861 懸念の品
魔道具だって、きっと微かに嫌な気配はあるはず……。
だって、呪いグッズはなんとなく嫌な感じがするもの。
レーダーの時と同じように、徐々に徐々に感知する範囲を広げていく。
そっと、手を広げて行くように。
「ピッ?」
「あ、あれ?」
オレとティアは、閉じていた目を開け顔を見合わせた。
「ある……よね?」
「ピッ!」
ティアは、むんと胸を張って尾羽を上げた。
やっぱり。オレの感覚がおかしいわけじゃない。
「シロ、ちょっとストップ! 脇に寄せて止めてくれる?」
「ウォウッ!」
「は? それで伝わるのか……?! 手綱の操作すらいらねえとは……」
「やっぱりズルだよね……」
羨ましげな囁きを聞き流し、オレは感覚を頼りに周囲を見回した。
ゆっくり止まったシロが、首を傾げて振り返る。
『何か見つかった?』
「うん、多分だけど……」
シロ車から飛び降りたオレを見て、二人が訝しげな顔で下りてくる。
「どうした? お前はこのまま村に向かうんだろう?」
「暗くなってくるから、森へ入らない方が――って、実力者なんだったね」
二人を見上げ、そういえば何と説明したものかと口ごもる。
「え、えっと……。そう、シロがあの辺りが怪しいって!」
「……犬と話せるわけ?」
「そ、そう……じゃないけど! 以心伝心ってやつだよ!」
「さっきお前が犬に止まれって言ったんじゃねえのか?」
もう! 細かいことは気にしないで!
「いいから! とりあえず見に行こうよ、もしかしたら手がかりがあるかもしれないんだから!」
オレは二人をぐいぐい引いて、街道から森の中へ踏み込んだ。
もっと、ずっと広い範囲を探知する予定だったオレたちにとって、拍子抜けるほど近く。
街道からちょっと森に逸れた場所に、それは感じられた。
「あ……多分、この辺り」
藪をかき分けて進むと、ふいに草丈が変わった。
「うん? ちょっと不自然だな」
大きな岩がいくつか。そしてその周囲は、よく注意して見れば藪が払われたように、周囲の草木と差がある。
「休憩所か? 革袋と……ああ、こっちから入るのか」
なるほど、時間が経って非常にわかりにくいけれど、団体が休憩した場所ならこんな風かも。
ドースさんが丹念に周囲を探って、人のいた形跡とささやかな道を見つけたらしい。そちらを辿れば、街道から苦労なくこの場所へ辿り着けるみたい。
「うわ、もしかして本当に手がかり? 確かにちょっとした休憩って感じの残骸があるね」
表情を引き締めた二人が、それこそ草の根を分けるように目を凝らし始めた。
オレの方は、まっすぐ大岩の方へ歩み寄って集中する。
間違いなく、ここにある。
特に争ったような形跡もないし……事件性はないのだろうか。
「ピッピ!」
ティアがふいに飛び立ち、岩の間に入り込んだ。
「ここ……? あっ! あった!!」
思わず声を上げ、岩の隙間に手を伸ばす。
「なんだ、何があった?!」
「死体とかじゃないよね?!」
暗い隙間の奥に恨めしげな顔が――あるのを想像して、思わず伸ばした手を引っ込めてしまった。
「怖いこと言わないでよ! 違うよ、多分魔寄せじゃないかな」
憤慨して睨み上げると、二人も隙間をのぞき込んで顔を輝かせた。
「本当だ、何かある!」
「けど、なんでこれが魔寄せって分かるんだ? 俺らは特徴を聞いてるが……」
「オレ、見たことあるもの! 友達が間違えて持ってきたことがあって」
拾い上げたのは、ペンダント型の魔寄せ――だけど。
「これ、壊れてない? こういうもの?」
うっすらと漂う嫌悪感みたいなもの。それは、感じる。だけど、限りなく弱いと思うのだけど。
「一瞬起動するくらいなら、問題ないはず――うん? 壊れているかもな」
ドースさんがペンダントをいじって、首を傾げた。
「そう言って、起動してたらどうすんの」
「起動していたら、光るはずだが……その機能自体が壊れていると恐ろしいな」
大丈夫、邪の魔素の気配は感じない。
「大丈夫だよ、ええと……オレの召喚獣たちが反応しないし」
「なるほど、そういうものか」
簡単に納得した彼らに胸をなで下ろし、にっこり笑う。
「大発見だね! だけど、壊れたからって捨てて行かないよね」
「高価な品だからな。商人が捨てることはない……が」
思案げに切った言葉を引き継ぐように、フシャさんが頷いた。
