981 全面協力
「……あんたら、本当に良かったのかい? さっき戻って来た所だろう?」
つつっと側に来たキルフェさんが、眉尻を下げて耳打ちする。
「あれはね、戻りたくて戻って来たわけじゃないから……」
くすっと笑って、前を行くニースたちを眺めた。先導するタクトに続いて、まるで潜伏部隊のごとく藪の中に体を沈めて進んでいる。それが本来の冒険者の姿と言えば、そうなのだけど。
いつも賑やかな3人の会話が鳴りを潜めているあたりも、さすがは冒険者。この森ではおしゃべり厳禁と感じているらしい。
「今日は、お試しでしょう? 明日から、どのあたりまで一緒に行けるか考えるね! キルフェさん、お店のお手伝いとかあるでしょう?」
だって、キルフェさんは一応メンバーだけど、助っ人扱いというべきか……。元々、お店の方が手すきだったらって話だもの。
「さすがに、ウチのパーティのお守りを、あんたらに任せるってのもねえ」
「ふふっ! 違うよ、オレたち元々一緒に依頼こなしたりしてたもの。ニースたちと行くの、楽しいからね!」
「言うねえ。大物だよ、あんたらは」
綺麗な顔で大きな口を開け、キルフェさんがからからと笑った。
途端、前を行く3人が振り返って『しぃっ!』とやる。
中々の緊張感だ、普段のほほんとしている3人だから、かなりいい特訓になりそう。
前を行くニースに近づき、そっと尋ねてみた。
「ねえ……ニース、強くなりたい?」
「うわっ? び、びっくりするだろ?! 急に下から声かけるんじゃない! つうかなんだその、魔王の誘惑的なやつ」
オレは下からしか声かけられません! それ、『力がほしいか……?』的なやつのことだろうか。
言い得て妙だとくすくす笑いながら、問いを重ねた。
「あのね、ニースたちはどうしたいのかなって。強くなって、Cランクになりたい? それとも、今くらいで、リスク低く冒険者やりたい?」
ぴくっとしたニースが、少し考え込んだ。
途端に周囲への警戒が途絶えてしまうところ、おしゃべりはやめておいて正解だ。
振り返ったタクトが、オレがいるのを確認してニッと笑う。
頷きを返して、地面を蹴った。
「ニース、肩借りるね」
「んわっ?!」
タン、とニースの肩も蹴って、さらに上へ。
まさか、小さいオレが空を飛ぶとは思わなかったんだろう。
がら空きの首を、回転と共に一閃。
ガササ、と大きな音をたてて落ちてきた魔物に、3人が大いに身を竦ませた。
「やっ、なにっ……?!」
「え、俺今……ヤバかった?!」
「怖……」
どこを斬っていいか分からなかったから、とりあえず首を落としたけど。これなんだろうな、割と凶暴そうな外見をした虫だ。ヘビトンボが近いかもしれない。大きいけど。
「ひいぃ……やっぱ無理じゃね?! 本日の食材を狩るより先に、俺がディナーになるぅ!!」
「まだディナーには早いね~」
「そういうこと言ってんじゃないんですけどぉ!」
のほほんとしたラキと、自らを抱きしめて青ざめるニース、身を寄せあうルッコとリリアナ。中々の温度差だ。
「だけど、ニースも警戒さえ怠らなければ、気付いたんじゃない? ごめんね、オレが話しかけちゃったから、これはお詫び!」
その気付きは、本当に攻撃を紙一重で躱せるかどうかの時点、かもしれないけれど。
「どうかな、ニースはどうしたい?」
もう一度尋ねたオレに、3人が顔を見合わせた。
「――だからって! いきなりこれはなくねえ?!」
「無茶したからって強くなるわけじゃないのよぉ?!」
「横暴ー!」
失礼な。何も無茶してない。
とてもとても安全を確保された、贅沢プランだ。
さっきのヘビトンボ(大)が二匹いたので、『草原の牙』に相手してもらっているだけだ。
「ニースの兄ちゃん、あんま騒ぐと、どんどん集まってくるぜ!」
「取り零したら、ごめんね~?」
ニースたちの周囲で構える二人が、爽やかな笑みを向けた。顔色を悪くしたニースたちが、きゅっと口を閉じて魔物を睨みつける。
