表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

993/1030

978 対価

多分、絶体絶命――ってやつなんだと思う。うん、多分。

これは魔法植物というより、魔物の方に近いかな。

イソギンチャクのようにうねる蔓が何本も地を這い、その中央に大きな口が開いている。

そして、今まさに捕らえられた獲物が、涎を垂らす口へ運ばれようとしていた。

華奢な足首を幾重にも巻いた蔓が、ピンと張って己の元へ引き寄せようと力を込めている。

そして、そうはさせじと必死に木の枝を掴んで抵抗する人。

完全に体が浮いて、手を離してしまえばもう、一直線に口の中。まさに、絶体絶命。


ただ……

「どう見てもあれ、ヌヌゥさんなんだよね……」

そう、ただそれだけで、助けなくてもいいように思う不思議。大丈夫な気がする。

「今度は何やってんだ、あの人」

「こってり絞られて、罰金も取られるって話じゃなかった~? とりあえず、放っておこうか~」

今朝のあれは事故でも遭難でもなく、自主的な行いだったので……犯罪とまで言えなくとも、かなり厳しく怒られているはずなんだけど。

「あ~今、身体が見事に一直線! やだもう手が限界! けど見てこの美しき等尺性運動の極致! ああっ、こんな時に誰もいな――」

と、ひとりで騒いでいた声がぴたりと止んだ。


ぞくりと気配を感じて恐る恐る振り返ると、ビィンと真っ直ぐ引っ張られたままの姿勢で、ヌヌゥさんの瞳がギンと見開いてこちらを捉えていた。

次いで、ニタリと笑みが浮かぶ。……怖いんですけど?!

「ほうらね、ほら、やっぱり人がいた! ってか君あのベビちゃんじゃない?! 探してたのよ! とりあえずこれ見て! 伸びきったこの身体! これはね、ただのトレにあらず! 姿勢矯正とリフトアップからたるみ改善効果などが――」

……そう言えば、アイソメトリック運動がどうとか、地球で聞いたことがある気がする。

やっぱり、自主的にこの状況になったんじゃない! そして、まだ結構余裕ありそうだ。

意外とこの人、力があるな……鍛えるのも美容の一環だからだろうか。


「あの、じゃあお邪魔しました……」

面倒なことになる前に、と愛想笑いでその場を後にしようとしたら、ひと際大きな声が追いすがってくる。

「え、ちょ、ええええ?! そんな非道なことしないよね?! あ、もうっ……限界! 限界来ちゃう!! ヘルプヘルプヘルーープ!」

本当に……? 疑いの目で振り返ったものの、そう言われてしまえば選択肢は他にないわけで。



「――いやぁ、今回ホント無理かと思っちゃった! ありがとね! ついでにこのことは内緒にしてくれると嬉しいな! 最近罰金の取り立てが厳しくってぇ」

「じゃあ、やらなきゃいいのに……」

「やらないわけにはいかないでしょう! ふふふ、効いてる効いてる。私の美ボディを形作る美筋肉にビリビリ来てるわ」

渋々救出したヌヌゥさんは、やっぱりピンピンしている。結構な間、全力のアイソメトリック運動をしていたはずだけど。

「そもそも、どうして魔力も回復してないのに森に入ったの~? しかも一人で~?」

そう、魔力すっからかんのままなんだよこの人! さすがに放置していくのも後味が悪いので、一緒に行くしかない。


「よくぞ聞いてくれたわ、そもそも、ちょうどいい所にギバインがいたから寄り道しちゃっただけで、本来あなたを探してたの!」

「オレ……?」

そう言えばさっきもそんなことを言っていた気がする。そしてギバインってあの陸上イソギンチャク? 聞く限り初犯じゃないんだろう……毎度トレーニングに使ってるのか。魔物にまで迷惑が波及している……。

「そ! ちゃんと言ってたでしょ? あの魔法を教えてって!」

あの魔法? と首を傾げて、洗浄魔法のことだと思い当たった。あれ、本気だったんだ。

「でもオレ、なんとなく使ってるから教えられないよ」

「珍しいわよね、人間で無詠唱って。でも大丈夫、私、美に関することなら絶対できるって信じているから」

そ、そう。全然大丈夫の根拠を感じないけど、まあ森人だし……洗浄魔法の白血球モドキはともかく、『普通』の洗浄魔法なら水魔法の一環だし覚えられるんじゃないかな。


「でもさあ、今魔力ないんだろ?」

「「あっ……」」

ラキが傍らでふう、と息を吐いた気がする。その溜息の中に、オレが含まれていた気がしてならない。

「ヌヌゥとしたことが、ウッカリしちゃった! じゃあその魔法、さわり部分だけでも教えていただいて……」

「それ、結構凄いこと言ってるけど~? 代わりにヌヌゥさんは何をくれるの~?」

了解、と頷こうとしたところで割り込んだ声に、ハッとした。

そうか、これも他人に無償提供していいものじゃないのか。まあ、ヌヌゥさんが既に他人という気がしていなかったのもあるけど。


同じくハッとしたヌヌゥさんが両頬に手を当てた。

「えっ、やだ、そういうこと?! おませさん!!」

「わ、なに?!」

まだヌヌゥさんが話している途中で、瞬時にタクトに耳を塞がれた。

な、何なの……?! 振り仰いだタクトがほんのり赤いのを見て、ははあ、と思う。

ヌヌゥさんだもんね……お姉さんの美ボディ目当て?! とかなんとか、そういうことだろう。

あの……俺さ、タクトたちよりずっと大人……。まあ、今こんな見た目だもんね。

とりあえず、ヌヌゥさんがラキにデコピンならぬデコ射撃されて悶絶している。

ちょ、ちょっとやりすぎでは……??


「ちょ、ちょっとした年上ジョークだったのにいいぃ!! 冗談が通じない!」

「うん、幼児に言っていい類のジョークじゃないね~?」

「はいっ……ごめんなさい!!」

ラキが極寒になっている……こっちにもとばっちりがきそうだから、心底やめていただきたい。

「って言ってもさあ、金とかもらうのもなんかなあ。ユータは何か欲しいもんある?」

「そ、そう言われても……」

「ええ?! こんなに価値しかない私に、望むものがないの?! 美しいって罪!」

前後の繋がらないヌヌゥさんのセリフは置いておくとして、美容にいい食材とか? でもそれならプレリィさんの方が信用できる。なんか、ヌヌゥさんは毒でも美容にいいなら飲みそうだし。そもそもオレは美容に興味ないし。


「魔法の交換したらいいんじゃね? 変わった魔法持ってそうだし」

言われて、なるほどと膝を打つ。

使えるかどうかは別として、対価としてもらうには、邪魔にならなくてちょうどいい。お金はちょっと……なんか個人から大金をもらうのは気が引けるし。

「それいいね! どんな魔法がいい? 色々あるわよぉ~! 大盤振る舞いしちゃう!」

「ホント?! オレ、それだったら興味ある!」

「それだったらって微妙に失礼~でも許しちゃう!」

互いに手を握り合って身を乗り出した時。

「でも、今魔力ないんだよね~?」

「「あっ……」」

そうだった……項垂れたオレたちに、生暖かい視線が注がれた。

「じゃあ、ひとまず帰ろうか~」

「「はい……」」

なんでだろう、オレまでヌヌゥ枠に入れられている気がしてならない……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
ヌヌゥ枠…あはは! 書籍12巻を読んでいる途中なので、 ラキのお兄さん感がマシマシに感じられる( *´艸`)
ヌヌゥ枠ギブアップ… 世界観が壊れてゆく…
足首に重り付けてぶら下がってれば良かっただけでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