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936 それぞれのポジション

「寝るな寝るな、口を動かせ」

おでこを突かれ、ハッと顔を上げて咀嚼を再開した。

本日の最難関、なんとか落第点ギリギリクリアだ。多分。

大分起こしてもらって、なんとか。

眠気を覚まそうとパパッと朝食を作ったものの、動きが止まると睡魔が足を引っ張りに来る。

「呑気ねえ……」

ベラさんに呆れた顔をされ、残り二人に笑われた。

そんな気楽なもんじゃないんだけど。オレにとって、これがどれほどの死闘なのか、誰も分かってくれないのが辛い。魔物の大群を殲滅する方が、どれほど簡単か。


朝食は、昨日作っておいたコウモリ肉の蒸しペーストを固いパンにたっぷり塗って、チーズを載せて焼いたもの。目が覚めるように、と思ってわざと固いパンにしたのに。

もそ、もそ、と噛んでいるうちに夢の世界へ旅立ちそう。

「そうしてると本当に幼児なのにね」

「違いねえな」

「なんか、俺の認知が歪んできそうだ」

既に食べ終わった三人は、今日の計画を練っている。いや、オレも食べながら参加はしている。そのつもりではある。


「そろそろ、他の奴らが入ってくる頃合いだな?」

「そうね。私たち、大群の処理ばっかりやって足止め食ってたから、今日はなるべく進みたいわ」

そうか……ラキやタクトたち、もう着いてるのかな。

――着いてるの。タクトはもう中に入ったの。

「えっ、そうなの?」

眠気がかなり遠ざかって、落としそうになっていたパンを持ち直した。

――ラキたちは、もうすぐ着くの。

どうやら、タクト班は昨夜のうちに到着していたらしい。もしかして、待ちきれなくなったタクトが馬車を牽いていたりして。

くすっと笑って、はい、と手を挙げた。


「どうしたの?」

「タクト班……ええと、ファング班がもう坑道内に入ったみたいだよ! クロー班はもうすぐ到着」

「なんで分かるんだ?」

「しょ、召喚獣で……」

胡乱な目に気付かないふりをして、残ったパンを頬張った。

「まあいいわ。なら、急がなきゃね。地図で言うとこの辺りだから……せめてココまでは行きたいわ。なるべく魔物の群れは避けたいから、細道を行く? けど、細道だと罠を避けるのが難しいかしら」

「俺らが先陣である限り、やっぱ魔物が大量なんじゃねえか? 敢えて待機して、先陣を変わるってのも手かもしれねえぞ」

な、なるほど……! これが作戦……!!


思えば、オレたちダンジョンを進んだりするのに作戦ってたてたことない。

もしかしてラキはたてているのかもしれないけど、オレたちは知らない。

とりあえず前に進め! って感じで突っ込んでいる気がする。そうか、Cランクともなるとこんな風に作戦が必要になることもある。それを各々経験させようという魂胆もあるんだろうか。

Cランク試験、奥が深い……!!

『主たちが浅いんだぜ!』

『ラキの苦労が偲ばれるわね』

て、適材適所だから……。オレたちはそれぞれ得意分野が違うからね!


「でも、ある意味魔物を多く倒す、というのは試験には有利でもあるわ。実力さえあれば」

「そうだな。今回は……前衛がBランク。しかも回復術師がいてくれるなら」

視線がオレに集まり、まだもそもそ噛んでいたパンを飲み込んだ。

「うん、任せて! 即死さえ避けてくれたら、絶対回復するから!」

胸を張って、堂々と宣言した。これだけは、オレの誇れるところ。回復に集中させてくれたら、たった三人くらい、絶対回復してみせる。

「縁起でもないわよ。とはいえ、安心感がすごいわ」

「はっは、頼もしすぎるじゃねえか。それはそれで、死ねない強行軍、にもなるわけか」

ギルド員さんの何気ない呟きに、ハッとしたイアンさんとベラさんが、なぜか顔色を悪くして顔を見合わせていたのだった。



「わはは! こりゃいいぞお前ら、着いてきてるか?!」

「着いてきてるけど! 無茶しすぎだよ! 怪我したら痛いでしょう?!」

「いいや、面白い! 怪我してもすぐ治るからいいじゃねえか!」

ちょっとぉー! 見てる方が痛いんですけど!

前衛という最適ポジションを得たギルド員さんが、もはや戦車だ。完全に防御を捨て、負傷上等でひたすら豪快に大剣を振り回している。

ぎらぎらした血みどろの最前線に、オレたちはドン引きだ。

既にオレたち以外、動くもののいなくなった通路で物足りなさそうにしている。

必死で回復するオレのことも考えて?!


