表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

972/1031

957 プレリィさんのお願い

「このぷるぷる、どうやって食べるの?」

きなこ色のぷるぷるは、振動に伴って僅かに揺れている。栄養だというから、ラクダに倣えば脂肪の塊ということになるんだろうけれど……明らかに、脂肪じゃない。

「これはね、命の源だから普通は煮溶かして乾燥させて、大事に小分けにするんだけど」

プレリィさんが、うっとり甲殻を眺めて微笑んだ。

「これだけあるから、贅沢に使ったスープにしちゃったり……」

そこでハッと我に返ったかと思うと、慌てた様子でオレを見た。


「な、なに?!」

「贅沢スープにするんだとしたら! 他の素材だって必要じゃないか! せっかくだから、揃えたいよね?! ユータくんたち、お願いできる?!」

オレの両肩を掴む手に、力が籠もる。

「う、うん。だけど、オレたちに分かるかな?」

「大丈夫だよ、きっと! 見つけられるかどうかが心配だけど、こんなに立派なロクロス甲殻に巡り合えた君らなら大丈夫!!」

自然と顔を見合わせたオレたち。

えー……オレたちって、あんまり運は良くないような……。


「どっちかというと、トラブル運が強いだけっつうか……」

「厄介ごとなら、ばっちり引き当てられる気がするんだけど~」

頷きかけて、二人がオレを見ていることに首を傾げた。なんでオレを見るの?

「……だけど、オレたちには蘇芳がいるから! ねえ蘇芳、美味しいものを食べるためなら頑張るよね!」

肩車状態の蘇芳をぽふぽふ叩くと、フンス! と気合十分の鼻息が聞こえた。

『スオー、全身全霊で頑張る』

ありがとう! ただ……頑張れるんだったら、普段ももうちょっと半身半霊くらいはかけてくれたら嬉しい。


「じゃあ、頼むね! メモするよ」

「あ、でもそうなると護衛がいなくなるよ?」

「大丈夫、気にしないで! あ、シールドの道具がどこかにあったと思うし」

……魔物の闊歩する森近くの草原でひとり。それを気にしなくていい人に、果たして護衛は必要なのか。

まあ、いいと言うならいいだろう。

オレたちはメモを片手に、さらに森の奥まで踏み入ったのだった。




――ぶん、と唸りを上げて飛来した弾丸を、反り返って避けた。

バチイッ! と何かとぶつかった音がする。

「っしゃああ! 採ったぞ!」

ナイスキャッチ! バレーボールほどの弾……ならぬ果実を腹に抱え、タクトがにっと笑った。

プレリィさん……お使いに行って来て、のノリで頼んでくれたけれど、これって割りとハードな依頼だと思う。

ガメリアの木の実、とは聞いた。

魔法植物で、ツルを動かしたり実を飛ばしてくるから、落とさないようにキャッチしてとも聞いた。

聞いたけど、ニュアンスが違わない?!


「おっけ~! いけそうだね~。もう一個くらい、もらえるかな~」

「「よし来い!」」

離れた死角から、ラキがガメリアの木を狙い撃つ。あくまで、ささやかな傷を与える程度で。

危機を察知したガメリアが、微妙~にツタの届かない位置でちょろちょろするオレめがけて、剛速球を撃つ! あのね、実を飛ばすとか、そういうかわいい感じじゃないよね。

躱せるけどもっ!!

「っしゃあ! ラキの弾よりは遅いな!」

オレから直線状、離れた位置に陣取ったタクトが、見事なセーブを見せる。

バチィッ、と響く音は、多分オレとかラキが当たると下手すればご臨終クラス。

ラキ・オレ・タクト連携でなんとかなってるけど……これ、本当にCランクの依頼?


