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934 初心者サポート機能

どうやら入り口付近にいた虫たちは軒並み出てきたらしく、坑道の扉は完全解放状態で寂しく口を開けていた。

「こ、これで探索できるね!」

三人からの視線が痛い。いいことをしたはずなのに、どうしてこう、人っていうのはちょっと想定と違っただけで、途端に手の平を返す生き物なのか。

『ちょっとじゃないからなんだぜ!』

『それを人のせいにしようとするのは、どうかと思うわ』

で、でもオレのせい? オレのせいなの?!

『お前のせいだ』

『スオーも、そう思う』

……違う、という返事を期待したオレが間違ってました。

オレの中には味方がいないらしい。


「とにかく! さっきのパーティ構成でいけそうだから、しばらくそれで行ってみよう! えっと、魔物素材も集める必要があるんだよね?」

「そうだな……一応、あたしがいるから証言はできるが、どこまで実績に反映されるかは未知数だぞ? あのな、ちゃんと証拠が残るように活躍しろ」

「そうよね……アレを証拠もナシに信じろとは言えないわ」

「あの実績がありゃあ、一発合格しそうなモンを……」

ご、ごめんなさい。

オレ、二人がせっかく倒した魔物も全部まとめてお掃除してしまった。何なら焼却処理までバッチリと。

「まだ……まだ、きっといっぱいいるから大丈夫だよ!」

「「それはそれで大丈夫じゃない」」


そんなことを言い合っていられるのも、坑道がガランとしているから。

1階層あたりは、あの茶バッタの餌食だったんだろう。

ダンジョンじゃないので10階層、みたいなことはないけれど、坑道も多層にはなっているらしい。

それも、ぐちゃぐちゃに入り乱れて。

1階層あたり、というのは、明確に1階2階と言えないからってことだ。


「でも、魔物はいなくても罠があるんだよね?」

「私、罠の発見とかできるかしら……やったことないのよ? 串刺しとか、嫌よ」

「魔法罠じゃなければ、大体は大丈夫じゃないかな? 分からないかもしれないけど――」

しっぽをふりふりベラさんを乗せて行くシロが、ひょいと何か飛び越えた。

「あ! イアンさんちょっと待――掴んで!」

「ぬあああ?!」

「おおおお?!」

咄嗟に投げたロープ、掴んだイアンさん、そして反対側を素早くギルド員さんの腰に巻き――その瞬間、イアンさんが地面の下に潜り込んだように見えた。

戦士体型でずっしり重量のあるイアンさん。油断していたギルド員さんの足がズーッと滑ったけれど、すぐさま踏ん張ってくれた。


「いきなりかよ……助かった」

「おいっ! もうちょい何かなかったか?! あたしは木や岩じゃねえよ?! 人使い荒ぇな?!」

だって、咄嗟に杭を打ったりできなかったんだもの。いつもはタクトがいるから……。実力No.1のギルド員さんなら、やってくれると信じてた!

「え? え? 何、どうしたの?!」

振り返ったベラさんだけが慌てている。

這々の体で這い上がったイアンさんが、額の汗を拭った。

『あれっ? ごめんね、その上通った方が良かった?』

不思議そうな顔をしているシロにとって、この罠は堂々としすぎていて逆に罠だと気付かないらしい。

「ごめんなさい、落とし穴……? でも、私の時は……あ、ワンちゃんが?」

どうやら地面に模した回転式のフタになっているらしい。魔物がうろつくから、ちょうどよく周囲と馴染んでしまって、こうして一度開かなければ境目が分からない。


「シロは賢いから、こういう罠なら分かると思うよ! 今度から怪しいと思ったら止まってもらうから、ベラさんが探してみて!」

「え……何なのその初心者サポート&全自動回避機能付きもふもふは?!」

『分かった! ぼく、ちゃんと見つけるね!』

ふふっ、シロに乗っている限り、多分罠でどうにかなることはない。シロは魔法罠すら回避できる反射神経を持っているんだから。

「ベラさんが見当をつけて、サポートのイアンさんが確認、ていう形でどうかな?!」

「それは助かるな!」

これなら役割を大きく外してないよね!

