930 Cランク試験
「――今回申し込みのあった方はこれで全員です。皆様、よろしくお願いします」
端的に告げて書類を揃えたギルド員さんが、一部屋に集まった面々を順繰りに眺めた。
何人くらいだろう。10人ほどかな?
あんまり緊張して、息苦しくなってきそう。
「毎度毎度、なんでお前がそんなに緊張するんだろな」
「ユータがダメなら、もうみんなダメだと思うけど~」
左右から伸びてきた手が、オレの頭を撫でて頬をつまんだ。
それこそ毎度毎度、二人はどうしてそんなにもリラックスしているのか。
ルーに励まして(?)もらったおかげで、昨日はぐっすり眠れたけど、いざ試験となるとそりゃあガチガチになるわけで。
「だって、どんな試験か分からないんだよ?! 常識範囲から逸脱した時点で失格、なんて試験だったら……」
「それは無理だな!」
「うん、諦めて~」
笑う二人のせいで周囲の視線が集まってしまい、ますます縮こまる。
値踏みするような目、なんで子どもが、と訝るような目。
当然ながら、周囲は大人ばかり。さすがにCランクとなると子どもはまずいない。
多分同じパーティなんだろうな、という人たちが二組。あとは牽制しあうような視線から、他人なんだろうなと思う。
ランクアップは、個人で受ける方が普通で、オレたちみたいに全員同時に上げていく方が珍しいらしい。
「では試験の前に、カードを一枚引いてください」
突如聞こえたギルド員さんの声に思わず飛び上がり、二人が苦笑する。
数人のギルド員さんが、裏向けたカードをトランプのように広げて差し出している。
「同パーティの方は、こちらです」
歩み寄ってきたギルド員さんは、3枚のカードを持っている。
ためらうオレを尻目に、二人がスッスッと何の気負いもなく一枚ずつ引いて。つまり、オレは引かずにカードを渡された。
ホッとしたような、残念なような。
「これ、何だろ?」
表へ返してみると、リーダー、メンバー、などチーム編成的なことが描かれている。描かれたイラストは、3人とも違うよう。
「同パーティで被らないようにしてるってことは、チーム分けかな~?」
「お、それじゃあ俺たち別々になるってことか」
ええ?! そういうこともあるの?! 途端に不安が押し寄せてくる。二人がいるから、大丈夫だと思っていたのに。
「お前はどこ行っても一人じゃねえんだから、問題ないだろ」
「そうそう、ユータだけは一人にならないもんね~」
『ま、そういうことよね』
ふよん、と跳ねたモモを感じ、ああそうかと微笑んだ。
タクトとラキはいなくても、みんなは一緒にいるもんね!
『ゆーた、一緒に頑張ろうね!』
『主ぃ、俺様がついているからには、Cランクなんて朝飯前よ!』
はしゃぐシロたちと、いつも通りのチャトや蘇芳。
――立ち塞がる将来は全て叩き潰すの! ラピスに任せるといいの!
