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954 狩りと料理と冒険者

「プレリィさんは、魔法使いだよね?」

「そうだね、森人だしね」

「結構、強いよね? 冒険者だと、どのくらい?」

「ふふ、どうしてそう思うんだろう? 僕、戦闘苦手だし、ユータくんほどじゃないと思うけど」

おっとり笑うプレリィさんは、確かにどう見ても戦闘が好きなタイプではない。這ってる芋虫を5時間くらい眺めていられそうな……降って来た雨が瓶を満たすまで、ずっと見つめていられそうな人だ。

『それはもはや人類を越えてると思うんだぜ』

『植物の域ね……』

それは言い得て妙だ。確かにプレリィさんからは、大樹みたいな気配を感じるもの。

さすがは森人……と思いかけて、プレリィさん以外が全くもって当てはまらないことに気が付いた。

うん、つまりはこれ、プレリィさんだけの特徴だね。


「オレ、結構強いよ!」

「そうだね、分かるよ。持って来る素材だって凄いし」

「オレだってプレリィさんが強いの分かるよ! だって狙う獲物がCランクだもの! ねえ、ロクロスのメニューは決まった? どんな味?」

オレたちは森の中に分け入りながら、止まらないおしゃべりに花を咲かせていた。

今後、旅路の途中で狙える獲物をリストアップしたので、今はリストに従い、この付近に生息するはずのロクロス狩りを目論んでいる。


「こういう場でのおしゃべりは止めた方がいいと、私は思うんだけど?! ロクロス狙いって言ってたよね?! ってことはつまり、ここにロクロスがいるってわけで?!」

「完全同意」

「おいおいおい、さすがはユータだけどさ! いや確かにCランクだけどさ?! 魔物のCランクってさ、冒険者のCランクより強かったりするじゃん?! なあ、ちゃんと索敵してる? お口チャックでやろうぜ?!」

