77 盗賊たち1
「おお、ユータ!どうだ?いい案だろ?試作作りすぎても消費できなきゃあ勿体ねえし、一般人からの評価も欲しいしな。一石二鳥ってやつだ!いや、不安もなくなって一石三鳥だな!」
そう言ってがははと笑うジフ。そうだけど・・・そうなんだけど・・・。
「ふふ、まあいいんじゃない?怯えて眠れない夜を過ごすよりは、リラックスしてもらう方がいいよ。」
「セデス兄さん・・。それにしてもどうしてみんなこんなに安心してるの?普通はもっと怖がるんじゃないの?」
「そうだね、そこはヤクス村だから・・だろうね。ロクサレン家の力を知ってるから、ここにさえ避難できたら安心だと思ってるんだよ。」
それにしたって安心しすぎだと思うんだけどなぁ・・
「あ、ユータは知らないもんね。この地方がロクサレンになったのは、父上の功績だって書いてあったでしょ?あれはね、敵国がこの海岸から攻めてきたときに、ロクサレン家総出でここを守り切ったからだよ。その時にも村人は領主館に避難させて、犠牲者を出さなかったんだ。奇跡の英雄ロクサレン!ってもてはやされて、王都の方には人気の劇もあるんだよ・・・実際は運が良かったってこともあったんだけどね。」
「ええっ?!そうなの!!すごい!!セデス兄さんも戦ったの?!」
「あはは、もう10年以上前の話なんだ、僕はまだ子どもだったよ・・・って今のユータよりは上か。そう考えると情けない話だけど。」
「そうなんだ~!オレも見たかったな・・!!」
「僕は怖くてただ震えてることしかできなかったよ。ユータは勇敢だなぁ。」
「ううん、オレは色々と経験したもの。そんなことがあったのに、今立派に指揮をとってるセデス兄さんの方が、ずっと勇敢だよ!セデス兄さん、すごくカッコイイよ!!」
目をきらきらさせてぎゅっとする。細身の体には見た目よりもしっかりと筋肉がついて、随分と堅い。
指揮をとるっていうのは、責任を負うってことだ。こんな若さで、堂々と指揮するセデス兄さんは、タイプこそ違えどカロルス様の血を引いているんだなって思う。
「・・ふふ、ありがとう。ユータがそう言ってくれるとなんだか本当に何でもできそうな気がしてくるよ。」
ふっと微笑むとオレを抱っこして歩き出す。セデス兄さんは上手に抱っこしてくれるから、とても居心地がいい。カロルス様は力が強すぎるから、オレをぬいぐるみみたいに扱うんだよ・・。
「さあ、そろそろ敵が来る頃だ。表のバルコニーに行こうか。ユータは部屋の中にいてほしいけど・・。」
「ううん!オレも行く!」
「ふぅ・・そうだよね・・・せめて、僕の目の届くところにいてくれるかい?」
「はーい!」
バルコニーに立つと、冷たい夜風が吹き抜ける。薄手のカーテンがふわりと風を受けてふくらんだ。
普段は真っ暗闇になる時間だけど、村の方は明かりをつけたままにしているので、少し明るい。
「寒いだろう?無理しちゃだめだよ?」
心配げな王子様顔で言いつつ毛布でぐるぐる巻きにされて、思わず笑う。まるでスマキだ・・ここで格好良く上着をかけてくれたら様になるのになぁ。女の子もスマキにされちゃあ、ときめくものもときめかないだろうな。
「・・あ、村の門まで来たよ。立ち止まってる・・・ラピス、向こうの話を聞いてきてくれないかな?」
「きゅきゅ!」
わかった!ラピスの聞いたこと、ユータに直接つなげるね!
