表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

917/1029

902 仮面の下が醜いとは限らない

「ユータ、いつもあんな風にしゃべってくれて構わないんだけど?」

「ちゃんとしゃべれるのに?! それはもういいから! オレ、これから忙しいんだから」

にまにまするセデス兄さんを睨み上げ、そっと両手を握り合わせて目を閉じた。

「あっ! 二人は目をつむってて!」

危ないところだった。素直に目を閉じたアルプロイさんと、慌てて両手で目を塞いだタジルさん。彼らにはバレてもいい気がするけれど、天使教とオレの繋がりを知っている人は、少ない方がいい。

『知らないはずはないと思うけどねえ』

『まあまあ、形式上の建前が必要ってことなんだぜ!』

違いますけど。二人にはバレてないから! モモもチュー助も、そんな考えではどんどん他へ広がってしまうからね?! 用心にこしたことはないんだよ。

『お前が言うな』

チャトのツッコミは聞こえないふりをして、徐々に集中を深めていく。

今回は、解呪の蝶が役に立つはず……。少数精鋭、アゲハ蝶みたいに大きなのがいいな。

ふわ、と開いた手の中には、大きな青い蝶。光を零しながら飛び立ってオレの頭にとまった。

途端に呼吸が楽になったように感じる。この程度の邪の魔素なら、蝶々が数匹居れば徐々に改善されるんじゃないかな。


「――よし、このくらい居れば十分かな。じゃあみんな、村長さんのお家の屋根に隠れていて。夜になったら、こっそり村中を飛び回るんだよ!」

オレの身体にとまっていた計五匹の蝶々は、心得たと言わんばかりに飛び立って、屋根の上へと消えていった。

「それってさ~、絶対普通じゃないよね? って思うけど。一体何魔法なわけ?」

言われてみれば……? 最初は、選択的に回復するための蝶々だったから、当然回復魔法の一環だと思っていたけれど。

「チル爺は『疑似生命』って言ってたよね」

そう言うなら、もしかしてゴーレム系統に近いのかな。召喚も混ざってる気がするし……新たな魔法の系統、なんてことになったら……。

ほら、やっぱり二人には目を閉じていてもらって良かった。

「もう目を開けて良いよ!」

「ありがとうございます。回復魔法を使われたのですか?」

「ユータ様、身体が楽です!」

やっぱり、普通の人も蝕まれている感覚はあったらしい。身体の不調って、案外軽度だと気付かないものだ。


「マウーロの領地って、村はどのくらいあるの? どの村も同じような状況なのかな」

村から離れて野営準備をしながら、セデス兄さんを見上げた。

すべきことを済ませたら、あとはもうアリバイ作りとして村を出た方が良い。……なんて、半分建前だけど。

だって、あの村でオレたちだけ美味しいごはんを食べるなんて、できないよね。かと言って振る舞うわけにもいかないのが難しいところだ。

「あとは中央の領主館がある場所じゃないかな? 街道沿いだから、通り道だね。そんなに離れていないと思うけど……面倒なことになりそうだから、立ち寄ることはできないね。何事もなく帰路につけたら、選択肢が出てくるくらいかな」

「そっか……領主館がある場所なら、ここより酷いことにはならないよね!」

だって、自分たちもそこで生活しているんだもの。

既に襲撃があった時点で、何事もなく帰路につくとは考えにくいけれど、それならそれで介入しやすくなるかもしれない。


「そう言えば、あの襲撃ってやっぱりマウーロの領主が仕向けたのかな」

この世界で襲撃って割と日常茶飯事だから、あんまり気にしていなかったけれど、尋問の方はどうなったんだろう。

『主ぃ、そういうのを『非日常』って言うんだぜ!』

『あうじ、ひりりちょうなんらぜ!』

すかさず入ってくる茶々を聞き流し、小首を傾げた。

「そうみたいだね。雇い主は割と早く割れたみたいだけど、目的はハッキリしないみたいだね。ただ、命を取るつもりはなかったって言ってるから、誘拐の線が濃厚かな? 助命のための嘘かもだけど」

