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923 指南2

山までの距離がぐんぐん短縮されていく。

小走りで二人の後を追いながら、ふと気付いて振り返った。

「ごめんね、二人があんまり騒がしくするから……他の人の練習にならないよね」

そうなのだ。クラスメイト二人は段々コツを掴んできたのか、ますます張り切って走っているけれど、その分出てくる魔物はそっちに集中するか逃げていくかの二択で。そもそも、こんなに走ったら体力の温存という意味でアウトじゃないだろうか。

「あっ、はは! そんなこと全然気にしなくていいの!」

「大丈夫、二人が成長してくれるだろ?! こ、こう、何でも役割分担というものがだな……!」

「そ、そうそう! 彼らは若いから体力あるでしょ? 私はちょっともう、ね!」

どこかぼうっとした表情だった大人組が、揃って首を振った。


大人と言えども10代だろうに……苦しい言い訳に温かい笑みを浮かべる。

本当、いい人たちだ。

だってオレへの報酬はパーティで払ってくれようとしているのに……その恩恵が限定されても文句ひとつ言わない。彼らを信用して、役割を与えようとしてくれているのだ。

「次は、もっとみんなに役に立つものを伝えるからね!」

「「「ええと、本っ当~にお気になさらず!!」」」

思い切り首を振る3人に、オレはちょっと眩しく微笑んだのだった。



「すげーな……あの草原をもう突っ切っちまった……」

「さすがのユータだな」

山のふもとまでやって来たクラスメイトは、顔を見合わせて息を弾ませている。

「オレじゃないでしょう、二人の活躍だけど? 体力消費はもう少し削れるといいね」

こっちはオレのせいだから、引率として彼らに不利益がないようふわっとパーティ丸ごと軽い回復魔法で包んでおく。

「えっ?! これ……?!」

「なにっ?!」

挙動不審になった大人組に首を傾げると、クラスメイトが首をすくめた。

「言い忘れてたけど、ユータは回復術士だぞ!」

「だから、みんなもこの機会に思いっきりやった方が絶対得だから!」

……それ、言い忘れてたらダメじゃない? だから大人組はクラスメイトの分をカバーしようと、体力温存してくれたんじゃないの?


「そういうこと。だから、多少体力を使っても、ちょっとくらいの怪我でも、回復できるからね! オレが引率の時だけは、心置きなく頑張れるんだよ!」

ギリギリを責めるのって、かなり効率のいい『経験』になるんだよね。それは、鬼軍曹の特訓によってオレの芯までじっくりコトコト染みこんだ教訓だ。

それってまさに、オレがいるからこそできること。これぞ、引率として渡せる素晴らしい経験じゃないだろうか。

『……心ない善意』

満面の笑みを浮かべるオレに、チャトがぼそりと失礼なことを呟いて、蘇芳がプスーっと吹き出した。相変わらず、蘇芳のツボは分からない。


「ところで、ユータがいるってことはさあ……」

「だよなあ、飯はさあ……」

二人がきらきらの瞳でオレを見るので、お日様の位置を確認して首を傾げた。

「え? でも依頼は? 今から料理していいの?」

だってもう日が傾きそうだ。料理するのはやぶさかではないけれど、さっさと討伐に行かなくていいんだろうか。

「は? 野営するに決まってんだろ」

「今から山登らねえよ! お前と一緒にすんな」

全員のキョトン顔を前に、オレだってキョトンだけど!


