青葉高校プリンス 七峰優理
なんとなく最新話書いてみたので評価してくれたら嬉しいな~。
春の風に揺さぶられた桜の花びらが悠々と舞い、制服の胸ポケットにつく。
それをわざとらしく驚いては指で摘まみ手のひらに載せて軽く吹く。
するとピンクの花びらはひらひらと回りながら舞っていくのだが、その時下からの強い風が吹き、また俺の胸ポケットに戻ってきた。
「そうか。お前はもうこの俺に魅了されちゃったんだな」
ちょっと坂になっている桜並木の道―――通称桜ロード。
数多の青春ドラマを生んできたであろう青葉高校に向かうための通学路のうちの一つ。
こうして桜が満開の時期には桜ロードは登下校問わず、人気の通学路に成り代わる。
しかし、そんな桜ロードにもかかわらず学校に向かう生徒は俺以外一人も見当たらない。
今日は休校日? いや、普通の月曜日だ。次の国民の祝日は春分の日である。
大規模工事で通学路が途中で閉鎖している? いや、そんな予定は耳に入っていないし、何よりも風に揺られた草木の音が聞こえるくらい静かだ。
じゃあ俺が近寄りたくない生物だったりする? まぁ近寄りたくても近寄れないって人は居るだろうが、触れるなら触りたいと思われるような生物だと断言できる。例えるなら思春期男子にとっての女子のおっぱいのような存在だ。
では何故こんなにも閑散としているのか。
答えは簡単だ。
今の時間は朝の八時四十分。つまり登校時間はとうに過ぎている。
そこらへんの普通の生徒ならこの時間に桜ロードを優雅に歩いて登校している時間では無いのだ。
そう、そこらへんの生徒なら・・・・・・。
ならば俺は一体何者なのか?
その答えは・・・・・・・・・・・・。
「おう、七峰! また重役登校か。本当うらやましいぜ」
「おっはよー優理! 今日の中庭ランチの予約ってもう埋まってる?」
「ちょっと抜け駆けしないでよ! ね、今日は私と中庭行こうよ」
「相変わらず人気だねーうちのプリンスは」
「ちょっとみんな落ち着いて、今は朝のホームルームの時間だから先生に迷惑かかっちゃうだろ? 一旦席に着こうよ」
二年三組の教室札の掲げられたドアをスライドさせて教室に入った途端に、俺の周りは女子高生で溢れて、シトラスやらフローラルやらの制汗剤や香水の混じった恋いする乙女の匂いが蔓延する。
クラスのみんなは俺の言葉に従うようにして各々の席へと戻っていく。
「はぁ・・・・・・」
一人、手に持った出席簿でその混在した空気を払いのけるように仰ぎ、ため息をつく人が。
「橘先生どうかしましたか?」
「いや、毎度の事ながらクラスの連中も七峰も飽きないものだなと感心していたんだよ」
もう一度深いため息をつきながら先生は俺のほうに向かってくる。
のかと思いきや、そのまま通り過ぎて廊下に顔を出すと、
「ほらお前達もはやく席に着きなさい!!」
朝からよくそんなに大きな声を響かせられるものだ。
注意を受けたのは同じ二年生の他のクラスの女子達で、俺が教室に向かって廊下を歩いていると教室から身を乗り出すようにして顔を覗かせてくるのだ。
机と椅子を引きずる音が廊下で協奏曲を奏で始める。
「まったく・・・・・・。七峰の登校時間を他とずらしているにも関わらずこれだからな」
橘先生はあきれ顔でこの七峰ファン恒例朝の登校セレモニーの原因である俺を見る。
「先生方には感謝していますよ」
俺はイケメン風にさわやかな笑顔を先生に向けた。
その瞬間教室中でシャッター音が連鎖する。
本日の開口一番七峰スマイルは無事に公開盗撮されたわけである。
今日の昼頃には学校裏サイト的な役割を果たすTwitterグループ『青葉のプリンス七峰様ファンクラブ(非公認)』にアップされて共有されるに違いないだろう。
まぁ減るものでも無いし、みんながそれで幸せになってくれるのだから咎めるつもりは甚だ無いよ。ただ・・・・・・
「今携帯使ったやつ全員今日のお昼の掃除当番な」
やっぱりこうなる。
俺の通う青葉高校は基本的には携帯の持ち込みと使用は可能なのだが、授業中やホームルーム、全校集会などでは使用を禁止されている。
もしそのルールを破ればその場で携帯は没収されて親の呼び出しをくらうのだが、このルールには一つ特例が設けられた。
『七峰優理のために携帯を使用した場合に限り没収はされない』
今もそうだったのだが俺がただ笑うだけでその瞬間を画角に収めようとする人が続出してしまったのである。
当然最初はこの特別ルールも無かったため多くの女子生徒が呼び出しをされてしまった。
しかし女子生徒は懲りること無く携帯でカメラを構える。
中には一眼レフカメラを携帯してくる者、キャンパスノートを肌身離さず持つ美術部なんかも現れ始めた。
当然のことながら携帯の持ち込み禁止も取り組みとして行われたのだが、そんなルールは守られるわけもなく、また他生徒からの苦情も相次いだ結果廃止となった。
最終的にこの現象を押さえ込むことが不可能である上に、先生方も疲れてしまったとの理由で七峰優理特別携帯使用ルールが誕生したのである。
今でも体育の時間はギャラリーが全く絶えないぞ☆
まぁその代わりといってはなんだが、橘先生は使用禁止の時間に携帯を使った者を許すというわけではない方針らしく、教室掃除や校舎清掃などの雑用をやらせることにしているようだ。
このように青葉高校には登校時間の調整や携帯の使用に関してなど七峰優理のために設けられた制度やルールが数多く存在している。
つまるところ俺はただの一般的なそこら辺にいる生徒ではないということだ。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能な青葉高校のプリンスこと青葉優理を中心に学校が、いや、世界が回っているといっても過言ではないのだ。
高校生活最高! 順風満帆! 向かうところ敵無し! そこのけそこのけ七峰様が通るぞ! あーはっはっはっはっは!
