異種族交流
「よし、とりあえず全員職業につけたし、各々冒険前の準備もしてくるか」
冒険者ギルドを後にし、俺が弓術士ギルドで用を済ませて3人の元に戻ってきてからは自然とアイサクトが仕切っていた。
まぁいかにも冷静という感じだし、シリアンのお目付けとしても適任だななどと勝手に納得しているといよいよ本格的な準備に取り掛かろうとしている様子だ。
「まずは回復薬だな。俺の魔力もまだまだ最大値が低いから、まずは各自で携帯してくれ。次に食事だ。これからはここに…家に帰ることなんてほとんどないだろうから、それぞれ何日か分の食事を携帯できる範囲で持ち寄ろう。当然、日持ちのするものだ。あとはそれぞれの職業に合わせたものを持ってこれば序盤はなんとかなるハズだ」
というアイサクトの指示通り、再び皆と別れ、商店街で必要なものを買いあさり、武器屋の親父とも相談しながら弓術に必要な物資をいくつか見繕ってもらった。
そして驚いたのは、狩りと違って矢が使い切りではないということ。
狩りでは当然、獲物に向かって発射した矢は獲物に刺さるか地面に刺さるか、はたまた木々に刺さって、それはもういちいち回収しないといけない。
だが冒険者としての弓術は違う。矢というよりは弓と矢の両方に多少の魔力が込められていて、放った矢は獲物に刺さると同時に消え、装備者の手元に再び再形成される。それは戦闘中、いちいち残りの矢の数を数えていたら戦闘どころではなくむしろ危機的状況に追い込まれることが容易に想像できる。先人たちの考慮と経験と努力の賜物だろう。
一通りの買い物を終え、アイサクト達と合流するまでに少し時間の余裕ができたアシェルは街の中心地から少し離れた木々の生い茂る道へと入り、大きな一本の木のふもとで目を瞑って休憩する。
今日一日で色々ありすぎた…。意図もせず冒険者になり、同年代の知り合いが3人…しかもこれから長い付き合いになるであろうパーティに入り、多少経験があるというだけで弓術士になり……せっかく来たこの街も、もうあと少しすればいきなり離れることになる。
そんな、これまでの、これからの自分の道をたった一日で、大して考えもなく決めてしまった自分に対して少しの未練を感じていると、
「おや」
今日一日でいろんな声を聞いてきたが、こんな声を聞いた記憶はない。
「……?」
目を開けて声のした方に身体ごと向けると、そこには一人の、自分より身長が100cm程低い…いや比喩表現ではなく、本当に100cm程低い眼鏡をかけた知的そうな小人?がこちらを意外そうな目で見つめていた。
「君は…」
「『君』だって?年上に対する言葉がなってないんじゃないかなぁ。そういう『君』は成人してもない人間だろ?成長基準を人間と一緒にしないでくれ」
「えぇっと…すみません…?」
「うーん、分かってない気がするなぁ。いいかい?僕はドワーフだ。人間の君たちとは成長しきった時の身体が違う。僕はこれでも人間でいう30歳くらいだよ」
「さっ……!?」
これで!?この大きさで…?
ドワーフ族のことくらいは聞いたことがあるけど、実際に目にするのは初めてのことでついまじまじと見てしまう。
「……そんなにジロジロ見ないでくれ。自分に自信がないわけじゃないが、そこまでされるのは恥ずかしすぎる」
「あ…あぁ…すみません、つい…」
気づくと1分近くも見つめていたらしい。むしろ、黙って1分間も見つめられていたというのは自信にしていいことなのではという気持ちが声になりかけたが、飲み込む。
「ここはね、僕がいつも森の声を聞いているところなんだ」