表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

937/1029

922 指南

「ごめんね、この子たちがあんまり勧めるもんだから……付き合ってもらって大丈夫? あの子たちの友達なら、実力はあるってことよね」

苦笑を滲ませたお姉さんが、オレを覗き込んだ。

いい人だな、と思う。

引率として連れてこられたのが、こんな幼児なのに。

どうやら、頼んで連れてきてもらった手前、追い返せないと腹をくくったらしい。今は一緒に馬車に乗り込みながら、今回の事情を聞いている次第だ。

「実力はあるもなにも……まあ、見りゃ分かるか」

「あー、こういう反応ね、はいはい。俺たちこういう常識、すっかり忘れてたっつうか」

肝心のクラスメイト二人は、いとも簡単にオレの実力について説明することを諦めていた。


「二人は、ちょっと反省しなさい? 危険があるから引率をって言ったのに……あ、大丈夫よ、危ないと判断したら、離れていてもらうから」

肩をすくめる二人を睨み付け、お姉さんは慌ててオレを気遣った。

「あの、オレDランクだから……本当に引率できるよ? やったこともあるよ」

にこっと微笑んでみせると、『誰がDランクだ』『Dランクに対する風評被害になるわ』なんてクラスメイトの陰口が聞こえる。何も間違ったこと言ってませんけど?!

「え……そ、そうなの?! 本当に実力はあるのね。キミたちの世代って凄いって聞いてはいたんだけど」

「なら、君……ユータ君だっけ? ユータ君も戦力として数えていいのかな? 正直、この子たちクラスの実力があるなら本当に助かる!」

途端に期待に満ちた瞳は、他の大人とは違うなと思う。それだけ、このクラスメイトたちが活躍している実績があるからだろうな。


「もちろん! せっかく声をかけてくれたんだから、ちゃんと引率するよ!」

少しばかり想定とは違ったけれど、それでも以前の引率と比べれば天と地の差。

むしろオレの方が喜んで受けたのだから、相応の価値は感じてもらわなきゃ!

「そ、そう? じゃあひとまず今回の討伐について説明するわね」

顔を見合わせた大人3人と子ども3人は、真剣な顔で輪になったのだった。


馬車を乗り継いでしばらく、徒歩に切り替えたオレたちは、遠くに見える山を目指して歩いていた。

「……それで、オレに引率を頼みたかったのって、どこがメインなの?」

こっそりクラスメイトに耳打ちすると、揃ってため息をつかれた。

「はあ、どこが危険か分かんなかったんだな……」

「お前、それでよく引率できたな?」

うっ……でも、実際危険があれば対応はできるから! 今回は話を聞いてくれる皆さんだから、事前に対応策なんかを示せたら格好いいと思っただけで……!!