サラッと返されたけど、え? いつの間にやりとりを……? 管狐部隊もいないのに。

「当たり前に割れちゃうんだ……」

一体何が行われているのか、オレは知らない方が良さそう。

襲撃して誘拐したところで、一体何のメリットが? と思ったけれど、普通に考えれば人質って感じだろうか。

援助ほしさに後先考えなくなった、と思えば……あり得るんだろうか。


ただ、ロクサレン相手に?? というのが引っかかるところだ。

相手が貴族だから、あまりAランクについて理解していないのかな。冒険者には英雄として知られるカロルス様だけど、貴族からの評判はそうでもないから。知らないって、怖い。

「……なんか、色々面倒だね」

カロルス様じゃないけれど、襲ってくるなら来るで、こう、一気に全軍投入してくれたら一気にカタをつけられるのに。

――ラピスもそう思うの! だから、まとめて館ごと吹っ飛ばせば全部解決すると思うの!

ここぞとばかりにつぶらな瞳が輝いた。

しまった、オレの思考がラピス寄りに……!

やめてね?! ものすごくややこしいことになるからね?! 

「本当に! マウーロの館ごとぶっ飛ばして終わりにしたい~!」

ちょっと?!

せっかく破壊衝動を収めていたラピスが、晴れやかな顔でオレを見た。

許可? 許可?? と言わんばかりのきらきらお目々が辛い。

オレはうっかりラピスの親切心が発動しないよう、懇切丁寧にお断りを入れる羽目になったのだった。



「どう? 遠目で分かるの?」

マウーロの館がある村を横目に通り過ぎながら、セデス兄さんも身を乗り出してくる。

「うーん。少なくとも、ずうっと邪の魔素は漂ってるから、良くない状況ってのに変わりはなさそう」

先の村ほどではないにしろ、この道中、うっすら漂う邪の魔素はあまり変わらない。

「飢饉のせいで、邪の魔素が濃くなってると思ったんだけど……」

それなら、無人の荒野にも広がっているのはおかしくないだろうか。

幸い、と言うべきなのか、あれ以来襲撃もない。

――大丈夫なの。大体みんな動いてると思うの。

偵察に行ってくれたラピスからの、あんまり役に立たない報告に頬を引きつらせた。

『あのね、やっぱりしっぽが下がっちゃう感じはあるよ! みんな元気ないけど、昨日の場所よりは……ちょびっと大丈夫そうな気がする』

シロの役に立つ情報に、少し緊張を和らげた。そうだよね、食料だって領主館がある村の方が豊富だろうから。

オレは少し後ろ髪を引かれながら、遠ざかっていく村を眺めていた。


……そんな、生死のかかった状況が間近くある中。

案内された建物に、思わず真顔になってしまう。

「豪華、だね」

「隣の領地とは言え……親交が深いはずなのにね」

いかにもパーティ仕様に飾り付けられた庭園、磨かれた調度品。

恥ずかしい。

オレ、ここに参加するの……?

後ろめたい。

きらびやかな格好をした人たちは、何も感じないんだろうか。それとも、貴族の仮面の下へ隠しているんだろうか。

ふと、大きな姿見に映った姿に息を呑む。

少し着せられた感のある衣装、整えられた髪。綺麗に飾り付けられて、緊張の面持ちをした幼子。

……オレだって、他から見れば同じ。内側で何を考えているかなんて、分からないものだな。

自分だけが例外だなんて、傲慢も甚だしい。もしかすると、全員オレと同じ思いかもしれないもの。


ぽん、と頭に手が置かれ、人目を集めて憚らない王子様がふわっと微笑んだ。

「僕たち『も』、役目があるからね。せめて、それをちゃんとこなそう」

大人びた微笑みを見上げて、オレもにっこり笑って頷いた。

他の人も、オレも、役目がある。それがいいことなのか、悪いことなのか、傍目には分からないけれど。

だけど、きっとオレだけが特別じゃあないもの。だから、きっと。

美しいドレスで美しく笑う人たちを見上げ、オレも笑みを浮かべたのだった。

更新遅刻すみません!!


皆様18巻の表紙イラストもう出てましたよ!!

最高でしょう?!見ました?!?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
回復の蝶、生きてるみたいに言う事きくんだ。チル爺の言う通り疑似生命なのかな。 新刊の表紙カッコいいですね。楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