83 天使
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怯える二人を背後に庇いつつ集落の入り口へ向かっていると、至近距離で響いた絶叫・・続いて家の影から男がまろび出てきた。
その腹は無残にも大きく裂け、背には錆びた剣が突き立っている・・・これは、助かるまい・・せめて、遺言を。
悔恨を胸に男に走り寄ろうとした時、どこからともなくひらりひらりと光が舞って男に集まってくる・・!
「こ・・これは?!」
まるで蝶のようなその光は、あたかも死にゆく男を見守るように次々と集まると、その体を包み込んだ。なんだ・・・?魔物・・?
油断なく身構えていたが、光の蝶は何事もなくふわふわと散り散りに立ち去った。
私は滅多なことでは驚かない方ですが・・ここ最近驚くことばかりです。
ええ、その中でもこれは随一でしたね・・・。
「・・うっ・・あ・・れ?」
「なっ・・・?!」
・・・既に息絶えたものと思った男が、きょとんとした顔で、起き上がるとは・・!!
起き上がった男は、不思議そうに自分の体をぺたぺたと触っている。服は派手に裂けて血みどろだが傷はない・・狐につままれたような顔できょろきょろとし、傍らに自らの血にまみれた、錆びた剣が転がっているのを見つけて顔を青くした。ええ、あなた間違いなくそれ刺さってましたよ?
気付けばそこここで同じような光景を認めているようで・・。
重傷と呼べる傷を負った者に、あの光の蝶が群がって癒やしているようだ。これは一体・・?
「・・天使の、光・・・。」
小さな呟きに振り返ると、後ろの二人が涙を流して祈っていた。
「・・あなたたちは、何か知ってるのですか?」
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「う・・・?」
体がまるで息の仕方を忘れたようだ・・数回あえいで、なんとか意識が浮上する。
「しっ・・!」
もがく僕の口許に手が伸びて、思わず身をすくめたが、これは・・
(タータ!!お前!?無事で?!)
(無事じゃなかったと思うぜ?)
やや青ざめたタータがトントンと自らの体を示してみせ・・その全身ズタボロの衣装を見てゾッとする・・・あれは悪夢じゃなかったんだ・・・。
急に体が震え出す。カチカチと歯の根が合わなくなるのを必死に抑えて状況を探るが、見える範囲は動物の死骸ばかり。武器はないしあっても役に立つものか・・・さっきは武器も装備も万全だったんだから。
(な、なんで、こ、声を出しちゃダメなの・・ご、ゴブ・・ゴブリンが・・・?)
(ああ、多分ゴブリンもいる・・でも、見ろ・・・天使だ・・天使がいるんだ・・!!きっとオレ達を助けてくれたんだ!)
ゴブリンがいる、そう聞いてますます震える体をなだめつつ、まさかとタータの指す方を見ると・・・。
・・いた・・本当に天使がいた・・!!僕達からはほとんど後ろ姿しか拝めないが、淡く輝きながら、まるで祈りを捧げるように目を閉じて佇んでいるようだ。神々しい姿に、体の震えが徐々に収まっていく。
と、天使はすっと顔を上げてさらに強く輝きだしたかと思うと、光の渦に包まれた・・!!