タクトとラキは、これ以外の魔物が襲って来た時の排除係。そしてオレは、『草原の牙』が本当に危機に陥ってしまわないための、ライフセーバー係。
「ほら、つべこべ言ってないでサッサと討伐してしまうよ!」
キルフェさんの発破と共に、放たれた風魔法が空中にいた二体を巻き込み、墜落させた。
「うまいじゃないっ!」
「よ、よしっ!」
「援護!」
……イケると思う。さすがの、連携熟練度。
ほぼ同時に飛び出したニースとルッコが同一個体を狙い、リリアナが流れるようにもう一体を足止めしている。
正面で大あごを受け止めたニースの脇をすり抜け、ルッコが翅を落とした。
慌てて振り返った虫の首に、ニースの剣が突き刺さる。悲鳴を上げた虫から素早く離脱し、すかさずキルフェさんの魔法が着弾、ニースが剣を振りぬいた。
その隙にルッコがリリアナの前へ回り込み、もう一体の正面へ。
「……なんか、思ったより強くねえ?」
「流れるような連携が、さすがだね~」
「連携だけなら、オレたちより凄いよね」
阿吽の呼吸と言うべき、パーティらしさだ。
感心して呟いた途端、ぬるい視線が突き刺さる。
「俺らの所はさあ、連携ってねえからな」
「各個撃破だからね~」
そ、それは別に……オレのせいじゃなくない?!
それに、きっとそれは実力が高いってことだよ! 連携せずに倒せるもんだからそうなってるわけで!
そうこう言う間にノルマ達成しそうなので、慌てて声を上げた。
「チャト! いいよ!」
ここからは見えないけれど、こういうことならちゃんとやってくれてるはず――。
「や、やった! 結構凄くね?!」
「私ら、討伐早かったんじゃない?! ねえねえ、見てた?!」
「というわけで帰宅希望」
無事に討伐に成功した3人が、元の『草原の牙』に戻ってふにゃふにゃしている。オレが思うに、彼らは本気モードに入りづらく、維持しづらいのでは。
「ばっちりだね! 次、行くよ!」
にっこり笑ったオレに釣られるように笑みを浮かべた3人が、ピシリと表情を固めた。
その背後から、藪をなぎ倒して近づく音がする。
「「「つ、ぎ……?」」」
「いいから、構えなぁ!」
どどん、と着弾した火魔法で、こちらに突っ込もうとした魔物の突進が止まる。
「あっ、食材になりそうだよ!」
今度は虫じゃない。緑色だけど、熊っぽいかな。
チャトは、上手に選別して食材になりそうなのを煽って来てくれたらしい。空中を舞うしつこい猫パンチは、大体の魔物を激怒させる効果があるからね。
「だから! 先に俺らが食材になるー!!」
「いやーー!」
悲鳴を上げる草原の牙が、身構えた。
『気の毒に……ここに獄卒3人衆が揃っているばっかりにね……』
『タクト送りにラキ刑、ユータ懲役……。憐れ、草原の牙。俺様、骨は拾ってやるからな』
両肩からのセリフにハッと顔色を変えた。
ち、違う、これは、ちゃんと『強くなること』を望んだニースたちへの全面協力であって……!!
「ふふ、楽しいね~。限界、越えられるといいね~?」
うっすら笑みを浮かべたセリフに『越えられなかったら、どうなると思う?』なんてニュアンスが滲んでいる気がしてならない。
そして、震えあがるニースたちの視線の中に、オレたちまで含まれている気がしてならない。
「懲役、どのくらいかな~? きちんと服役を終えてね~?」
これで終わりではないと言外に含ませた意味が、ニース達の瞳から光を奪っていく。
「ちょっと?! さりげなくオレをメインに据えようとしないで?!」
楽しんでるのはラキだけだから!!
だけど必死に言い募るオレのセリフは、もう誰も聞いていなかったのだった。
あーーーーーーーー!!!ロクサレンの日忘れてた!!!
これ書き終えて投稿するときに気付いた!わーーーん(´;ω;`)もう22時過ぎてるよ!今からご飯作るから無理よ!!
あの、何か、こう……ないですかね?
こうなったらもう、私じゃなく皆様からこう……ソレ的なアレを……
キャ、キャラに一言、とか……あれば…………あれば…………