「いやー楽しい。こんな面白い試験は初めてだ」

魔物の殲滅をすませて来たギルド員さんは、文字通り血に染まって戻って来た。返り血ばかりなら良かったんだけど。

「あなたが大活躍しているのは……いいのかしら?」

「まあ、メンバーの1人として扱うという話だしな。Bランクを有効に使う、という作戦が当たったということで……」

「オレも大活躍してるよ?! もう、オレを背負っていってくれないかな?!」

「なるほど、次はそうしよう」

そうじゃない、次はもう少し怪我をしないようにしよう?!


「Bランクというのは、凄まじいな」

イアンさんが累々と折り重なる魔物を眺めて、感嘆のため息を吐く。

「Bランクがみんな、こうじゃないと思うけどね」

「分かってんじゃねえか。あたしは攻撃特化だからな!」

カロルス様みたいだね。やっぱり、特化しているものがあると、他より秀でやすいよね。

その点、オレは満遍なく、という感じだから微妙だ。


『あなたは全部特化してるのよ。規格外ってことよ』

『主自体が他より特化してるんだぜ!』

やれやれ、と言わんばかりのモモたちのセリフに、少々不満が残る。だって規格外ってさ、なんかこう……ハズレみたいで嬉しくないんですけど。

納得いかない気分でいくらもいかないうち、また小規模の群れと遭遇してしまった。単体でいる魔物が少ないのは、群れに駆逐されてしまったからかもしれない。


「次来たぞ! 乗れ、命綱!」

「やめて?! 命大事に!!」

慌ててその背中に飛び乗ると、途端に駆け出したギルド員さんが猛然と魔物に突っ込んでいく。

一応、その左腕に小さな盾がついているんだけど、使っているのを見たことがない。

デタラメに体当たりしながら魔物のただ中へ飛び込み、大剣の大ぶりで魔物をなぎ倒した。そしてがら空きになった身体に受ける攻撃を全部無視! そのままもう一度大ぶり体勢に入ろうとする。

「わわわ、マッツ・オ・バショー!」

「はあ? おいっ! あたしの獲物を吹っ飛ばすな!」

「回復できるからって、怪我を甘く見ちゃダメ! 痛みで行動だって鈍るんだよ?!」


彼女は怒るオレに不貞腐れた顔をする。普通、そんな注意いらないよ?! 誰だって怪我して痛いのは嫌だからね! この人は痛くないんだろうか。

「興奮してる時は痛くねえんだよ、面白いのに……」

それはそれで怖い。もう少し、平常心で戦ってくれない?!

ブツブツ言うギルド員さん、ちゃんとCランク試験のことを覚えているだろうか。

「前衛、離れすぎよ、戻って!」

後ろからも怒られて、渋々合流する姿は、完全にメンバーの1人として行動しているなと思う。

普段も、きっとこんな風に突っ走って怒られていそう。


「ものすごい攻撃力なのはいいんだけど、素材が壊滅的ね。あと、戦闘に熱中するあまり後方への注意が散漫になっては、元も子もないのだけど」

「いやあ~よく言われる」

ギルド員さん、普通に叱られている。

「その点、サポートは完璧。後衛もしっかりポジションを守れているわ」

「うっ……なんというか、ついて行けないって事情もあるけどな」

すごいなベラさん、ちゃんとリーダーだ。こういうのがリーダーか。

褒められると、すごく嬉しい。

締まりない笑みを浮かべ、ベラさんを見上げた。


「ありがとう! リーダーも、すごいね! すごく頼もしいリーダーって感じ!」

ピリリと引き締めていたベラさんが、きょとんと目を瞬いた。

「そうだな、冷静で全体を見ている。良いリーダーだ」

イアンさんも頷いて、ベラさんは忙しく何度も瞬いた。

「……私は、別に。でも、こんな風に評価されるのは……結構、嬉しいものね」

なんでもないように言ったベラさんの顔は随分いい色に染まっていて、オレたちはこっそり顔を見合わせて笑ったのだった。

キャラチョコありがとうございます!また集計しますね!!


そういえばバレンタインのノベルゲーム的なやつ作ったの去年ですか……

やってない方はぜひ!診断メーカーで『チョコと一緒に?!異世界転移!』ってやつです~!

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― 新着の感想 ―
誰に対する試験だっけ?って状況にになってない?
おー、なんかチームぽくなってきたね(^_^)
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