951 交渉成立
素早く視線を交わしたオレたちは、真剣な顔で眉間にしわを寄せた。
これは……どうする……?
一体、何が正解なのか……。
プレリィさんの依頼を受けてしまったら、多分日帰りもしくは二泊三日程度の範囲になるだろう。
長期依頼で遠方まで行って現地解散の旅行気分が味わえない。
だけど、ちょうど貴族でもなく、そして多分あんまり守る必要もなさそうな気負わない護衛。
何より、道中味わえるだろう食事……!!
オレは今、みんながオレの食事目当てにする理由をひしひしと実感している。
「すごく……………………魅力的なんだけど……」
「すごい溜めが入ったね?」
ひとまず食べるのが先、と目の前の料理を平らげてから、改めて護衛依頼について話し合った。
「うあ~迷う! 最初の依頼はさあ、Cランクらしい護衛の長期依頼を受けてさ! そんで旅先でダンジョンでも行ってさ! 満喫したかった……けど!!」
「そう~。けど、この依頼も魅力的すぎて~」
「うう、どうしよう! どっちも行きたい!」
頭を抱えて唸るオレたちに、プレリィさんがくすくす笑った。
「別に僕は急がないから、お楽しみの後でいいよ? 時間なんていくらでもあるんだし」
その時、キルフェさんがハッと立ち上がった。
「それ! 一体何十年そう言い続けるつもりだい?! そうだよ、いい機会じゃないか!」
途端、プレリィさんがそそくさと厨房の方へ向かう。
「ユータくんたちは忙しそうだし、ウチも最近客足が絶えなくてね~。なかなか時間とれないから、またタイミングが合えばってことで――」
「ダメ! 決定。今後もこの状況は続くよ、また客が退くのなんて、何十年後だと思ってんだい! つべこべ言わずに、この際店を閉めて行くよ!!」
二人を交互に見ながら、オレたちは首を傾げた。
どうやら、プレリィさんはどこかへ行くのをずっと渋ってるんだろうか。
キルフェさんが、圧のある笑みでぎんっとこちらを見た。
「というわけで! 受けてくれるかい? 遠方への長期護衛依頼。帰りは素材狩りをしなきゃいいんだから、護衛は結構だよ! しかも、道中美味い飯付き! さあ、どうだい?!」
「うおー! やったぜ!」
「喜んで~! 願ってもないよ~!」
いきなり二人が諸手を挙げて陥落した。
「え、え? でもそれってどこに?」
「ふふ、里帰りってやつだね! ついでに、道中素材解説やレシピ公開あり!」
「乗ったぁ!!」
椅子の上に飛び上がって、鼻息も荒く身を乗り出した。
「はい、交渉成立。あんたも腹くくりな!」
「え、ええ~? まず僕の意思が優先されるべきじゃないの?!」
「あんたの意思なんか優先してたら、何も進まないからね!」
プレリィさんが行きたくなさそう。だけど、里帰り……里帰りって。
「キルフェちゃん、遠距離の里帰りってもしかして、森人郷? うわ、俺らもいつか行ってみてえなあ」
やっぱり?! メリーメリー先生に聞いたことある! 授業でも習った!
森人、って言われる人たちは今でこそあちこちで見かけるけど、元は大きな森にしか住んでいなかったらしい。
国、というほどのくくりでもなく『部族』くらいの扱いが近いだろうか。深い森を居住区にしているだけあって、なかなか一般人が行ける場所じゃないんだとか。
メリーメリー先生は『ド田舎すぎて行くのが大変』くらいにしか言ってなかったけども。
「そっかあ、キルフェちゃん森人だもんね! 案内してもらえるか~」
「美食……」
3人の反応に、キルフェさんがやれやれと肩を竦めた。
「何言ってんだい、あたしのパーティメンバーだろ? あんたらも行くんだよ!」
「「「えええーーー!!」」」
3人の息の揃った絶叫が店内にこだました。
わあ、『草原の牙』面々と一緒に行けるのか。
目を輝かせるオレたちを横目に、プレリィさんが仕方ないなと苦笑している。
オレたちは、絶対楽しいことになる旅路を思って、満面の笑みを浮かべたのだった。
「――ねえ、他に何がいると思う?! お金はありったけ持って行かなきゃ! お米とか、みりんとか、他にも絶対いいものがあるに決まってるんだから!」
「いやお前、足りねえわ! 俺のへそくりも渡す! つうかロクサレンの予算も使うから、とりあえず向こう行ったら一旦戻って来やがれ!」
傍目には無茶を言うジフに、大きく頷いた。
興奮冷めやらぬオレは、ジフと綿密な打ち合わせを行っている。
森人は、結構美食家で有名らしい。そりゃあ、プレリィさんが生まれ育った環境なんだもの、さもありなん。
しかも寿命が長いから、植物の品種改良とか研究分野も得意らしい。盆栽や畑仕事をやりがちなおじいさん的思考だろうか。
森自体はルーのいる森くらい大きくて、危険度も高いらしいけど、居住区はどんな感じだろうか……。聞くところによると、森人の案内がないとたどり着くのは難しいとか。
森人郷の様子について、頼りには全然ならないけど、メリーメリー先生にも話を聞いてみようか。ゼロよりマシかもしれない。ゼロの方がマシの可能性が消せないのが難点だけど。
森人って結構穏やかな人が多いとは聞くけれど、キルフェさんは結構激しいよね? そこまで排他的ではなさそうだけど、転移で度々訪れても許されるような場所かな? でも、魔族の国や海人の国とは違うから、オレが何度も現れたらさすがに変だよね……。やはり、この一回に賭けて色々入手しなくては。
「あとは、レシピだな……お前、分かってんだろうなぁ?」
ド低い声で、山賊顔が凄む。
「当然。ありったけ、目につく全てを入手するつもりだから」
「へ、強欲が。……いい度胸じゃねえか」
無言で口角を上げたオレに、ジフもにやりと笑う。
『主ぃ、護衛任務の準備は……?』
チュー助の鋭い指摘……! しかし、今回護衛するのはプレリィさん。しかも、草原の牙も一緒だ。
つまり、全員戦闘員。護衛とは名ばかりの楽しいレクリエーションみたいなものだ。むしろ、キルフェさんが引率する森人ツアーに同行するだけだ。
とても気が引けるので、道中プレリィさんの食事を出してもらうことで、報酬を思い切り下げてもらっている。何なら、お支払いしたい。
『私は、どこにツッコめばいいのかしら……』
モモだけが、力なくオレの肩で扁平になっていたのだった。
『747 やってみたかった』でユータくんが歌っていたおばちゃんの歌、
AIで歌にしてもらったら、なんかカッコいい曲になって笑えるので聞いてみて~(笑)
もっとおばちゃん労働歌的にしてやるぜ! って方はぜひ挑戦して~!
youtubeだと規約的に微妙そうなので、Twitter(X)で!
『https://x.com/sheepswing/status/1906849360115376624』