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式部紫生徒会長だぞ?

「で、会長。俺に何の用があるっていうんですか?」

 朝日と夜風は生徒会室の前で見張り役として待機させられ、俺と会長の二人きりとなったところでようやく本題に入った。


「それよりその腕平気なのかしら」

「ま、まあ一応。綺麗な歯形が出来ているくらいです」

 俺は夕日に噛まれた腕を冷やすために夜風が保健室から持ってきてくれた氷袋をごろごろと転がす。


「そう、将来は夕日専門の歯医者にでも就職したらいいかもね」

「人間の体で歯形を取るなんてよっぽど献身に検診する医者ですねそりゃ」

「あら、私は好きよ、そういう自己犠牲の精神」

「コレは犠牲でも何でも無いですよ。ただの理不尽」

「理不尽も重複すれば理不尽と感じなくなるものよ」

「それはもう超理不尽だ。感覚麻痺を疑わざるを得ない」

「歯科の次は神経外科を所望しているのかな?」

「そっち路線ばかりに舵を切らないでくれます? 俺は医者になんてなりませんから」

 刹那、会長の黒い瞳が俺の瞳に照準を合わせる。


 しかし俺はすぐさま視線を逸らして、

「そんなことより呼び出した理由はなんですか」

 そのまま話題も逸らした。


 会長と三秒でも見つめ合ったら完全に裸にされてしまう。

そんな気がしてならなかった。


 会長は「そうね」と口に手を当てながら俺に近づいてきて、

「全部脱がしたい・・・・・・かな」

 ペロっと舌を覗かせてから、俺の耳元まで顔を近づけて囁いた。

 しかし俺はこれくらいのことには怯まない。


「会長、それは俺をじゃなくて、妹を、ですよね」

「ふふふ。最初から気付いているのに私の口から聞かないと満足出来ない身体になってしまったのかしら?」

 会長は俺の肩から細い指を離すと俺の胸をツンツンと突いてからかう。


「正確に言えば自分から話すことじゃないなと思っていたからなんですけど、そういうことにして置いてあげます」

 真っ直ぐに会長を見つめて答えると会長は「可愛くないの」といつもの透明な笑顔で呟き、元の位置まで戻った。


「で、妹ちゃんにはちゃんと伝えてくれたのかな?」

「会長が脱がしたがってるぞ、ってですか?」

「間違っちゃいない」

「そこは否定してくださいよ」

「否定した方が本気っぽく聞こえてしまうものだ」

「会長の場合は全部本気に聞こえますよ」

「あら、そんなに私のこと信頼してくれてたの?」

「同時に軽蔑も覚えました」

「お座り」

 キリッとした目つきで人差し指を足下へと伸ばす先輩。


「犬の芸を覚えたってわけじゃ無いです」

 俺はつられて視線を一度落としてから、会長に色の無い目を向ける。


「えらい! お水に顔をつけられたね! じゃあ次は一人で泳いでみよっか、今度は失敗しないはずだよ!」

 そんな俺には目もくれずに今度は飼い犬を褒めて伸ばすタイプのハツラツママを演じた。


「だから犬でも無いし、覚えたてでもないし、溺れても無いです」

「君が好きだ!」

「・・・・・・・・・・・・・・。思いがけなかった?」

「いや、単純な今の気持ち、アイラブユーだ」

「嘘八百だな」

「違うよ、王手だ」

 会長は俺に顔に将棋の駒を打ったような指の形を向けてきた。


「・・・・・・もう負けでいいです。妹にはまだ伝えてません」

「それはどうしてかな?」

「会長、わざとらしく首を傾げないでください」

「可愛いは正義だよ。特に女の子は」

「それは可愛いアピールだったんですか? 会長のは逆効果な気も・・・・・・」

 すると俺のこめかみをかする勢いで急に何かが通り、後ろの壁に突き刺さった!


「外したか」

 私も鈍ったな、と手首をならす会長。

「いや、当てちゃだめだから! てか髪が数本逝かれたぞ!」

「深くなって良いじゃないか」

「彫刻刀だけに!?」

 どこから飛び出してきたのか分からない、いや、確実に紫会長から飛んできて壁に刺さった物―――彫刻刀を抜きながら叫んだ。


 会長のよく分からない趣味の一つ彫刻。

 彼女曰く、真っ新でまだ何も無くこれからどうなっていくのか想像がつかないモノを、彫って、彫って、掘り進めていくのが堪らないのだとか。


 はやりこの会長に妹を渡してはいけない。

 まだ何も知らない清廉潔白な妹をこの開発者に渡してしまったら大変なことになる。


「まあいいだろう。そう遠くないうちに妹さんが生徒会に入るのは決まっているからね」

 会長は俺から彫刻刀を受け取ると、紫色の長い髪を払い、含みのある言葉を残して生徒会室から出て行った。


「会長お疲れ様です! 何をお話しされていたのですか!」

 廊下では夕日がハツラツに吠えていた。


 遠くない未来に妹が生徒会に・・・・・・。

 そしたら妹は生徒会長にあれやこれやと仕込まれて調教されて・・・・・・・・・・・!

「絶対に生徒会に妹は入れさせない!」


 これは兄として、妹の危機を救えるたった一人の兄として、やらなければいけない重要な使命である。

 決して妹が好きだからとかそういう理由では無い。

 いや、ほんとに。

 俺には妹萌えは通用しない!


 ただ単純に生徒会長は、式部紫は妹に近づけてはいけないのだ!

 なぜなら紫会長は・・・・・・・・・・・・・・・・・。


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