した瞬間に、「俺の隣の席に緊急事態が発生した!」と手で合図をしてからハゲ教師に向けて
「先生、保健室に行ってきます!」
そう発して教室を飛び出そうとした。しかし
「まて優理。そんなに元気良さそうに保健室に行く奴を俺は今までの人生で観たこと無いぞ!」
ハゲ教師はごもっともな疑問を投げつけてきた。
クソっ! こんな時だけまともなこと言いやがって・・・・・・。
俺は心の中でそう思いながらも全力のスマイルをハゲに、ではなく教室のみんなに向けて
「青葉のプリンスはトイレで大きい方はしないものさ!」
要約すると、どんな時でも元気でいるのが(以下略)
そう言い放って教室を飛び出して、妹の後を追うチワワを追いかけた。
「先生! 私もお腹痛いです!」
「城山お前もか?」
「はい! じゃあ保健室行ってきます!」
先生の返答も待たずして城山おっぱい、じゃなくて城山千笑も教室を飛び出していった。
「まったく、後五分も待てないほどなのか俺の授業は!」
年下である生徒に翻弄された卵は一瞬でゆで卵になっていました。
そしてこの日、数学の課題はいつもの三倍に増えたとさ。