だって、依頼はここからウルト山まで行って、ブラックホーンを討伐する――というもの。

……普通じゃない?! ウルト山って、別におどろおどろしい山だとかそういうわけじゃない。ブラックホーンだって特別な魔物じゃない。普通の、Dランク魔物だ。

パーティはDランクでもクラスメイトはEランク。もちろんリスクはあるけれど、だけどウチのクラスメイトだもの……いたって普通の依頼だ。


オレたちの周囲を囲むように陣形を取った大人組が、ほんのり微笑ましそうな顔でオレを見ている気がする。

「まずこの草原で――」

「だから、普通はこういう所が――」

オレは近付く山を眺めながら、二人から引率すべき点のレクチャーを受けていた。

「……なるほど。よし、把握した! 完璧!」

自信満々に深々と頷いたオレは、タタッと前へ走り出て先頭で振り返った。

「皆さん! せっかくオレが引率としてついているので、今回はお困りのことを全部解決していこうと思います!」

張り切って声を上げたのに、『全部じゃなくていいっつうんだよ!』『ほどほどにしろ!』なんてヤジが飛ぶ。

聞こえないふりをして困惑顔の大人組を見上げると、咳払いして説明を始めた。


「徒歩移動となると、道中での襲撃による魔力消耗がネックですよね? それに、警戒を続けながらの行動は気力体力の消耗も激しい」

ですよね? と見回せば、戸惑いつつ頷く彼ら。当然のようにクラスメイトは『言ったことまんまじゃねえか』なんてブツクサ言ってるけれど。

「まずはそれを、解決しましょう!」

「そんなことできるのか……?」

「ええ? どういうこと?」

半信半疑でオレを見る目には、それでも期待が籠もっている。そう、これだ。これこそオレの求めていたもの。

オレは満面の笑みを浮かべて策を授けた。


「いいですか、こうするんです!」

くるりと進行方向に向き直ると、タターッと走り出す。

「あ、ちょっ……?!」

慌てた大人組は、多分クラスメイトが抑えてくれただろう。

さあ、うまく出てきてくれればいいし、出てこないなら来ないでもいい。

だけど、運は味方したらしい。

ヒュッと飛び出してきた何かを反射的に切り捨てて、にこっと振り返った。

「わかりました? そもそもの警戒自体を捨てれば、余計な消耗は防げます! この程度の草原に潜む魔物なら、魔法を使う必要もないです!」

そう、わざわざ警戒する必要があるかということだ。だって、この草原の草丈はせいぜいオレの胸元くらい。大物が隠れられる場所じゃあない。


「馬鹿か……警戒しなきゃフツーは反応できないだろ!」

「警戒してなきゃ、一般人は小物にも致命傷負うんだよ!」

すかさず入ったヤジの発生源に目をやって、笑みを浮かべる。

「大丈夫! タクトも、ラキにだってできるから!」

そう、これは決して無謀なことではない。ちゃんと再現性があるのだ。

そして全然信用していない二人に、とっておきを耳打ちする。


「うおおー! 来るなら来いぃ!」

「うおー! つうか警戒してなくても、案外来ないもんだな??」

駆ける二人を離れて追いながら、うんうん頷いた。

そうなんだよ。小物って、相手が警戒してるかどうかなんてあんまり気にしてないから。だから警戒してるから襲撃されない、というわけじゃないんだよね。

「うわあ?!」

と、言ってるそばから飛び出してきた巨大バッタに、クラスメイトがつんのめって転んだ。

「くっ!」

だけどさすがドラゴン世代、攻撃を受ける前にしっかり刺し貫いた。

「バッタか……」

少しばかり紅潮した頬は、手応えを感じた証拠だろうか。


「お見事! もうちょっと早いといいね! そんな感じで、咄嗟に身体が反応するようになればいいんだよ!」

ガチガチに警戒してなくたって、人間危機には反応する。これが森の中とか、それこそ山中になれば別だけれど、今は一面の草原。

だって町中にも危険はあるけれど、みんな警戒なんてしてないでしょう。

「何となく、分かるような気が……してしまった! ビックリの瞬間に剣を振ってりゃいいんだな」

「実地訓練のホーンマウスと同じと思えば……そうなのか」

彼らは安全圏の実地訓練で、ホーンマウス狩りも経験してるからね。あのときは警戒なんて捨てて獲物を追っているはず。

やはり、経験に勝るものはない。ちょっとばかり無謀でも、やってみれば身につくこともある。

『無謀って自覚はあったのね』

『主ぃ、やってみて死んだら意味ないんだぜ!』

……うん、それがこの世界の難しいところ。経験に命がかかっちゃうんだよね。


「だからこそ! 今はオレがいるんだから、少々無茶だって無謀だってできるってものでしょう?」

怪我をした様子はなかったけれど、念のためふわっと回復を施しておく。

「そう、か……そうだな! 俺ら、忘れてたぜ。……あの味を」

「分かった、やるぜ! これができりゃ獲物だって狩れる、料理する時間だってできる!」

二人の目に、燃え上がる意欲の炎が見える。舌なめずりしているのは、気のせいだ。

この分なら、山に到着する頃にはコツを掴んでいるんじゃないだろうか。


「これが、ドラゴン世代……」

唖然として取り残されていた他のメンバーは、ぽつり、と呟いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
クラスメイトの陰口も、ユータがユータでとても大好きなお話でした笑
そうそう、人間転びそうになったら手を前に出して怪我を回避するし、どんなに怒り狂っててもドアに突進せずちゃんとドアノブ回して開けるしね。 んなわけあるかぁ!( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
ユータったら最初っからぶちかましてんなあ(^_^;
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