1.逆行
夢を見ていた。中学の時の夢を。
断片的だが場面ごとに精神を削られる夢だった。
「お前キモい」
「うるさいからだまって!!」
「先生!!こいつ忘れ物してるぜー!」
「大地、また忘れたの?あなたはもっとしっかりして…」
自然と耳が塞ぎたくなる、だがこの悪夢はお構い無しだ。
しかしその悪夢は現実世界からの干渉によって続くことはなかった。
ピピピピッピピピピッあさだよ!あさだよ!
ガバッ!
いつもならすぐに起きることはなく、数分待って意識が覚醒するのを待っていたが、今回は早く起きたかった。
ピピピピッピピピピッあさだよ!あさだよ!
「なんだ?この目覚まし音」
昨晩の記憶を思い出すが、こんな目覚まし音は設定してないはずだった。
(妹がいたずらでもしたか?)
そう思いながら目覚ましが鳴る方へ目を向ける。
その目覚まし時計は小学生の時に使っていたが子供っぽいと思
われるのが嫌で中学から全く使わなくなったものだった。
(昔のことを夢見たのはこいつが原因かもな)
はぁ…嫌な夢だったな
ピピピピッピピピピッあさだよ!あさだよ!
「おっと、音止めないとな…」
止めると同時に俺は時計の時間に目がいく。その時重大な危機
が迫ってることに気づいた。
いま7時30分だぁ?大学遅刻するじゃねぇか!」
センチメンタルな気分などとうに消え去り、焦りによってかき消された。
「今日はテストだし遅刻できねえ!」
俺は準備するために立ち上がろうとした。その時俺は自分の体の異常に気づいた。
「…あれ、俺の体小さくなってる?」
もっとよく自分の体を見てみると、とにかく自分の手足がやけに小さくなっていることに気づいた。そして何より細くなっている。大学生になってから運動しなくなりお腹回りを気にしていた事が嘘みたいだ。
立ちあがってみると普段よりも数段に目線が低かった。
俺の身長は165cmであまり大きくはなかったが今の自分の体は子供か?ってほど低くなっている推定20cmは縮んでいるだろうとわかった。
はっまさかあそこも…
ごそごそ…
「マジかよ…いつもの俺のぞうさんじゃねえ、つるっつるだし、これじゃあまるでおやゆび姫みたいじゃないか!!」
いったい全体どういうことだ?
俺はかの有名な高校の名探偵みたいに体が小さくなってしまったのか?いやいや変な薬飲まされてないし。黒ずくめの男とかみてないし…
そう思っていると下から声が聞こえてきた。
「大地ー早く起きちゃいなさーい」
…うん聞きなれた母親の声だ。家族には影響ないのか?
自分にしか影響はないと思っていた。しかし次に発せられた母親の言葉に俺は混乱させられることとなった。
「朝御飯できたから早くした降りて来なさーい!莉愛と美紀はとっくに起きてるわよー!」
「えっ!?美紀姉?」
(今家に住んでいるのは、父、母、俺、妹の莉愛の4人のはずだ。美紀姉は2年前から一人暮らしをしているからここにはいないはず…帰ってきたなんて連絡あったか?)
一旦状況を整理しようと深呼吸をした。
そういえば俺の携帯はどこだ?
いつもは隣に置いてあるものなのに隣にあるのは戦隊ヒーローのオモチャだった。
辺りを探してもそれらしきものは見つからない。
そしてよくよく周りを確認してみると自分の部屋は子供が持っているものばかりであった。
(俺が昔持っていたものばかり…いやいや、まさかね)
タイムスリップという言葉が脳に浮かんだが、判断するには情報がすくなすぎると思った。
(とりあえず一旦部屋を出てリビングへいこう)
ガチャ
ドアを開けて部屋を出るとまず始めに壁がきれいだと思った。
(この家が建ってから10年は過ぎてはずだ。今の家の状態は新築と言われても信じるだろう)
バタバタバタバタ
階段を降りるときこの体になれてないのか、それとも不安による焦りなのか、足取りが覚束なくこけそうになった。
(昨日までとの感覚が違いすぎて思うように歩けない…)
感覚を調整しながら階段を降りていき一階についた。
一階についたことでリビングでの会話がはっきり聞こえるようになった。
「えー私朝からパンたべたくなーい」
「嫌ならたべなくていいわよ」
「え~わかったよたべるよ」
(美紀姉の声が聞こえる、やっぱり帰ってきたのか)
無事リビングの前につくことができたが、なかなかドアを開けることができなかった。
小さな体になっている今の自分を家族が見たらどう思うか。その不安と恐怖によドアを開けることを躊躇ためらっていた。