「うん。だけどもし、壊れて勝手に起動なんてことになっていたら……捨てて逃げるしかない」
「そうだな、後片付けもろくにしていない所を見るに、その線があるかもしれん。今は、内包魔力を使い切って壊れているのかもな」
つまり、電池切れ? 魔寄せってそういうものなんだ。
でももしかすると、今の弱々しい感じを見るに、オレが今まで見てきた魔晶石みたいに強力なものではないのかも。魔晶石は、成長するって言っていたもんね……。これは、せいぜい小物を寄せるような効果だったのかもしれない。
「ん~? それが万が一起動しっぱなしだったんなら、あのトラッカーズの大群はその影響もあったかもね?」
フシャさんの声に、なるほどと膝を打つ。
「ひとまず、俺らが分かるのはここまでってことで、ギルドに報告できるかもな」
心持ち嬉しそうなドースさんが、大切そうに魔寄せをしまい、周囲の革袋等彼らの痕跡らしきものも回収し始めた。
「少なくとも、ギルドの懸念だった魔寄せが見つかったからね! まずは報告だ! ここで休憩してからのことは想像でしか分からないし。彼らが逃げたとして、どこへ行ったかも。まあ、俺らが解明までする必要もないってことで!」
晴れやかな顔をしているけれど、もしかして調査依頼はこれで終えるつもりだろうか。
「えっ、いいの? 調査依頼って解明しなきゃいけないんじゃ……」
「いやいや、調査だから! 分かったことを報告すんの。多少評価は下がるかもだけど、これ以上無駄に時間を費やす方が損失だし!」
「本当にな。簡単な依頼だと思って受けるんじゃなかったぜ……」
なるほど……Cランクともなれば、時にはそういう判断も必要なのかもしれない。
ほどなくしてシロ車へ乗り込むと、二人も一緒に村へ向かうことになった。
……つまり、オレは転移で帰れないってことだ。
「しかし本当に助かったぜ。報酬はどう分ける?」
「結局、ユータ君に魔寄せを見つけてもらうとは。まさか、まさかだよ! これがあるなしで評価が全く変わってくるから」
にこにこする二人がオレを見るものだから、首を傾げ、言われた台詞を反芻し……。
「――えっと? オレに報酬を分けるって言ってる?」
恐る恐る尋ねると、当たり前のように頷かれてしまった。
「あんなのたまたまじゃない! いらないよ!」
慌てて首を振ると、二人が不思議そうな顔をする。
「たまたまだろうが何だろうが、見つけたのはお前だが……」
「いらないとか、ちょっと何言ってるか分かんないよ」
やめて! だって二人はそれがなくてもいずれ情報だけ報告して終える予定だったんでしょう? 長時間の調査があったからこそで……!
なんだか一瞬首を突っ込んで、いいとこだけ攫ったようでいたたまれない! あの場所だって、二人が明日にも見つけた可能性だってあるのに!
始まった押し問答は、二対一でオレの旗色が悪い。
だけど、そもそもオレのせいじゃないって証拠が欲しかっただけで! ちっとも良心的に手伝ったわけじゃなくて!! ああ、胃が痛くなりそうだ。
そこへ、天啓が下りてきた。
「そ、そうだ! 二人はCランクなんでしょう?」
頷く二人に、オレはぐっと拳を握った。
「オレたち、Cランク目指してるから! だから、試験のこととか情報を教えて! 報酬代わりに!」
これしかない……! オレは意気込んで二人を見上げたのだった。
ロクサレンの日(6/30)に更新をすっかり忘れていたひつじのはねです。すみません……!!
その代わりというか、活動報告に書いた通り、ロクサレンの日にちなんで特典付きもふしら検定を作りましたよ!
「今試される!あなたの 「もふしら」愛!」(https://shindanmaker.com/1211470?c=1 )
ってやつです。
ひつじのはねTwitterもしくは診断メーカーでの検索で出るはず!
またはTwitterのタグで「#もふしら愛検定」で出てきます!
満点の方には特典ショートストーリーを用意してあります!
結果の欄にある鍵をメモして、最初の説明欄からリンクで飛んで下さい(リンク先はひつじのはねHPです)
満点取れない……という方には同じリンク先に解答もありますので、ギブアップの際はどうぞ!
どっちもアリだけど……みたいな設問があるので難しいです。