直接つなげる・・?ふわっと消えたラピスが門の方に現われたようだ。ラピス、あんな所にもフェアリーサークル作ってたんだな。
『はぁ?マジかよー』
『仕方ねえだろうが!』
『んだよ・・野郎、失敗しやがったか?』
突然耳元でだみ声が聞こえて飛び上がった。
「ユータ?!どうしたの?」
「あっ・・うん、大丈夫!ラピスが盗賊の会話をオレに届けてくれてるの。」
「えっ・・そんなことまでできるの・・・?」
正直、いろんな音がいっぺんに聞こえて気持ち悪いけど、慣れるしかない。
『てめーら何止まってやがんだ!後ろつまってんぞ!』
『うるせえ!門が閉まってんだよ!』
『壊しゃーいいだろうが!!』
『うっせえ!作戦があんだろうが!開いてなかったらおかしいだろうが!』
『作戦も何も入らなきゃ始まんねえだろう!壊せ!!』
荒くれだなぁ・・さっそくケンカしてるよ。そっか、あの地下室の男は門を開ける役目もあったんだな。
とりあえずボス的な人に伝えに行って門を壊しにかかったらしい盗賊たち。ささやかな柵と門だから、すぐに侵入されるだろう。壊されるならむしろ開けといても良かったな。
遠くの方と耳元でドカバキ音がして、チラチラと松明の炎が見える。
「今門を壊して入ってくるところ。どうするの?ここで待つの?」
「そうだね、村の家は被害に合うけど、みんな大事なものはちゃっかり持ってきてるみたいだから・・様子を見ようか。盗賊なのか何なのかも分からないし情報がほしいね。見た目通りの馬鹿な連中ならいいんだけど、戦局を覆すような魔道具がないとも限らないからね。」
戦闘力のない村人は逃げ足が命だ。敵襲でも災害でもすぐさま避難するその速さは見習うべきところがある。案の定、金目の物も村人さえも見当たらずいらだつ盗賊たち。
『ヤロウ!なんもねえじゃねえか!村人はどこ行きやがった!?』
『領主館だ!あそこに全部集まってるぞ!行け行け!!』
かなり殺気だって怒濤の勢いでこちらへ向かってくる!
ん・・・でも村の居住区から領主館までは1本道。
「ねえ、セデス兄さん・・。」
「へへっお宝も何もかも集めといてくれてありがとよぉー!」
「手間が省けるぜぇー!!」
「ヒヒヒ・・・・ヒッ?!」
汚い顔に下品な笑みを浮かべて、我先にと館に迫りつつあった盗賊たち。
・・・ドドッ・・ドドドドドォッ!!!
1本道だもんねぇ・・・・またのお越しを~!
ヤツラは何の前触れもなく出現した巨大な濁流に、見事に押し流されていった・・。
やったのはオレじゃないよ・・大きな魔法は怒られると思うからね。ラピスにお願いしました!お得意の大雑把魔法で盗賊たちは綺麗さっぱり!ついでに道路脇の柵も流されたりしたけど、家屋に被害が出ないように頑張ってくれたから大目に見てもらおう。
「・・・・・管狐って、すごいんだねぇ・・・・。」
セデス兄さんが遠い目をしている。多分、天狐だからじゃないかな-と思うけどね。
『ごふ・・魔法使いか?!』
『こんな大規模魔法使えるやつがいるか!魔道具だろうが!』
『どーすんだ!?近付けねえじゃねえか!!』
盗賊達は元気だねぇ。無事だった者達がそろそろと再び近づいてくる。ヤツラも少しは頭を使うのか、道を通らずに丘や牧場から回り込もうとしている。魔道具だと思ってるから融通が利かないと判断してるんだな。まぁ当然そっちにも濁流は発生できるんだけど、牧場が台無しになっちゃうからやめておこう。
「ねえ、ちょっとだけ下に下りてくる!」
くるくると毛布を外すと、言うなりバルコニーから身を踊らせる。
「なっ?!ゆっ・・ユータ?!」
ひょい、ひょいと建物の出っ張りを蹴って下りるとくるりと一回転!
むん!と両手をピンと上げてピタリと着地!
「きゅっ!」
10.0!!
ラピスがちゃんとノッてくれる。ちなみに採点を教えたのはオレだ。
スタッ!
オーディエンス(?)に手を振っていたら横に誰かが着地した。
「・・・まったく・・。肝が冷えたよ・・いつの間にそんな軽業師みたいになってるんだい?」
「セデス兄さん!オレ、ラピスたちと練習したの!」
「一体何やったらそんな風になるんだよ・・もう、無茶しないでよ!」
わしわし、と撫でる手が優しい。でも・・これも無茶って言われるかな?
話す間にもじりじりと近づいてくる盗賊たち。
「ちょっとだけ魔法使ってみる!危なくないやつ!」
オレはぺたりと地面に手をついた。
私には盗賊の言葉が難しいと判明・・下品に・・・下品に・・と思うのだけど・・・。お育ちのいい盗賊になってしまいそう・・・。