「ええ……なんかズルじゃね……?」

どこか納得いかない顔のギルド員さんはともかく、オレたちは着々と1階層を進んでいった。


「ちょっと慣れてきたかも! そこよ!」

パシッと軽い矢の音と共に、ヒュンと壁から何かが突き出して戻って行った。槍かな? 矢が突き立った地面付近を避ければ大丈夫そう。

魔法罠でないものは、基本踏む、触る、で発動するので、違和感を見つけられれば案外発見は可能みたいだ。そこまで巧妙に隠されている感じはしない。

なぜって……そう、ここには魔物がいるんだよね。

見え見えの罠だって、魔物の襲撃を受けながら発見して避けるのは難しい。攻撃を躱した瞬間に罠で負傷、なんてざらにあるだろう。


「おらっ、やるよちびリーダー!」

「うんっ!」

「おーい、後衛にもまわせー!」

イアンさんが守備に徹して受け流した魔物を、オレが仕留める。ギルド員さんは、背後の守りに徹底しているので、あんまり出番がない。

おかげでベラさんは罠に完全集中できている。初心者サポートがなくても、発見できるようになってきたらしい。

「坑道、けっこう広いんだね」

「有名だぞ。そもそも迷って出られないヤツが多かったからギルド管理になったとか」

「罠が主ではないのね。厄介なのは、この広さと、ウカラマンメイズと呼ばれる所以そのものだわ」


現在、罠は大分減っている。盗賊だって罠だらけじゃ使いにくいもんね。最初に罠で侵入者をふるいに掛けるって感じだろうか。

今は、むしろ魔物が多くてとても面倒。

「これっ、私たちひたすら貧乏くじ引いてないっ?!」

「同感だッ!」

「やー、助かるわ。ある程度間引いてくれると、後の奴らは普通に試験受けられるぜ」

そうか、タクトはともかくラキが心配。だったら、ここは頑張って間引いてもいいかもしれない。

ちょっと拓けたと思ったら、すっごく魔物がたむろしていた。ものすごく目が小さくて凶暴な足長カピバラってとこかな。もしくは足長凶暴モグラ? もしかしなくても、ここが彼らの巣だったのかな。


二人が頑張っているけれど、あとまだ……10頭くらい?

「大丈夫っ! 回復、いくよっ!」

「うっ……それはもういいっ!」

「怪我はしてないのよぉ! 休みたいだけ!!」

あっ……お疲れモードに陥っちゃってる。これは、よろしくない。精神的ダメージがね、結構ね。

「はっはっは、贅沢だなー」

ギルド員さんだけが楽しそう。オレはおもむろに笛をくわえると、前へ飛び出した。


「タイム! 休憩です!」

ピッピー! と軽快に吹き鳴らしながら、両手でTの字をつくる。

途端に崩れ落ちた二人の前で向き直ると、チャッと両の短剣を抜いた。

「選手交代っ!」

既に飛びかかってきていた二匹を、左右に跳びながらくるり、くるりと回転して一閃。

着地ざまにもう一頭へ、クロスから両手を大きく開く一閃。

「電気柵! 縮小工事!」

短剣を指に挟み、広げた両手をぱちんと合わせた。


バヂバヂバヂッ!

輝く輪が、オレの動作に伴ってきゅっと引き絞られる。

そして、静かになった。

「じゃあ、ここらで休憩兼ねて野営の準備しよっか?」

「「…………」」

にっこり振り返った視線の先で、二人が胡乱な目をしている。な、なぜ。

「あっはっは! つえー!」

やっぱり楽しそうなギルド員さんの声だけが、暗い坑道に響いていたのだった。


感想ありがとうございます!

とても、とても嬉しく毎回読ませていただいています。

お返事できなくてすみません……その代わり、更新頻度落とさないよう頑張ることでお返ししたいと思います!!

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― 新着の感想 ―
"全自動回避機能付きもふもふ" 素晴らしい!!!
試験というよりユータのスパルタ地獄塾ww
その二人の試験にならねえ
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