表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

911/1030

896 レッスン

「はい、一旦休憩です。お二人とも素晴らしいですよ! 基本は概ね良さそうですね。次は下を見ずにできれば!」

マリーさんの声に、強ばっていたタクトの身体から力が抜ける。

お互い足ばっかり見ていた顔を上げ、間近く絡んだ視線に苦笑する。

今は、一番教えてもらう必要のあるオレとタクトが組んで練習中だ。

「交代、しようか?」

ずっとオレがセデス兄さん側、タクトがマリーさん側で踊っているから、少々申し訳ない。

「いや? 俺は披露する場面なんてねえし。お前はもうすぐなんだろ?」

妙に物わかりの良い笑顔が、どことなく不自然な気がする。だけど、実際オレは切羽詰まっているからね!

一応、踊れるようになったものの、さすがに終始下を向いていてはマズいだろう。

「いい感じだったよ~。あとは、ユータのダンスアレンジがどうなるかだよね~」

ラキはさすがと言うべきか、ダンスもそつなくこなす。セデス兄さんたちに比べれば、特別上手なわけじゃないと思うんだけど……なんだろうな、上手に見えるオーラを放っているというか。


「うふふっ! 楽しいわ。セデスちゃんと踊れるなんて!」

「アレンジをっ! 考えるんだよね?! 僕、普通の人間だからっ! 加減して?!」

フロアの半分より向こうは、危険地帯となっている。身体能力が桁違いの人たちは、ダンスひとつとっても規格外なんだな。

すさまじい速度で舞い踊る二人が、フロアに火を点けそうだ。

「すげー……」

「すごいよね~」

ねえ、二人共。顔が全然褒めてないよ? 

だけど、分かってしまう。『すごい』って閾値を通り越すと、呆れが生まれるものなんだな。

アレンジ……大丈夫だよね? こんな戦舞みたいな激しいのにならないよね?