「ええ?! 野営するなら言ってよ! 学校帰りにいきなり連れて行って野営ってどういうこと! 何の準備もしてないよ?!」

今度は大人組が、『は?!』とクラスメイトを凝視する。

「お前、何の準備するわけ? 何が必要なんだよ」

「……い、今はたまたま必要なものはないけど……」

そうだろうそうだろう、と言わんばかりに頷く二人が腹立たしい。

「だけど! 明日用事があるかもしれないでしょう!」

「別に一緒に野営しろって意味じゃねえよ」

「お前、シロで帰れるだろ」

「……帰れるけど」

むしろシロでもチャトでも転移でも帰れるけど。

「「じゃあ何の問題があるんだよ」」

…………確かに? じゃあ別にいいのか。

オレとクラスメイトの間を行き来していた大人組の視線は、段々平坦になっていく。


「な? だから飯! ユータの飯!!」

「俺めっちゃ楽しみにしてたんだからな! 獲物いっぱい狩ったろ?」

ウキウキする二人にねだられれば、オレだって満更でもない。どうやら二人があれだけ頑張ったのはオレに調理させたいという下心もあったみたいだし。

「もう……じゃあ、お困りごと解決もしながら料理しよっか!」

くすっと笑えば、二人からは元気な歓声が上がったのだった。


「――で、こういう小物の場合は、丁寧に捌く時間がもったいないからざっくり処理して叩いたり……」

「へえ、こういう知識なら活用できそう」

「こいつらが入ってから、やたら料理したがるのはこういうことか」

今度は大人組も興味をもってくれているみたい。だけど、本番はここからだ。

「というわけで! お困りごと解決いきます!」

「え? 今のは違ったの?」

「違うよ! 今のはただのお料理!」

不思議そうな顔をする彼らに首を振り、胸を張る。

「皆さん! お料理をして野外でも美味しい料理を食べたいですよね? でも、荷物は可能な限り減らしたい。鍋や皿などはかなり嵩張ります」

ですよね? と見回すと、訝しげな顔をしつつ頷く面々。


「今回はそれを解決しましょう!」

フンス、と自信満々に腰に手を当てると、期待と疑惑となぜか不安の混じった視線が注がれる。

「そんな方法が……?」

「でも、あれじゃない? メッチャ鍛えて重さを感じないようにすれば……とかそういうこと?」

ひそひそ交わされる大人組の言葉に、なるほど、と感心した。そういう方法もアリだ。とても汎用性が高いと思う。

だけど、今回はもっとお手軽だ。

「それは――こう! 現地で簡単に作っちゃうのが一番!」

器でさえあればいいんだもの。何もラキの素晴らしい造形じゃなくていい。

サッと土魔法で作った鍋や焼き板、皿やコップを並べた途端、クラスメイトからヤジが飛ぶ。


「お前……それじゃさっき魔力温存した意味ねえよ!」

「飯食うのに魔法使いを稼働させんのは、実地訓練の時くらいだっての!」

二人は賛同すると思ったのに、意外だ。

「違うよ? 魔法使いは温存するんだよ」

「「「はあ?」」」

「魔法使いほどじゃなくても、ちょっとだけ魔法使える人はいっぱいいるでしょう?」

そう、むしろ完全に魔力がない人の方が珍しい。オレたちのクラスだって、『魔法使い向き』じゃなくても『ある程度は使える』子たちはたくさんいる。というか、今や全員『ある程度は使える』に入ってしまった。大魔法やらなんやら、色々やったし……。


「だから、魔法使いじゃない人が土魔法を練習しよう!」

「「「土魔法……?」」」

なるほど、と納得したクラスメイトはともかく、大人組は戸惑いを隠せない。

「冒険者としては、まず少しでも魔法が使えるなら水だろう?」

「水が無理でも、光とか……」

そうなんだよ、土魔法はこんなに便利なのに不遇なんだよね。そりゃあ、命に直結するのは水だから、そこは異論はないのだけど。

「水は大事なんだけど、ちょっとでも土魔法を使えたら便利なんだよ!」

だから、パーティで役割を決めてもいいんじゃないかと思っている。

「二人はちょっとだけ魔法使えるよね! 他の人は? オレがコツを教えるから、練習してみよう!」

幸い、このパーティは『ある程度使える』人たちらしい。もっとも、少量の水とライトしか使ったことはないらしいけれど。

さあ、料理が仕上がるまでの間、みんなで鍋作りだ!


「お……? 結構良い感じじゃねえ?」

「うーん、これだとお椀じゃない? でも、お椀だってあれば便利よね」

魔法使いのお姉さんを除き、みんながああでもないこうでもないと一生懸命になっている様は、まるで陶芸教室だ。

「わ! すごいじゃない?! これなら使えるよ!」

華やいだ声に駆けつけてみれば、そこには無骨ながらそれなりの深さをもった鍋ができあがっていた。

「そ、そうか? 家で普段使っているものをイメージして……」

「料理するんだ?!」

照れくさそうにしているのは、大人組男性。やっぱり、イメージがしっかりしている人の方が作りやすいということかもしれない。

「よっしゃ! 俺らのパーティにも鍋職人が誕生したぜ!」

「これで野外でも美味いもんが食える! 俺だって器くらいならできるからな!」

簡易テーブルに皆の作った鍋や小皿や器が並び、まるで品評会みたいだ。


「よし、料理も頃合いだし、みんな自分で器作って食べよっか!」

にんまり笑って提案すれば、途端に悲鳴があがった。

「ええー! 待てよ、もっとデカいの作る!」

「うわっ、穴とか空いてたら最悪じゃん!」

「じゃあ俺は鍋でいいということで……」

「いいわけないでしょ! 器を作りなさいよ!」

「えっ、え、私は?!」


魔法使いのお姉さんにはこっそりオレの器を渡して、再び真剣に器作りを始めた皆にくすっと笑った。

こうして使ってるとね、魔力も増えるし段々大きな鍋とか作れるようになると思うよ。

『あくまで鍋なのね……』

『俺様本質はそこじゃないと思うぜ!』

和やかな雰囲気に、そういえば討伐に来たんだっけ、なんて考えて笑ったのだった。

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― 新着の感想 ―
常識がドンドン崩れてく音がする笑
年長組も少しずつユータ色に染められつつありますね(^_^)
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