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学校の図書室を放課後に利用する人って、一体どんな人だろうね?

「はい、これは左上のところ。こっちは906番の列。この三冊は入り口横の棚に持って行って」


 夜風に連れられてきた図書室。そのカウンターには山積みになって本が置かれていた。

 これからジェンガでも始めるのかと思うくらいのそれらを、夜風は表紙を見ただけで的確に戻す場所の指示を俺に与えていく。さすが、あの一癖も二癖もある生徒会で会計を務めるだけはある。

 おとなしそうに見えてやるときはやる天然眼鏡女子といったところだろう。


「七峰君、口ではなく手足を動かしてください。私のクマさんを見たぶん、きっちりと働いて貰います」


「まて夜風。俺は口を動かしてはいないぞ」


「今、動かしましたよ七峰君」


「たしかに今は動かした。が、さっきは口にしていないだろ。心の中で思っていただけだ。夜風がスーパーデキる女の子だってな」


「眼鏡と天然のトッピング付きで。ですよね?」


 ジトッとした目を俺に向ける夜風。

 本を沢山読むと人の心まで読めるようになるのだろうか?

 紫会長といい、夜風といい気の抜けない相手しか俺の周りにはいない。

 こうなると、思ったことがすぐ顔や口に出ちゃう夕日は可愛いものだな。


 その後も黙々と片付けを続ける俺と夜風。

 最初こそ俺が本を仕舞う係だったが、全ての仕分けが終わると夜風も一緒に手伝い始めた。

 

 図書室には俺と夜風以外には誰もおらず、絨毯を擦る俺たちの足音だけが聞こえていた。

 まあわざわざ放課後にまで図書室に足を運ぶ生徒なんてそうそういないだろう。高校生とは青春を謳歌するために生きているのだ。

 唯一メインイベントとして図書室が使われるのは試験前くらいだろう。


 そんな殺風景で特別なイベントの一つも起きなさそうな図書室で唐突に夜風がこんな質問をしてきた。


「突拍子もないこと聞くけど。七峰君は、自分以外の誰かになってみたいって、思ったこと・・・・・・ある?」


「本当に突拍子もないことだな。そうだな、そんなこと考えたこともないからな・・・・・・、夜風はあるのか?」


「べつに?」


「ないのかよっ!」


 てっきりそういう対象が夜風の中に居るから飛んできた質問だと思ったのだが違ったらしい。

 きょとんとする夜風に俺は聞き返す。


「じゃあなんでそんな質問をしたんだ?」

 

「夕日先輩がね、よく口にするんだ。私が会長みたいな人だったらなーって。他にもこの学校の男子もよく口にしてるよ。七峰くんみたいになれたらどれだけモテただろうかって」


「なるほど。ま、確かに俺になりたいって男子の気持ちは分らなくも無い。もし俺が俺じゃなかったら、俺になりたいって思うだろうからな」


「自画自賛・・・・・・」


「モテる男は辛いね~」


「なんか今ちょっとだけ夕日ちゃんの気持ちが分った気がするから代弁しておく。・・・・・・くたばれジゴロ」


「夕日でもそこまでの表現はしないな・・・・・・」


 夕日を真似して俺の悪口を言った夜風は細い目で俺を貫く。

 普段から夕日に散々言われてるから慣れたものだと思っていたがそうでもないらしい。

 夜風に言われるのは少し傷ついた。


「ま、他人に憧れを抱くのはべつに普通のことだろう。人間ってのは今の自分に有るものより無いものを欲しがる生き物だからな。俺みたいに何でも持ってる奴か、他人に一切興味ない奴以外は等しくそうだ」


「まるで私が無頓着かのように言うね」


「違ったのか?」


「違わない」


 違わないんかい。

 と、自分で振っといてなんだが心の中で突っ込んでおいた。


「あ、でも。もし誰かと入れ替われるなら私も七峰くんがいいかも」


「青天の霹靂ばりの心変わりだな。その心は?」


「醜態を晒す七峰くんをカメラに納めて拡散ーーーーんぎゃっ」


 俺は無言で持っていた本を夜風の頭部に叩き入れた。


「あうう・・・・・・」


 夜風は両手で頭を抑えつつ、涙目になって俺を見上げる。

 そして俺の目から「自業自得だアホ」という意思を受け取ると、


「くまさん見たくせにぃぃぃっ!」


 わーっと叫びながら俺から逃げて行った。

 一応言っておくが、ここは図書室だぞ夜風。

 俺と夜風以外に誰も居なくても、泣いたり騒いだり走ったりしたらダメだ。


「しかし・・・・・・」


 俺は夜風の俺になったらやりたいことを聞いて考えを改める。

 

 もし本当に自分と他人とが入れ替わるような事があったとしたら俺は誰と代わりたいか。


 そこには夜風の言ったように理想とか憧れとかプラスの方向以外の使い道も有るということ。

 

 だとするなら俺は誰になって、何をしたいのか。


 そう思ったらすぐに自分の中で答えが出てきた。


「俺は式部紫に・・・・・・なりたいかな」


 自分だけに聞こえるような声量で、俺はそう呟いていた。

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