931 最低な組み合わせ
「うえぇええ?!」
思わず妙な悲鳴をあげたオレに、二人から同情の視線が集まる。
「ま、まあ、最初に苦手なところを終わらせた方が、な?」
「大丈夫大丈夫、リーダーがダメでも他を頑張ればいいのよ!」
……ありがとう。でも、オレまだ何も言ってないのに、なぜできない前提……?
「はっはっは! こんなちっこいリーダーは前代未聞だ。さっそくお手並み拝見……と、言いたいとこだが、説明もあるしな。やってもらうのは最初の野営地以降ってことになる。それまでは、あたしをギルド員として扱って構わない、質問やら何やらは今のうちだ」
どうやらそれ以降は、基本的に受験者と同じ立場、扱いになるらしい。
「大体分かったが、戦闘時の役割までローテーションするのか? 俺も後衛を?」
リーダーのことで頭がいっぱいだったオレは、ハッとして手元の紙を見返した。
本当だ……戦闘時の役割なんて、それぞれ固定されているものじゃないんだろうか。
頷いたギルド員さんが、にやっと笑った。
「今回の、面白いだろ。なんでかっつうとな、受験者全員、戦闘職だったからだな。前衛以外を経験してみなって意図もあるんだろうよ」
「そりゃまあ、サポート職なんていねえだろ」
「戦闘職以外がCランクになるのが、そもそも難しいもんね」
なるほど。ある程度の戦闘能力が必要だから、サポートメインの人は難しくなるのか。
最初から知っていたような顔で、うんうんと頷いて、あれっと首を傾げた。
「でも、魔法使いは? オレのパーティメンバー、一緒に受けに来たけど、魔法使いだよ?」
まあ、ラキは攻撃が速いから、前衛ができないかっていうとそうでもないと思うけど。でも、その場合多分、後衛に出番がまわってこないと思う。
「そういや、魔法使いは戦闘職っつっても後衛限定だな。弓もそうだよな?」
オレたちの視線が、自然とベラさんの武器に集まった。少し小型の弓は短弓、というやつだろうか。
「そうなのよね。一応中距離だから近接戦闘もできるけど、前衛は中々……辛いところね」
ぽん、と叩いたのは腰の短剣。一方のイアンさんとギルド員さんは剣と盾、思いっきり前衛スタイルだから、これはこれで、後衛やサポートで一体何をすればいいんだろう。
「まあ、怪我させんのは本望じゃねえから、バリバリの後衛がいる2チームには、ギルド員の能力面でサービスしてある」
にっとウインクしてみせたギルド員さんは、どうやら他のギルド員より戦闘能力に秀でているということらしい。ただ、『あたしが余計な手出しする必要に駆られた場合、減点な』とも釘を刺されたけど。ちなみにラキの方には回復できる人がついてくれたそうで、少しホッとした。
「この状況で戦闘時のパーティを組み立てるのは、至難の業ね……」
「正直、ケツを引いて助かった」
神妙な顔でカードを見る面々。確かに……組み合わせによってはもの凄く難しいことに。
ちなみにオレがリーダーの時、戦闘構成は『前衛:ベラさん、後衛:ギルド員さん、サポート:イアンさん』ってことにな……る?
「えっ?! あのっ、これ最低な組み合わせじゃない?!」
「そうだな」
「そうね」
「あっはは!!」
ちょっ……蘇芳?! オレの悪運に負けてない?!
1人楽しそうなギルド員さんを尻目に、オレはもはや半泣きで残りの説明を聞く羽目になったのだった。
「――まあ、そう気を落とすな」
「試験は、何回でも受けられるからね! 一度で受かる方が珍しいのよ」
うっ……もうちょっと、前向きに慰めてほしいんですけど?!
野営地に着いたオレたちは、さっそく大きなテントや食料など最低限の物品を受け取った。
「ちなみに、お前らは何持ってきた? 俺は食料や寝具類はある」
「私も、最低限はあるわよ。今回支給があるなら、そちらを使うわ」
さすがの経験者たちだ。一見身軽だから、2人とも収納袋持ちだろう。
試験には基本的に魔道具だろうが何だろうが、持ち込みは可能。だって、普段もそれを使うってことだから。財力込みの実力だ。
オレたちはフシャさんたちに教わっていたから、収納袋にしっかり準備をしていったけれど、初挑戦だとこの時点で差がついたりするらしい。タクトが肉ばっかり詰めて行こうとするから、大変だった。
「オレも、いっぱいあるよ! 食料も寝具類も、宿屋ができるくらいあるかも!」
ここぞとばかりに勢いよく言ったのに、軽やかに笑って『頼もしいな!』で流されてしまった。
「ひとまず支給があるなら、それを使うか。飯は足りなきゃ各自の分を食うってことでいいか?」
「オレ、毎回料理すると思うけど、みんなの分一緒に作る?」
「あたしは頼むぞ! な、黒髪の?」
にやっと即答したギルド員さんは、オレの料理のことを知ってるんだろうな。
きょとん、とした2人は笑って首を振った。そうか……もしかすると、ライバル同士でもあるんだから、そういうのはよくないかもしれないね。
――と思ったのに、夕食後は両手を合わせて『次から頼む』って懇願されてしまった。だったら今日の分も一緒に作れば良かったのに。
満腹のお腹で、いつもより大きなテントの天井を眺めた。
「はあ、明日からオレがリーダー……」
憂鬱だ。このオレが眠れなくなりそうなくらい。
「頼むぞ、メシウマのちびリーダー!」
「まさか、噂の黒髪がこんな小さい子だとは……。戦闘もイケるんでしょ? ちょっと楽しみになってきたわね」
左右から伸びてきた手が、ぽんぽんとオレの頭を撫でた。
現在、ギルド員を除く3人が同じテントに集合している。食事をきっかけに、オレが『例の黒髪』だって気付くってどういうことなの。
ちなみにオレの噂は大分錯綜していて、もはやどれも眉唾ものになっているらしい。
『錯綜してないわ、全部真実なのよ』
『世界が現実を受け止め切れないんだぜ!』
……いずれにせよ、オレのせいでないことは確かだ。そのはず。
何も偽装していないのに、ツチノコ的に『どうせ嘘だ』『信じる方が馬鹿だ』となっていく不思議。
いや、ツチノコは実際いるかもしれないけども!
「が、頑張るけど……どう頑張ればいいんだろ」
「悪いな、俺らは大分気ぃ楽だわ」
「そうね、だって1人、どのポジもイケる子がいるんだもの」
……そう、そうなのだ。
ズルくないだろうか。だってオレ、どこでも大丈夫だもの。リーダー以外なら。
『おひとり様パーティだからな』
チャトの呟きに、蘇芳がプスーッと吹き出した。あの、できれば1人パーティの方で……『おひとり様』だとなんか、なんか孤独感が漂う気がする!
はあ、ともう一度ため息を吐いて寝返りをうった。
明日は早いっていうのに、2人はまだ寝ないんだろうか。もしかして、眠れない?
ちなみにシールドを張ってあるし、召喚獣が見張りをするとちゃんと伝えてある。これはCランク試験だもの、あまり出し惜しみできない。さすがに管狐部隊は内密にお願いしているけれど。
横になろうとしない2人を見て、オレも悶々としながら頭を働かせる。
戦闘の構成、道中の役割、そしてスムーズな依頼遂行に必要な諸々を推敲・整理――どうせ眠れないなら、一晩これに費やせばいい。
そう考えて目を閉じ……開けたら、外はもう白みかけていたのだった。