しかしそんな俺にも扱いが難しい人間が何人か居る。
「おはよう兄さん今日も重役出勤お疲れ様。で? そんなお殿様がなんで下級生の教室に来てるわけ?」
その扱いが難しい人間の一人である黒髪の少女が冷たい目で下から俺を睨み付けてくる。
「妹よ、とても皮肉に聞こえるのだがそれはもしやツンというやつなのか」
「ツン? あー、地下に永久凍土が広がり降水量の少ないため植物の殆ど育たない寒冷地のことね」
「それはツンドラだ妹よ。確かにその冷たさはツンの語源とも言いがたいものではあるがツンツンといった可愛らしい表現にツンドラは似合わないと俺は思う」
「そう、確かに似合わないわね。青葉のプリンスと呼ばれる兄さんがそんな可愛らしい巾着袋を提げているなんて」
「プリンスはかっこいいだけじゃなくて可愛いという愛嬌も兼ね備えなくてはならないのだよ。というのは冗談にしてこれは妹である結衣のきんちゃくんではないか」
「そう、プリンスも大変なのね。忘れたお弁当をわざわざ届けてくれてありがとう。ちなみに巾着袋をきんちゃくんと呼ぶのも愛嬌を作るためのさくりゃくんなのかしら?」
「ま、そういうことにしておいてくれ。妹の弁当を届けに来たプリンスは平和主義なんだ」
「平和主義もほどほどにしておかないと勘違いお馬鹿さんを大量生産しちゃって平和どころか争いの絶えない日常になっちゃいますよ」
黒髪の少女は片端の口をかすかにつり上げ俺の手からきんちゃくんを受け取ると自分の席に戻っていった。
うーん、やはり俺の妹だけあって正確がひん曲がってるな。
見た目だけなら最高級に可愛いルックスなのにあの性格じゃモテないだろうな。
「「あ、あの! プリンス・・・・・・じゃなくて、優理先輩ですよね!」」
妹との会話が終わるや否や、妹の後ろで機会を伺っていた女子生徒達が声をかけてくる。
妹はその様子をちらっと横目で見た後に机に肘をついた。
「そうだよ、俺がこの青葉高校のプリンスこと七峰優理だ。高校生活も始まったばかりで不安も多いと思うけど楽しめるように頑張ってね。生徒会もより良い学校になるように頑張るからさ。あとうちの結衣と仲良くしてあげて欲しいな」
さわやか笑顔を振りまいて答えると、女子生徒達は蕩けるような顔をしてその場で膝から崩れ落ちた。
よし、これで一年生の好感度は伝染病のように一気に広がって上がっていくだろう。加えて次期生徒会長の座を狙う際の布石も置いておいた。ついでに妹の友達作りにも貢献。
妹の弁当を届けるという一つのことに対しても二つ三つと目的を果たす。
二兎追う者は一兎を得ずだったか? 俺の場合は一馬を使って七兎を得るくらいだな!
何故馬なのかはさておき、俺は意気揚々と妹の教室を後にして廊下を歩く。
その後ろに何十人ものファンを引き連れて。
「何が頑張ってね、僕も頑張るからさ、よ。誰にでもあんな笑顔を振りまいてむかつく・・・・・・それに友達だって普通に作れるわよ、まったく」
結衣はむくれた表情を隠すようにして机に伏せた。
このツンドラな妹もまさか次の日に兄である俺と入れ替わるなんて思いもしてなかっただろう。