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七峰優理の胃袋は誰の手に!? ー青葉高校のお昼休みー

「優理さま、お口開けて、はい、あーーん」

「あーーーーんっ。うん、美味いぞ。これはなんていう食べ物なんだ?」

「これは私の手作りであります『愛の迷宮区(ラビリンス)』でございます。ソースにはべシャメルを使用していますのよ」

 プラスチックのスプーンですくったクルクルしたマカロニ入りのベシャメルソース仕立て『愛の迷宮区(ラビリンス)』を俺の口へと運ぶ女。

「ペロッ。もう一口いかがですか優理さまぁ~」

 今確実に俺の口へと運んだスプーンに僅かに残った『愛の迷宮区(ラビリンス)』を舌で舐めたな。

 きっとこの俺とキスしてしまったスプーンはこの女の家宝として真空保存されること間違い無いだろう。そして例の如くTwitterグループのマウント取り合戦の武器になることこの上なし。

 口を開けているだけで食材の方から勝手にやってくるこのランチタイムは青葉高校の毎日開催イベントの一つ『七峰優理様の胃袋は私のモノ』である。


 高校生活において昼休みのお昼ご飯時ほどカップルで校舎が溢れかえる時間帯は無いだろう。

 教室内や共同ラウンジ、学食に外のベンチなど至る処で青春を謳歌する男女の姿が目につくのは誰しもが通る道。

端から見たら公然でいちゃつくという公開処刑に近いような所業で目に余るイタさを印象として与えかねないにもかかわらず、当の本人達は全く気にもせず二人の空間に浸る。

 その空間は次第に何人たりとも寄せ付けない神秘の領域へと化し、いつしか誰もが憧れる楽園になるのだ。

 俺の場合はちょっと特殊で、一人の愛する女性が隣にいるのでは無く、数多の俺を好く女達が周りを囲んでいる。

 しかも校舎のど真ん中の空いた空間こと中庭で、予め俺専用に用意されたバカンス気取りのチェアとテーボーで食事を取るのだ。

 もう完全にオフプライベートで別荘に来たハリウッド俳優だよ。あとは女共にばらまく札束と泡風呂があれば完璧なのに・・・・・・。


「ちょっと暑いな」

 俺がわざとらしくワイシャツの第二ボタンまでを外して、手で風を仰いでみせた。

 その瞬間女達は凄まじい反応を示す。

「優理様今すぐに私が扇子で扇ぎます!」

「扇子じゃもの足りないわ、扇風機をご用意しましょう! 今すぐ延長コードを張って扇風機を用意するのよ!」

「暑いならかき氷などいかがですか? 今なら練乳付きのイチゴを用意できますわ」

「ああ~ん、優理様の鎖骨がっ、ああっ、しびれる・・・・・・もうだめ」

「一人リタイアしたぞ、誰か保健室に運んでくれ!」

「Twitterに今日の優理様のチラ見せ鎖骨写真をアップしたぞ!」

「凄い勢いでイイネされて、もう100いいね達成してるよ!」

「はぁ、はぁ、もう我慢できませんわ、優理様! 優理様の首筋を舐めさせてくださいませ」

「頭が高いぞそこの女よ。俺様に頼み事をするのにその態度で良いと思っているのか!」

「も、申し訳ございません優理様! ただ、私もう我慢ができませんの、どうか、どうか優理様の甘美なるその肌に触れさせて貰えないでしょうか・・・・・・」

「黙れ雌ブタ! ただのJKごときが俺様の肌に触れようなんて後・・・・・・一年早いわ!!」

「「キターーー!! 優理様の魔王プレイよ!!」」

「あ、もう私も限界・・・・・・」

「し、しびれちゃった・・・・・」

「魔王様私にも罵声を浴びせてくださいませ!」

 ばったばったと倒れていく女達。

 これは『七峰優理百面相演目』のうちの一つ『魔王』である。


 この世の中には数え切れない程のフェチズムや性癖というのがある。

 大分類の責めたい側のSと責められたい側のMから始まり俺様、ショタ、鬼畜、集団、縛り、骨、胸、お尻、筋肉、匂い、毛、うなじ、年の差、おじさん、コスプレ、兄妹、妹・・・・・・。

 大抵の人間は何かしらのソレを持つのだが、この中で万人に通用する最強の組み合わせがある。それは・・・・・。

『イケメン×○○』である。

 こんな言葉を聞いたことがあるのではないだろうか『ただしイケメンに限る』と。

 まさしくこの組み合わせはイケメンであれば何でも許されてしまうと言っても過言では無いほど最強の組み合わせ。

 イケメンの俺が魔王のように女性を罵倒しようが何しようが彼女たちの脳は勝手に『イケメン』で埋め尽くされてそれを許してしまうのだ。

 『魔王』の他にもこうした演技ともいえる演目が俺には何種類か有るのだが、いつの間にか青葉高校の七不思議にも加わり百面相になっていたのをそのまま使わせて貰っている。

 まぁ中途半端な数より百くらいが丁度良いのだ。

なんてったって俺は青葉のプリンス七峰優理だからな。


 あー楽しい。これが最強の高校生活だ・・・・・・。

 蕩けた顔で倒れる女子を余所に感無量の心地で天を仰ぐ七峰優理。

「今日はいつもより激しいな七峰くん」

 黄色い歓声ではなく芯と強さのある気高き声が俺に向けられた。

「この声は・・・・・」

 胸いっぱいに浸っていた俺はゆっくりと体を持ち上げて、その声の主を視認する。

 あぁ、この人か。また胸が増えたな。

「私のことを胸扱いするとは良いドの音を鳴らす胸を持っているな七峰くん」

 ゆっくりと近づいてくる二つの胸。

「勝手に行間を読まないでくださいよ生徒会長。あと度胸の()はドの音が鳴るって意味じゃ無いです」

 中庭で行われていた『七峰優理様の胃袋は私のモノ』に現れたのは、青葉高校の現生徒会長式部(しきべ)(むらさき)だった。


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