「もういいよね?! 次、何?!」

「え~と、ツツイツ茸~?」

「キノコ? そんなもん分かるかよ?!」

無理そうなら適当にキノコを採って来てと言われたけれど……。

「でも、結構大きいって書いてあるよ~? 分かりやすいんじゃない~?」

キノコなら、もしかしてティアが分かるだろうか。

「……ピ」

難しい顔をして目を閉じたティアの表情が渋い。なんか、お気に召さなかったみたいだ。

管轄外、とでも言いたげな気配が伝わってくる。


「……ピッ」

仕方あるまい、とでも言いそうな顔で溜息を吐き、ティアが軽い羽音をたてて飛び上がる。

「ついて行こう! ティアが分かるかもしれない! 大きい以外の特徴は?」

「えっと~、黄色と赤のまだら模様~」

……それは、存在していたら結構わかりそうな気がする。食べるの……?

「ピピッ!」

ここ、と言われている気がして、小高くなった場所から一気に飛び降りた。

ぐに、と妙な感触がして、何を踏んだのかと足裏を見たけれど、何もない。


「……なあ、黄色と赤って、こんな感じ?」

タクトが、飛び降りなかったラキを振り仰ぐ。

「そうだね~。僕は、ここにいようかな~」

微妙な顔のタクトに釣られてまじまじ足元を見れば、重なり合った落ち葉か何かかと思っていたそれが、ひとつながりの模様であることに気付く。

「わ、わ、わ?!」

「……結構大きい、じゃねえよなあ……」

地面がぐぐっと高く持ち上がって、段差の上にいたラキと目線が同じになった。

にっこり笑ったラキが、呑気に手を振る。


『ぎゃああーー巨大キノコ魔物?!』

『おやぶ、食べ放題なんらぜ!!』

大分温度差のある師弟の声をバックに、今、まさに6畳間ほどもある傘を持ったキノコ……いや、魔物? が、不届き物を成敗せんと暴れ出した。

「ちょ……っと?! プレリィさんーーーっ?!」

弾き飛ばされたオレはくるっと体を捻って着地した。

「えええ! これ、どうやって料理するの?!」

『そこじゃないな』

『スオーは、完璧』

「頑張って~」

「切っていいのか?! これどこ食うの?! 生は食えねえよな?!」

ええいもう! みんな言動の方向性を統一して?! 


美味い物への道は険しい。オレたちは、ひとまずそれだけは理解したのだった。



「――あっ! おかえり! 見つかった?!」

「「「ただいま……」」」

オレたちの淀んだ声音を気にも留めず、プレリィさんがいそいそやって来た。

「うわあ、本当に見つけて来ちゃうなんて、やっぱりすごい幸運の持ち主だよ!」

『確かに、こいつら向きの運ではあった』

『スオー、頑張った』

幸運……果たしてこれを幸運と呼べる人はどのくらいいるかな?!

「プレリィさん……? ちょっと、思う所があるのですが」

「なにかな? やっぱりユータくんたちは凄いね! 結構大変だったでしょ」

「「「結構じゃないですけど~~!!」」」

オレたちの魂の叫びにも、プレリィさんは心ここにあらずだ。手際よく槌とノミのようなものでガメリアの実を割り、巨大キノコから必要部分を切り出している。なんでそんな大工道具みたいなものまで……。


「そうだ、さっき獲物が来たから、頑張った君たちに特別に!」

既にお肉となっているまな板の上のもの。多分、プレリィさんを獲物と勘違いした哀れな獲物。

さすがの手際……。メインの調理をしつつ、合間に作った串焼きが炙られていい香りがする。

「はいどうぞ」

渡された皿の上に、ジャパニーズ焼き鳥サイズの串焼き肉。

いただきます、と飛びついて頬張った。

何か知らないけど、美味しいに決まってるから。

「なにこれ?! こりこりっとして不思議!」

「美味しい~歯ごたえが面白い~」

「物足りねえけど美味い!」


たったこれだけで、まあ、大変だったけどいいか! と思えてしまう。

だって、オレたちだけ特別、だもんね!

……うん? じゃあオレたち以外って――

何かが頭をよぎった気がする。決して忘れてはいけない何かが……。


ちょうどそこへ、遠くから悲鳴が聞こえ――いや、猛スピードで近づいてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
プレリィさんって、ある意味もふしら最強キャラなのでは(^_^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