静かなおしゃべりを楽しむオレたちより、彼らの方がよほどうるさいと思う。

ちら、とぬるい視線で振り返ると、草原の牙の後ろで、タクトとラキも同じ顔をしていた。


「あんたら……色々恥ずかしいよ! 思うに、パーティ単位で分かれた方が、効率いいんじゃないかい?」

「「「ッ?!」」」

キルフェさんの提案に、草原の牙3人が声を失うほど衝撃を受けている。

「ああ、確かにね。だけど、どう分かれようか? 『草原の牙』はロクロス倒せそう?」

のほほんと顎に手を当てたプレリィさんに、3人が必死に首を振っている。

「倒すまでは難しいんじゃないかい? ただ、曲がりなりにもCランク試験を受けようとするくらいだ、足止めくらいはできるだろさ。……そうだね? あんたたち」

ぷるぷる震える3人の目が、一気に潤んで怯えた子犬みたいだ。

もう一度、『ねえ、あんたたち?』の圧をかけられ、ギクシャクと頷いている。


「で、でもぉ……私らやっぱDランクだし? 誰か、一緒に……」

「そうだ、せめてプレリィは俺らと行かねえ?!」

「妙案!」

縋るような視線がプレリィさんに向けられ、キルフェさんが呆れたように溜息を吐いた。

「あんたら……一応、アレ護衛対象。なに護衛対象に頼ろうとしてんのさ! いくらあたしらが依頼を受けたワケじゃないとはいえ……」

あ、確かに。プレリィさんを戦力に入れちゃダメだった。

ちなみに、護衛対象はプレリィさんのみで、キルフェさんは『草原の牙』として単に同行しているというややこしい状態になっている。もう、まとめて護衛対象でいいけど。


「なら、僕はユータくんたちと行動を共にするってことかな? よろしくね」

「うん! じゃあさ、『草原の牙』にはモモとシロを派遣しておくよ。モモはシールドが張れるから、頼りになるよ! シロは……説明不要だよね!」

「シールドを張れる? スライムが……? どういうことだい」

「「「あ゛り゛がどう~~~!!」」」

訝し気なキルフェさんと、滂沱の涙を流す面々に苦笑して、シロとモモをひと撫でした。

『仕方ないわねえ』

『ぼく、がんばるね!』


ひとまず、これでニースたちが気になってしょうがないという事態も避けられる。

「よし、早く探しに行こうぜ! 腹減った!」

「ロクロスの甲殻はもらっていいんだよね~?!」

やる気満々の二人が、今にも駆け出しそうだ。

あの、一応護衛……。全く、頼れるのはオレだけだ。

「それで、ロクロスってどんな魔物なの?」

きゅっと表情を引き締めて尋ねたのに、タクトたちががっくりと肩を落とした。

「そこからかよ……」

「ユータ、味を聞く前に魔物全体像を把握しよう~?」

……どうやら、二人は既に魔物について把握していたらしい。

だってしょうがない。オレは、料理をするという立場上、最も重要な項目を優先したにすぎないのだから。


『主ぃ、料理人より先に、狩る冒険者の立場が必要なんだぜ!』

『おようりの前に、冒険者なんらぜ!』

……ごもっともです。

まずは、食材を用意しなくては料理もできない。食材の性質を把握しなくては、料理の質を上げることもできない。

『スオー、そうじゃないと思う』

せっかく反省して魔物について尋ねていたのに、水を差すような呟きだ。


まだ未練がましくオレたちに視線をやる『草原の牙』に手を振り、連絡用管狐部隊も派遣しておく。

ニースたちの実力は足りなくても、多分キルフェさんがカバーできると踏んだんだろう。あと、彼らは逃げ足が結構早い。不安要素はリリアナの体力のなさだけ。

いずれにせよ攻守揃ったシロ&モモペアがいれば、大体何が起こっても大丈夫だ。



「――そっか、つまり甲殻とはさみのあるトカゲ?」

「そんな感じかな? 重そうな見た目だけど、結構素早いよ」

鼻息も荒く先を行く二人を追いかけつつ、オレはちゃんと護衛しながらプレリィさんに話を聞いていた。

甲殻とはさみのあるトカゲ……オレの貧困な想像力では、若干厳しい姿だ。

「亀とは違うんだ? あの、タラスクゴアみたいなさ」

「……タラスクゴアってね、割と災害級になるような魔物なんだよね。どうしてユータくんが知ってるの?」

あ……うん、確かにあれは災害級。多分、カロルス様が討伐したというヒュドラよりはずっとマシだと思うけれど。

えへ、と笑って誤魔化すオレに、プレリィさんが苦笑した。


「本当だったんだね、タラスクゴアが討伐されたって噂。金銀同盟の手柄って話だったけど」

「そ、そうだよ! オレは居合わせただけだもの」

「居合わせたんだ」

…………ゆ、誘導尋問! こんなの、誘導尋問だよ。

『誘導してないな』

『スオー、先陣切って飛び込んだと思う』

くっ……なんて生きづらい世の中なんだ。仕方なく、タラスクゴアについて聞かれるままに答えていたら、索敵に引っ掛かる魔物がいた。

引き寄せられるようにそちらへ方向転換したタクトも、気付いたんだろう。


それなりの反応、もしかしてもしかするかも!

気配を消して、森の中を素早く移動するオレたちと、ばっちりついてきている護衛対象。

ホント、オレたちってプレリィさんの素材確保のためと、彼を里帰りさせたいキルフェさんの思惑のためだけに護衛依頼されたよね。


反応を追っていると、ふいに木々が途切れ、断崖になった場所に突き当たった。

崖下を覗き込んだタクトたちが、にやりと笑って、オレもにやりと返す。

「プレリィさん、行くよ!」

「居たかな? 任せるよ!」

プレリィさんも、綺麗な顔で笑って頷いた。


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頑張れ「草原の牙」! モモとシロがついてるよ(^_^)
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