しかしこのままでは状況がわからないため俺は覚悟を決めてドアを開けた。
ガチャッ
リビングのドアを開けるとそこには小さくなった莉愛と高校の制服を着た美紀姉、そしていつもより若々しい自分の母親がいた。
この光景を見た俺は脳が情報を処理することができず頭がパンクし、冷静さを失ってしまった。
「そんなバタバタしてどうしたのよ、早くこっち来てご飯食べちゃいなさい。おくれるわよ!」
「うわ!?私の母親、若すぎ!」
「なにいってんのよあんた若いだなんてもう今年で40歳よ?なによ~嬉しいこといってくれるじゃないの」
「あっ兄ちゃんおはよー!」
「俺とあんまり身長が変わらなかった莉愛がちっちゃくなってる!!」
「ん~?どうしたの兄ちゃん」
「大地、あんた昨日電気つけっぱで寝てたんだからね。もう!」
「えっまじ?ごめん…てゆうか一人暮らしだったろ?いつ帰ってきたの!」
「なにいってんのよあんた昨日ずっと家にいたじゃない」
「は?」
「というかあんた今日中学の入学式なんだから早く準備しなさいよ!」
「里愛も今日から小学5年生~」
「えっ中学?なにいってんだよ俺は大学生だろ」
「なにいってんのよあんた寝ぼけてんの?」
「まてまてまておかしいよこれ、ああまだ寝ぼけてるのかそうかその可能性があるか」
パニック状態だった俺は独り言を呟きながらリビングを出ていつの間にか自分の部屋に戻って来てしまった。
「えっえっ本当にどうなってんの?みんな若返ってるし!俺が中学の入学式? 何年前の話だよ。夢だよな、早く目覚めてくれよ!?」
俺は、ベットに潜り覚めろ覚めろと呟きながら目をつむった。
「夢じゃなかった」
ほっぺたをつねっても痛い、意識もはっきりしてる。そしてこの体が自分自身ということは鏡を見て確信した。
ええと大学3年から中学の入学式だから約8年前か…
俺は8年前の入学式の日まで戻ったっていうのか?
(どうやら自分はタイムスリップ、いや、これは逆行したってい言う方が正しいかな)
未だに信じられないが戻る方法だってわからない、そしてこんなこと他に説明したって信じてもらえるはずがなかった。
(小説にそういう物は読んだりしたことはあったけど自分が経験することになるなんてな)
とりあえず今の状況を受け入れた俺はこれからどうしようと考えようとした。しかし俺は中学というキーワードに思考を引っ張られていた。
(中学生…よりによって中学生)
そう中学生は
「俺の消し去りたい過去ナンバーワンじゃねえか!」
俺はこれから起こるであろう問題の数々を思い出し悶え苦しんだ。なぜなら俺が中学のころ、落ち着きがなく考えなしのノータリンだったため色々とやらかしてしまっていたのだ。
例えば教室内画鋲ばらまき事件、痛ましき事件だ。まともに掲示すらできないのかよと自分を殴りたくなる。
教室のドア詰まり事件、ドアの開閉がスムーズではなく直そうとしてドアが開かなくなってしまった。結局業者を呼んで直してもらったが俺が壊したことになってしまった。当時はよかれと思っ
てやったんだろう、かわいそうに…でも大人に任せろよボケが。
他にも社長令嬢激怒事件、学校外でもあり、ピクニック迷子事件、牧場の塀ぶっこわし事件等々俺がやらかした事はまだまだた
くさんあるがこれらの事をやらかした代償は高くついた。
結果として学年の生徒の大多数は俺を嫌うか煙たがっていた。最終的には、いじめといってもいいほどに発展した。大部分が俺の行動のせいだと思う。
…少し取り巻く環境が悪かったとも思う。
「大体前者が9割後者は1割って感じか?」
「それじゃあ絶対俺が悪いじゃねえか」
(一人ノリツッコミほどつまらないことはないな)
「はぁ、中学生の頃もう少し考えて行動できてればなぁ…」
中学でのやらかした場面は幾度としてあり、中学の頃の悪夢だって何回も見てきた。
やり直せるならやり直したいと今でも思う。
「ん?いまの状況って…」
俺は好機であることに気づいた、未来の事を知っているアドバンテージがあるこの状況、中学のすべてをやり直すことができるんじゃないかと。
「そうか!今ならすべてなかったことにできる!これはチャンスだ!俺は、俺はやり直すぞ!黒歴史があった過去なんて逆らって、今度は誰もが羨む青春を謳歌してやる!!」
俺は期待を胸に立ち上がった。
「やってやる!やってやるぞ!!」
ガチャ!
「なにぐずぐずしてんのよ!!早くしないと入学式おくれるわよ!!」
「ごめんまま…」
母親には一生逆らえないよ…
ままんには逆らえません