「ね、ねえ! もうちょっと練習しよう!」

おののいたオレは、少しでも身につけておこうとタクトを引っ張った。

「じゃあ、今度は僕が相手するから~。タクトも見て覚えるといいよ~」

「え、オレ男性パートしか踊れないよ? ラキ女性パートできるの?」

首を傾げると、ラキは読めない表情でにっこり微笑んだ。

「そうだね~。僕、これなら踊れるんだ~」

さすが、何でも器用にこなすものだ。

感心しながら手を差し出すと、ラキはすくい上げるようにオレの手を取った。


おお、自然。

すっと身を寄せる仕草、握り込んだ手、添えられた手……全てに余裕があって優雅だ。

オレ相手でもいちいち赤面するタクトとは、雲泥の差。

マリーさんの手拍子と音楽に合わせ、ゆったりとステップを踏む。誰でも踊れるものだもの、基本は難しくはない。

後ろへ大きく下がって、横へ開いて。ステップを踏みながら円を描く。

1、2、3、1、2、3……。

オレは足が短いから、めいっぱい大きく動けと言われた。だけど、そうすると相手を蹴りそうで……。残念ながら、足を踏めるほど近付けないので、今のところその心配はない。

「僕、ユータのつむじしか見えないな~? ユータ、僕を見て~?」

言われてハッと見上げると、くすくす笑うラキの顔がすぐそこにある。

「うわ、近いね……。これ、他の人と踊るの……? ラキ、よく平気だね」

相手がセデス兄さんやタクトやラキなら、何の問題もないけれど……。これ、いざとなったら他人と踊れるんだろうか。

「平気ってどういうこと~?」

「どうって……恥ずかしいじゃない?」

だってこれ、ほとんど抱っこの密着度だ。いや、むしろ抱っこは恥ずかしくないけど、ダンスは恥ずかしい。


「恥ずかしいと思ったことはないな~? だって、他人だよ~?」

不思議そうな顔をするラキを見て、オレはパートナーを依頼した女子たちに心からの同情を送った。

「ほらユータ、足下見なくてもできるじゃない~」

……ホントだ。おしゃべりしていたらできるかもしれない。

「じゃあ、もっと僕の足にくっつくくらいに踏み込んでみて~? 僕、ユータくらいなら支えられるから~」

オレくらいなら、は余計だ。

そんなこと言うなら、と意地になって思い切り踏み込んで足をくっつける。もはや二人三脚……じゃないね、両足ともくくりつけたようだもの。

そうなると、思い切りオレの身体は後ろへ倒れるわけで。

なんだか、戦闘時にスライディングで股の間を抜けるみたいだ。

なるほど、そう思えば簡単。

やや伏せたラキの瞳を挑むように見上げ、思い切り低い姿勢で。


「おー、なんか、格好いいんじゃね? 普通とは、ちょっと違うような気がするけど」

タクトの賞賛に気を良くして視線をやって、吹き出した。

『ゆーた、見て~! ぼくも、上手?』

何やってるの……。

見ているだけでは覚えられないと踏んだらしいタクトは、踊っても恥ずかしくない相手役を調達したらしい。白銀のサラサラヘア、水色の瞳が美しい美……獣かな?

音楽に合わせてちょこちょこ歩く足が、きちんとオレたちを真似てタクトに添えられた前足が、ぶんぶん振られたしっぽと、揺れるおしりが……もはや、全てがドラゴンブレスに匹敵する破壊力だ。

案の定、虫の息になっているエリーシャ様とマリーさんが、フロアに転がっている。

『ふふ、ダンス、楽しいね!』

「ちょ、シロ、舐めるな舐めるな!」

『だってぼく、今舐めるしかできないよ』

シロが身を乗り出し、タクトがのけ反るのも、それはそれでダンスっぽい。

「かっわいい! シロ、次は僕と踊ってよ!」

『いいよ!』

戦舞から解放されたセデス兄さんが、嬉しげに順番待ちをしている。

いいな……オレもシロと踊りたいけど、多分というか絶対オレでは支えられない。


――ユータ、ラピスも上手なの!

「きゅ!」「きゅきゅ!」「きゅっ!」

呼応するような鳴き声が周囲で弾け、オレは溜まらず声をあげて笑った。

「かわいいね~」

ラキが目を細め、オレも満面の笑みで頷いた。

「最高だよね! こんなダンスなら、何度でも歓迎なのに!」

ゆったりステップを踏むオレたちの周囲で、二匹ずつ手を取り合った管狐たちがくるくる回る。

きゅっきゅ鳴きながら、もふもふのしっぽもくるくる回る。

アリスと組んだラピスが、どうだと言わんばかりに得意げで。


『アゲハ! 俺様たちはもっと高度なダンスをするぞ!』

『あえは、上手にできる!』

本格的にステップから真似ようとするチュー助たちが、テーブルの上で。

『スオーも、できる』

『まあ……ちょっと私相手では無理があるわね』

モモを抱っこした蘇芳が、空中をくるくる回る。

『猫は、踊らない』

チャトは澄ました顔で、リズムに合わせてしっぽを振っている。

オレたちのリズムに合わせ、みんなが回る。

フロアが、一気にダンスホールになった。

止まらないオレの笑い声が、きゃらきゃらと響く。

「ダンス、楽しい! ねえラキ、ダンスって思ったより楽しいかもしれない!」

「ふふ、そうだね~。僕も、今すごく楽しいなって思ったよ~」


いろんな笑い声が響くダンスフロア。

貴族のパーティだって、こうだったらいいのに。

オレたちは次々パートナーを交代しながら、しばしダンス(?)を楽しんだのだった。


「む、り……もうむりよ……。私、液状化してしまいそうよ……」

「エリーシャ、様……。私も、もう……これ以上、は……」

――ダンスホールの一角で、二人の女性が瀕死状態になっていることなど、すっかり忘れて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
ラピスたちが踊ってたらそのホール、聖域化しない?
もふもふ舞踏会素晴らしい!
尊みが過ぎるww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