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859 普通の日

「なんか、久々な気がするな」

2個目のホットドッグをほとんど3口で口の中に納めて、タクトが呟いた。

「そうだね~。なんだか、ずっと慌ただしかった気がする~」

「実際、オレはすごく慌ただしかったよ!」

オレはまだ半分も食べていないホットドッグにがぶりと噛みつく。

「今だって、コレはのんびりとは言わないはずなんだけどね~」

ラキが指に付いたソースを舐めて、苦笑した。

確かに……依頼を遂行中は、のんびりしているとは言わない。


「だけど、普通の魔物を普通に討伐するだけってさ、なんか微笑ましいっつうか」

微笑ましくはないだろう。だけど、言わんとすることは分かる。

「突然変異でもなく、大量発生でもなく。そしてDランクの依頼を受けて、Dランクの獲物を討伐する……それってすごく、得がたいものなんだなって思うよね」

しみじみそう言って、もうひとくち囓る。パリッとした肉詰めの食感と、ひらひら葉野菜のシンプルさがいい。

口からはみ出した葉っぱを、もすもす口の中へ収納したところで、視線に気がついて顔を上げた。

「ユータにとっては、な?」

「自覚があるようで何より~」

『主ぃ、異常がないのは正常って言うんだぜ!』

『そして、当たり前のことを当たり前にするのって、「普通」って言うのよね』


うっ……いや、正常や普通とはどうも縁がないオレだけど!

それでも、オレだけの話じゃないでしょう?! だって、ほら、魔物が増えてるって……! オレだけが色々遭遇してるんじゃないよ! 先日だって魔物の群れに遭遇した二人がいたじゃない?

『お前がやらかした時の』

『空から火の雨が降った時の』

余計な記憶まで掘り起こす辛辣組をじろりと見やって、咳払いする。経緯はともかく、ああやって遭遇する人たちはたくさんいるわけだ。

そういえば、あの二人に顔を出す約束をしていたなと思い出して、近々の予定をひとつ埋めておく。


「ともかく! 毎回オレ以外の人たちだって巻き込まれてるわけだし!」

「だからな、その巻き込まれた1回が異常事態ってわけなんだよな」

「巻き込まれるのがユータの『普通』だもんね~」

あながち否定できない部分もあるのが悔しい。

だけど、今日は普通だ。当たり前にDランクの魔物を狩って、のんびりシロ車でお昼を食べている。

そんな日だって、あるのだから。

『そんな日がある』時点でアウトな気は薄々感じつつ、お日様の下で伸びをした。


シーリアさんへの報告をすませ、クラスメイトたちも無事に到着してしばらく、今日は久々の3人そろって自由な日。

秘密基地でごろごろしようという提案は却下されてしまったけれど、こういう『普通』なら歓迎だ。

きっと大魔法のことで大騒動になるだろうと思っていたのだけど、黒いモヤと魔物のせいで思ったほどの事態になっていない。王都の方では黒いモヤ騒動の調査と、残った魔物の討伐にかかりっきりみたいだ。

あれだけ苦労したアリバイ工作、なくても良かったんじゃない? なんて、拍子抜けだ。

ただ、きっちりガウロ様に『話を聞かせていただく』なんて釘は刺されているみたい。

きっと、彼らの忙しさはこれからだ。


「なんか、あんまし変わらないまんま、俺らもう4年かあ」

ごろりと仰のいて寝転がったタクトが呟いて、オレも思わず空を見上げた。

もう、4年生。

本当、オレたち何も変わってない気がするのに、もう4年。

少しばかり、胸を掠める焦燥は何に対してだろう。


「そう~? ものすごく変わったと思うけど~?」

くすくす笑うラキの髪が、サラサラ風に流れておでこが露わになっている。

「そうか? ……うん、そうだな! 俺らめっちゃ強くなったし!」

「確かに! だって結構な危機を乗り越えてきたよね?!」

「ユータのおかげで、アクシデントの場数だけは踏んでるよね~」

オレのせいじゃない! せいじゃないけど……。

「そう、色んな事件とか関わったし、『希望の光』って結構名を挙げてるんじゃない?」

オレだけだったら、嫌だった。だけど、『オレたち』なら、いい。

大きく頷く二人と顔を見合わせて、にんまり笑う。


「よし! じゃあ、この調子でランク上げようぜ!」

がばっと起き上がったタクトが、にっと笑った。

「最近大魔法の練習もあったし、依頼数がまだ足りないんじゃない~? Cランクは、最初の関門だよ~?」

冒険者のボリュームゾーン、E・Dランク。その上を行くCランク。文字で言えば、ただ一つ上のランクであるだけなのに、その差は大きい。

確か、Dランクからはランク間の壁が異様に高いとか。『CとDの間には登れねえ山、BとCの間には越えられねえ断崖絶壁があって、AとBの間にゃ道はねえ』と言ったのは、ガザさんだったか……王都へ行く途中で出会ったBランクの人たちだ。


「オレもあんまり依頼受けられてなかったし、ちょっと本腰を入れないと厳しいよね」

『当たり前だぜ主ぃ! Cランクってことは冒険者として本気の活動してるってことだからな!』

つまり、ただ強いだけでは到達できないってことだ。

「ギルドでアドバイスも聞いておかなきゃね~」

「4年生でCランク! めちゃくちゃ格好いいよな!」

「ふふっ! メリーメリー先生が大騒ぎするだろうね!」

オレは、少しだけ安堵した。


あんな、誰が見たって前代未聞の大魔法。それをやってのけたみんなは、望めば騎士だって何だって可能性があるに違いない。

一緒にいるって言っていたけれど、だけど、栄転だもの。

もしかして、万が一、二人が心変わりしたら……。

ちっとも、ほんの欠片もそんな話が出なかったことに、ホッとしてしまう。


「ひとまず、4年生もこのメンツだな、よろしくな!」

「4年生も、じゃないよね~? この先も、だよね~」

当たり前みたいな言葉に、会心の笑みが浮かんだ。

「うん! この先もよろしく!!」

突き出した拳に、乾杯するように二人の拳が触れた。

何の気負いもない仕草がどうしようもなく嬉しくて、顔が溶けてしまいそうだ。


「よし、4年生の目標立てようぜ! 俺はさ、秘密基地を改造したらどうかと思ってさ! あと、遠征で他の地方回るとか格好いいよな! 授業も減るんだしさ」

「改造なら、シロ車をもっと~」

おや? Cランクは、目標じゃないんだろうか。そして二人の言うそれは、やりたい事リストじゃないだろうか。

オレはくすりと笑って、手を挙げた。

「はい! じゃあまずは、短期目標として『祝・4年生』の宴会をすることじゃない?」

「賛成!」

「賛成だけど、それは目標~?」


3人で、ちょっといいものを食べて、いいものを飲んで、それでひとつ大人になった気分に浸るんだ。

「やっぱり、鍋底亭?」

「そりゃあな! 俺らちょっと金も増えたし、奮発すんのはどうだよ?!」

「いいね~! 素材も奮発していい~?」

全然関係ない所で乗っかってくるラキに、二人で苦笑した。

変わったような、変わらないような。

だけど、もうすぐ4年生。

さっきまでの焦燥は、いつの間にか高鳴る鼓動に変わっていたのだった。


「ひつじのはねショップ」のブログにて、6/26からの展示会についてお品書き等書きました!

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも美味しそうに食べてるなあ(^-^) 今日はパリッとしたソーセージを食べることにします!
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