4.入学式
集合をしてしばらく経つとどうやら入学式の準備が出来たらしい。
「新入生 入場」
この声と共に華やかな音楽と大きな拍手で新入生達は迎えられた。特に保護者の方達は気合いが入っていた。
ある親は自分の子供を探しカメラを取り、子供の晴れ姿に高揚したのか名前を呼んでいる親もいた。それは俺の親も例外ではなく、母親はカメラを構え俺の名前を呼んだ。
「大地~こっち向いて~」
(この恥ずかしさはこれを親にやられた生徒共通だと思いたい…)
昔なら親に向かってピースぐらいはしてるだろうが、今はそれをするほどの気概はなかった。しばらくして最後のクラスの入場が終わり、全員が席に座ると拍手と音楽が止み静寂が訪れた。
「新入生 起立!」
ついに最白中学校の入学式が始まった。
入学式が始まって大分時間がたった。花宮さんのすばらしい代表挨拶も終わり後は校長先生の話を残すのみとなった。
(花宮さんの挨拶が終わった後やけに大きい拍手が聞こえたけど、あれは田中だろうな)
田中が感動して大きな拍手をしている姿を簡単に想像できてしまい笑ってしまった。
そして最後の校長先生の話が始まった。しかし話し始めて10分位が経過すると自分の体に異変が起きていた。
「みなさんはこの中学校を通して自立と成長を…」
「ふわぁーぁ」
俺の体が睡眠を求めていたのだ。多分朝から騒ぎすぎたせいで知らない内に無理をしていたのだろう。この状態は非常にまずく、俺は校長先生のお話が子守唄に思えてしまっていた。
(起きろ俺!ありがたい話をしているのに失礼だろ!)
校長先生に申し訳なく思い、足をつねったりして睡魔に抵抗していた。しかしその効果も次第に薄くなりついには頭をこっくりこっくりとさせていた。
(このままだと本当に…ねる…)
もう意識が持たない…そう思っていた時、俺の眠たい様子を見ていたのか隣の人からトントン、と肩を叩かれた。
おかげでなんとか意識を保つことが出来たが、その効果も一時的なもので、再び俺は睡魔に襲われてしまった。俺が持ち直す様子がないことを悟ったその人物はうんざりした声で俺に話かけてきた。その瞬間俺の眠気は一瞬で一掃されてしまった。いや、そうせざるを得なかったのだ。
「ちょっと君、ちゃんと聞いてるの?」
この人物の声を聞く、それだけの事で俺の意識を覚醒させるには十分だった。なぜならその声の主は俺が最も関わりたくない人物の一人だったからだ。
「お前は夢原奏!」
俺にとって夢原奏はこの中学において超要注意人物であった。
奏は親がPTA会長でしかも奏自身はファッション雑誌のモデルをやっているほど容姿に優れていたため学校のカーストではいつもトップに存在していて、性格も自身にも他人にも妥協は許さない完璧主義なやつ、悪く言えば融通の聞かないタイプであったため、昔の俺のようなふざけた人間は大嫌いだっただろう。実際に奏は俺によく突っかかってきた。例えば俺が忘れ物をしてその事を隠そうとするものなら絶対にチクるような奴だった。昔の俺は奏と言う名前を聞くだけでも不快な気分になった。
そして、奏と関わったあることがきっかけでクラスの大半は俺を避けるようになった。
(まずい!よりによって起こしてきたのが奏かよ!しかも焦って名前を呼んでしまった!)
「えっ、どうして私の名前知ってるの?」
知らない相手に自分の名前を知られている事に奏は怪訝そうな表情を浮かべていた。
(なんとかごまかさないと…そうだ!)
俺は奏について知っている知識を活かしてなんとか誤魔化そうとした。
「そっそれは…妹がモデル業界に詳しくてみたことがあったんだ」
「そうなの?ふふーん、いい趣味してるね君の妹さん」
奏の様子から上手く誤魔化す事が出来たみたいだ。
(こいつは名前順的にも近くで行動することが多い、ここで雑な対応はできない…)
俺は下手な事はできないと思い相手の出方を待った。すると奏は俺に興味を持ったのか名前を聞いてきた。
「君、名前は?」
「俺?俺の名前は山崎大地」
「じゃあ大地これからよろしく。あと私のことは奏でいいわよ」
「…わかった。よろしく奏さん」
(いきなり名前で呼び捨てか…)
これ以上話していると先生に目をつけられると思ったのか、奏との会話はここで途切れた。この危機的状況に気をとられていたため俺が気づかない内に校長先生の話は終わっていて、入学式は終わりを迎えていた。
「新入生 退場」
俺達は再び盛大な拍手を浴びながら退場していった。
ようやく主人公のフルネームが出できた…