冒険者ギルド
商人のおじさんは去り、いつの間にか同乗していた双子も消えていたが、これからの生活を前に、不安とも希望とも分からぬ感情にそれは些細なことで。
「ここがグロリアか~」
別に初めて訪れるわけでもない都市に、まるで初めてかのような反応を示す。
そうでもしないと、何故だか新しい自分に出会えない気がして。
「待てッ!」
商人のおじさんが言ってた通り、冒険者ギルドに行ってみるかな?あーでも、まずは宿を探さないとか?荷物を置いておきたいしなぁ。
「おい!待てと言っているッ!」
まぁ大した荷物じゃないからこのままでも……
「貴様!」
「う、うえええええ!?」
……俺はいつの間にか皮と鎧で作られた装備に身を包んだ男に拘束されていた。
「なんなんですかこれ!ちょっとぉ!」
「んー?…その反応………どうやら不審者ではなさそうだな…?」
「不審者って…どうみてもただの一般人じゃないですか!」
「いや、この都市では見ない顔だったんでな。そういうやつを見かけたらここで話を聞かなきゃならない」
「だからっていきなり拘束することないでしょう!?しかも俺まだ17歳だし、そんな大それたことできないですよ!」
「だから先ほどからお前を呼び止めていたんだが、いかんせん無視されたんでな、強硬手段に出たわけだ」
………そういえばなんかうるさかったような気がしなくもない。
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「ほら、ここが冒険者ギルドだ」
「おぉ、ありがとうございます」
そんな、どっちが不審者か分からないような人に道案内を頼み、冒険者ギルドまで案内してもらった。
「俺はグロリア守衛隊のリグルだ」
「……?どうしたんです突然?」
「いや、何か知らんが失礼な説明を受けた気がしてな」
「やぁやぁリグル。門番の君がここに来てるなんて珍しいね」
「ニールさん、ご無沙汰しております」
ニールと呼ばれた人はカウンターの向こう側で難しそうな本をつまらなさそうに指ではじいていた。
そしてリグルと呼ばれたこの男の態度からして、ニールがここのギルドのマスターなのだろう。
「紹介します。先ほど正門の近くで捕まえた不審者です」
「違うから!久しぶりに田舎から都会に出てきたせいで昔との景色の違いに感銘を受けながらこれからのことを考えていただけだから!」
「うるさいなぁお前は…」
「あんたのせいだろ!」
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「へぇ、随分と田舎から来たんだねぇ」
「ふぉうあんえふ。あんえおえああ」
「あーいい、いい。食べ終わってからで」
「…………そうなんです。なのでこれからどうしようかと思ってたところで…」
商人の言ってた通り、ニールが作ってくれたご飯は空腹と相まってそりゃもう絶品だった。
「うーん、そうだねぇ。仕事を探すってんなら、ここの周辺には様々な生物がいるから、そいつらの皮や肉を使って製造業を学ぶもいいし、自然に恵まれている環境を生かして、植物を採取して錬金術を学ぶのもいいだろう」
「そんな…生き物を殺すなんて…」
「君の今食べてるそれも、一応生き物から取れたものなんだけどね?」
「……そうですよね」
「確かに、生き物を殺すというのはただ単純には良しとはされないかもしれない。その生き物にも家族がいて、恋人がいて、人生があるからね」
「………」
「でも、我々はそういうことをしないと生きてはいけない。まぁいわゆる食物連鎖ってやつだね。……だからこそ、我々は覚悟をもって殺さなくてはいけないし、消費しなくちゃいけない」
「………?」
「狩った命に見合うだけの覚悟を持って挑まなくては、それはもはやただの殺し屋だ」
「…そう……ですよね……」
「………フフッ、ごめんね難しい話だよね………………あ、そうだ!君、今はまだ特にやりたいことはないんだよね?」
「え、えぇまぁ…」
「だったらさ、冒険者、してみないかい?」
その瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がるのが分かった。
冒険者、それは田舎者の俺でも知っている職業で、男ならだれもが憧れるモノ。
そんな明るい職業ではあるが特に何か試練があるわけでもなく、年齢制限があるわけでもないが、誰でもがなれる職業であるがゆえに、安易な判断で冒険者になった者には残酷な結末を最期に、その人生に幕を閉じることも珍しくない。
特に、ダンジョンに潜れば人だかりはなくなり、自分だけかあるいはパーティメンバー以外はほぼいない状況となる。そんな中、ダンジョンに眠る財宝を独り占めにしようとする者が万が一にでもパーティの中に存在すれば、その者以外の生存帰還率は著しく下がる。
だが逆に、そういった闇を持たないパーティに出会えれば、冒険者とは己の努力と、判断と、知識でどこまででも名声や地位を築くことのできるモノだ。
「今、君の目にはこの街はどう映っているかな?」
「…まぁそれなりには発展しているし、ここの住民も幸せそうに暮らしているんじゃないですか?子供たちも元気に走り回っているようですし…田舎出身の俺が言えたことではないですが」
「ははは、大丈夫、気にしないでいいよ。…そう、みんな元気に、そこそこ幸せに暮らしているさ。表向きはね」
そう言うとニールは先ほどまでの穏やかな表情から一変、走り回る子供たちを目で追いながらも、俯き気味に言葉を続けた。