2.登校
「ほらあんたシャキッとしなさい!!」
「いいよ写真なんて撮らなくて。早くしないと遅刻するだろ」
俺は入学式の準備したらすぐ学校に行こうとした。しかし外に出た瞬間母親に呼び止められ、記念にということで写真を撮らされていた。
「せっかくの晴れ姿なんだから撮らないと損よ! ねぇ美貴」
「そーよせっかくこんなかわいいのに」
「かわいいってなんだよ…」
この頃はまだかわいげがある顔してるのか。
俺の逆行前の顔は目が細いからいつも笑ってるように見えるっていわれてたし、それのせいで真剣な話してるのに何で笑ってるの?何て言われるんだからやるせないよな。もとからこういう顔なんだよ!
俺は嫌なことを思いだし少し不機嫌になっていたが妹の莉愛がにーちゃかっこいい!といってくれて嬉しくなってしまった。
「えっ?そっそう?じゃあ写真とっちゃおうかなー」
「にーちゃちょろい!!」
妹にちょろいって言われる俺っていったい…
そうしてる間に母親は撮る準備ができていた。
「はいはいとるわよー ハイ チーズ」
カシャ
「え~とどれどれ?おっ、かっこよく撮れてるわよ」
どうやらいい写真がとれたらしく一発でOKだった。
「じゃあままは後で行くからね。車に気をつけて行きなさいよ」
「わかってるよ! じゃあいってきまーす」
「うーん…変な感じ~」
美紀はいつもと違う雰囲気だった弟を訝しむ。
「ねえまま、今日のあいつなんか変じゃなかった?いつもより、こう大人びてるというか」
「中学生になったんだし背伸びしたい年頃なのよ。あんたもそうだったじゃない、入学式にどくろのネックレス付けて行こうとしてた人は誰だったかしら?」
「ちょっとその話はやめてよ!あの時はあれがかっこいいと思っちゃってたんだから!…うーんそうね。いつもより落ちつててらしくないと思ったのもそういうものなのかな?」
「男の子なんて三日で変わるものよ?」
「三日って…昨日まで戦隊ヒーローのまねしてたけど?」
「男の子はそういうものよ。ほらほらそんな話してたら遅れるわよ」
「あっほんとだ!いってきまーす」
この付近では色の名前が付いている中学が多く、俺が通う中学校は最白中学校といい白中と呼ばれていた。問題を全く起こさないため名前の通りの学校だと周囲の評判は良かった。
(実際は規則だらけで窮屈な学校なんだけどな)
規則を守れないと怖い先生に指導室送りされていたのでいつもヒヤヒヤしてた記憶がある。
立地としては窮屈な校内とは打って代わって緑に囲まれ広々とした場所にあった。校庭もとても広く昼休みには大半の生徒が外で遊んでいた。
(サッカーコートとか主要な遊び場は上級生が独占してたから初めは縄跳びぐらいしかできなかったな、まあそのお陰で縄跳びの授業では無双出来たけど)
しかしこの話には続きがあり、調子に乗って周りを見てなかっ俺は、背後にいる女の子に気づかずに縄がぶつかって怪我をさせてしまった。俺はみんなからの冷ややかな目で見られたことがトラウマになってしまい、縄跳びを封印した。ここまでがこの話のセットである。
(次は絶対気を付けよう)
俺はいっそう気をつけて行動するように胸に誓った。そんなことを考えながらのんびりと歩いていたせいか、時間が思ったよりも早く過ぎていて入学式に遅刻しそうになっていた。
(ちょっと早めにいかないとまずいな…遠目に校門が見える距離までいるしそこまで走るか?)
しかし校門まで走ろうとしたら後ろから聞き覚えがある声が聞こえてきた。
「おーい大地~」
「ん?あいつは…」
「この田中幸広を置いてくとは笑止千万だぞ!!」
「…この独特な話し方やっぱり田中か、てか笑止千万の使い方おかしいぞ」
「ん、そうか?」
こいつの名前は田中幸広。小中高と一緒の学校で俺は一番の親友だと思っている。
大学は別々になったが連絡をとりあっていた数少ない友人の一人だった。しかしひとつ癪な点があるとしたら四字熟語を妙な使い方をしてくるところだ。
田中は一緒に登校したかったらしく俺も了承した。
俺は田中に学校遅れそうだから早く行こうと伝えた。しかし田中はそれを横目に道路の方向に指をさした。
「おい見ろよ、あれ」
「ん?」
田中が指差す方向に目を向けると黒塗りの高級車が校門の前に止まっていた。
田中は不思議そうにその車を見ていた。そしてそこから出てきたのは白中の制服を着た女の子だった。
「えっ誰?あの娘」
田中は知らなかったが、俺はそこから出てくる女の子を良く知っていた。
「イリーネ リリぺットだ」
「えっ大地知ってるのか?というかリリぺット社ってあの有名な?」
「そうあのリリぺット社」
リリぺット社と言えば、知らない者はいないほどのイギリスの超有名大企業でイリーネ リリペットは正真正銘そこのご令嬢である。なんでそんなやつが俺ら庶民のいる日本の学校へと思うが、父親 が会社の都合で日本に在住するらしくここにいるのは一時的なものだった。そう言うのも実際夏が終わった頃にはいなくなっていた。
(というかあの時はあんまり気にしなかったけど今見るとすごい美人さんだな)
背中まで伸ばしたサラサラの金髪、眉目秀麗という言葉が一番似合うであろう整った顔、まるでおとぎ話にでてきそうな女の子。
(まあイレーネとの思い出はいいものじゃなかったけどな)
社長令嬢激怒事件
イレーネが怒ったのは後にも先にもこの時だけだった。だがその理由はわからずじまい。といってもその時の言語が英語だったため、なぜ怒っていたのか理解できなかった。今なら少しぐらいわかるかもしれないけれども。そしてどうして怒ったのかわからかった俺はとりあえず謝った。しかしその謝罪は無視された。納得できなかったが、結局イレーネが俺を無視し続けたため俺もそれ以上関わることはなかった。そのためうやむやな状態でこの騒動は終結した。
その後日談として、あのリリぺット社のご令嬢を怒らせたということが衝撃的な出来事だったらしく、白中内では一時期俺は噂の的になっていた。
(あれのせいで生徒の大半が俺のことを社長令嬢怒らせた人って悪いイメージを持たされたからな。イレーネとはなるべく関わらないようにしたいけど…)
この事件が起こったということはイレーネに絶対に一度は関わるわけなのだが、それがいつであるのかは思い出せなかった。
キーンコーンカーンコーン
思い出そうとしたがチャイムがなったため思考が途切れてしまった。
一方田中はチャイムの音が聞こえるな否や走り出していた。
「大地!やばいチャイムがなったぞ!急がないと遅刻する!疾風怒濤のようにいくぞ!」
「それはさっき俺がいっただろ!あとその四字熟語の使い方今まできいたことねえよ!」
先にいく田中を俺は追うように走って学校まで向かった。
誤字、脱字等もしよろしければ報告してくれると助かります。