「・・・きれい・・。」
どちらともなく思わず呟き、知らずその頬に涙が伝った。天使が何か囁くと、光の渦がまるで答えるように輝いて、生き物のように一斉に飛び立っていった。
「!!」
うっとりとその光景を眺めていたが、天使が振り返る気配を感じて慌てて目を閉じて体を伏せる。尊いものをのぞき見てしまった罪悪感と、天使を拝めた喜びに、今さらながら胸が早鐘を打ち始めた。
「・・・・いない・・。」
どのくらい息を殺してじっとしていたろうか?タータのどこか寂しそうな呟きに目を開けると、彼は既に立ち上がって小屋を見回していた。そう・・・立ち上がって!・・彼のズボンは、右足の太ももから先の布がなくなっていた。
天使はもうどこにもいない・・しかし、現に僕とタータはこうして生きている・・!!なんて奇跡だろうか・・手も、足も・・ほら、ちゃんとある・・。
「僕たち・・・助かったの・・?生き返ったの・・?家・・家に・・帰れるの・・?」
「ああ・・・ああ!!ミーク・・オレ達、生きて帰れるんだ!天使様がもう一度チャンスをくれたんだ!」
僕たちは互いの肩を叩いてわあわあと泣いた。
「ユータ様?!」
その時、突如ドアを破壊して飛び込んできた人影に、僕たちは揃って飛び上がった・・本当に心臓が口から出るかと思った・・。
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「・・・・・いえ、あの時はそう・・少々急いでいまして。驚かせてしまって申し訳ありません。」
「ううん、助けてもらってありがとうございました。僕たちだけでは、命が助かってもいずれゴブリンに、また・・・。これも天使様の思し召しでしょうか・・。」
「・・・・・そうですね、間違いないでしょう。さ、こちらへ・・・この先に簡易拠点を設けております。失礼ですが、どちらの出身で?お知り合いもいるかもしれません。」
「オレたち、ガッターの街から・・多分、知り合いもいると思う。・・来ちゃいけないって言われたんだ・・でも、ゴブリンだったらいけると思って・・。」
「・・そうですか。十分、怖い目には合ったのでしょう・・私からはこれ以上は言いますまい。ガッターの冒険者たちはあちらです、どうぞゆっくり休息なさって下さい。集落の殲滅はあらかたすんでいます。明日の朝には出発できるでしょう・・。」
「・・・はい・・。」
きっと怒ってくれる人がいるのでしょう・・少し重い足取りで向かう二人の背中を見送って、軽くため息をついた。まったく・・・うちの天使様は一体何をしでかしたんでしょうか・・・・これは奇跡の御業と言うしかないでしょう・・二人には天使を見たと広めてもらわなければいけません。幸い顔を見られてはいないようなので、誤魔化せる範囲でしょうか・・。ロクサレン地方の天使伝説・・まぁこれもまた他への抑止力になって良いかもしれませんね・・。
「ただいま戻りました~!」
光の中から呑気に現われたオレを見て、皆がギョッとした顔をする・・ん?どうしたの??
「お前っ?!ケガは!?何があった!!」
すごい剣幕のカロルス様に両肩を掴まれて、思わずのけぞってしまう・・。
「ユータ!どこケガしたの?!」
「ユータ様?!」
「えっ?えっ??なに・・?どうしたの??ケガなんてしてないよ?危ないことしてないよ??」
ぺたぺたとせわしなく全身を確認してようやくケガをしていないと納得したのか、へなっと脱力したカロルス様が床に座り込んだ・・・お行儀悪いよ?
「・・・・はぁ~驚かせやがって!!じゃあこの血はなんだ!?お前一体何したんだよ・・。」
言われて初めて自分の体を確認して、しまったと眉を下げた。あちゃー・・いつの間にこんなに血だらけになってたんだろう・・二人の夥しい流血がオレの服にもべったりと付着していた・・これはちょっとしたホラーだ・・そりゃあ驚くだろうな。ホッとしたマリーさんはお湯の準備をしに行き、泣き出しそうに顔を歪めていたセデス兄さんには頭をぐりぐりされた。
「えーー・・・と。帰ろうとした時にレーダーに反応があって・・・集落のちょっと離れた小屋にね、子どもの冒険者がいて・・・すごい大けがでね、回復しないと危なかったの・・・・それで・・・・。」
「・・・・ゴブリンの、集落で、3歳児が、一人で、何を、したって・・?ん?危ないことしてないって言わなかったか・・・??」
ビシ!ビシ!とデコピンしながら突っ込まれてもう申し開きもありません・・・・。
でも本当に危ないことはなかったんだよ?みんな心配症だからそこだけは強調しておかねば・・おでこをさすりながら口を開く。
「で・・でも本当に危なくはなかったんだ!ゴブリンにも会わなかったよ・・?」
「ほーぅ?あのひしめき合ってたゴブリンの集落で会わなかったと?・・・そいつらが消し去ってたんじゃねえの?」
えっ?そうなの?思わずラピスたちを振り返ると、さっと全員が目をそらした・・・。
ええ・・みんな・・・過保護がすぎるよ・・・・いずれにせよ殲滅の予定だったけど・・・目に入るかもしれないって理由で消されたゴブリンが気の毒だよ・・。
「規格外め・・・・で、それ以外は何もやってねえな?もうないな?!子どもはまぁ・・見捨てるわけにはいかねぇしな・・そこで一人で行くのは問題大ありだけどな!」
「うん、他には何もやってな・・・・・・」
「・・・・・。」
「・・・・・・。」
だらだらと汗が伝う・・やっちゃってたよ・・・回復の蝶々・・あれもダメな部類?ダメかな?回復しただけだよね?
カロルス様が盛大にため息をついた。
時間あるときにまたお礼の間話を書きますね!