とりあえず落ち着いてほしいラピスとその部隊。ひとまず、叩き潰すのは障害だけにしてほしい。
「皆様、試験の説明を始めます。まずカードに記載の通りに――」
ああ、始まってしまった。
柔らかなティアに頬をすり寄せ、オレは少し落ち着いた心で息を吐き出したのだった。
「よし、行くか! ユータほどほどにな!」
「じゃあね~。やりすぎないよう気をつけて~」
似たようなことを言いつつあっさり離れていく二人に手を振って、オレも足を踏み出した。
今回の試験は、やはり班分けがあるらしい。全部で3班に分かれての試験となる。
タクトはファング班、ラキはクロウ班、オレはホーン班。
それぞれ3~4人の受験生と、一人ギルドからの派遣員がつく形のよう。
おずおずとホーン班の集合場所へ足を運ぶと、2人の視線が一斉にオレを向いた。
「一番小さいのが来たか……これはラッキーなのかどうなのか」
「あらら、サポート力をはかるってことなら、アンラッキーになりかねないわね」
ウチの班は3人らしい。冒険者らしい風貌の壮年男性と、メイメイ様くらいの仕事のデキそうな女性だ。
歓迎も忌避もされていない微苦笑に、なるほどと思う。これは普通のパーティじゃなくて試験だもの。メンバーの出来が悪い方が自分が目立てる、という面もあるのかもしれない。
「あの、よろしくお願いします!」
「ああ」
「よろしく、おチビちゃん!」
オレとしては、ぜひとも協力態勢で試験に臨みたい。困った雰囲気はあるものの、悪い人たちではなさそうでホッとした。
打ち合わせをしていた各班のギルド員さんが、解散してこちらへ歩み寄ってきた。
ウチの班は、いかにも戦士風の女性。
「ホーン班はあたしが担当するよ。今回の試験については道すがら話すので、ひとまず馬車に乗ろうか」
いよいよ、開始だ。
どうも、ギルド員さんの雰囲気からして戦闘系な気がする。
わくわくしているだろうタクトを思い浮かべて、ふふっと笑った。
「チビちゃん、結構余裕だね」
馬車の隣に乗り込んできた女性が、オレを覗き込む。
「すっごく緊張してたけど、大丈夫になってきたかも。あのオレ、ユータです!」
向かいに座った男性が少し笑った。
「そいつぁ助かるな。俺はイアンだ」
「私はベラ。実は前回落ちちゃって、二回目の試験なのよね」
「そんな風に言うな、三回目の俺が辛い」
肩をすくめたイアンさんは、年相応の実力者感が漂っている。それでもダメだったりするのか。
「オレ、Cランク試験は初めてで!」
「だろうとも」
「そうじゃなきゃビックリよ。経験するのはいいことだと思うわ」
普通に会話してくれる二人に、ふわっと笑みが浮かぶ。
なんだか、楽しみになってきた。
この臨時パーティで、どうやらどこかの探索を行うらしい。ダンジョンだろうか……?
近くにダンジョンなんてない気がするけれど、今回の試験は一体何日かけて行われるんだろう。
Cランクという特性上、付近でチャチャッとすませるということが難しくて、大体移動に数日かかる事が多いとは聞いていた。当然、道中や野営も評価対象になってくる。
「よし、じゃあ説明するよ。3人とも、カードを出してくれ」
御者台の方からこちらへ移ってきたギルド員さんが、ゆったり説明を始めた。
まず、向かっているのはウカラマンメイズという辺鄙な場所にある廃坑らしい。定期的に冒険者が入って魔物の間引きをしておかないと、魔物が溢れたりダンジョン化のリスクがあるとかで、ちょうどいいとばかりによくCランク試験に使われる場所だ。
だけど、それとこのカードに何の関係があるんだろうか。
ちら、と互いのカードに目をやると、ツノをモチーフにしたイラストは変わらないけれど、記載内容はそれぞれ微妙に違っている。
「既に分かっていると思うが、今回はこのメンバーでパーティを組んで依頼をこなしてもらう。ただ、パーティでの役割はカードで決まる」
え、と改めて見下ろしたカード。
『リーダー、メンバー、サブリーダー』、『戦闘:リーダー、前衛、後衛、サポート』、と確かに役割が書かれているよう。
隣を覗き込むと、微妙に記載の順番が違うだけで、単語自体は同じだ。
「その番号の順に、役割を担当してもらう。順番によって有利不利はあるだろうが、それも運だからな」
端的にそう言われ、もう一度カードを見て……冷や汗をかいた。
「あ、あの……リーダーってギルド員さんじゃ……」
「そんなわけないだろ。もちろん、あたしもパーティに含まれるから、リーダーの番はまわってくるが。幸い、1番目ではなかったな」
ギルド員さんがにやり、と笑みを浮かべて俺の手元に視線を注いだ。
つられるように、他二つの視線も、オレの手元に集中する。
『1リーダー、2メンバー、3サブリーダー、4メンバー』
『戦闘:1リーダー、2サポート、3後衛、4前衛』
オレのカードには、そう書かれてあった。
好みの問題ですが、説明をね……可能な限り排除したいんだけどなあ。読む側の時は説明大嫌いなもので……