表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

869/1029

856 採り放題祭り

「なあ! なんで俺は雑に連れてこられたんだ?! ラキみたいに作戦たてろよ!」

だって、緊急事態だったから。おかげで、なんとか開始までに間に合った。

「でも、こっちに来られて良かったでしょう? お肉取り放題、お肉いっぱいのお祭りになるよ!」

「まあ……ここへ来る分に文句はねえけどさ」

すぐさま機嫌を直したタクトが、周囲に視線を走らせ闘志をみなぎらせている。


「いいお肉担当はシロだね!」

『うん! ぼく、いいお肉いっぱい探すよ!』

ぴんと立った三角耳と、ぶんぶん振られたしっぽが頼もしい。問題は、回収する側の手が足りるかどうかだ。

一方のいい素材担当はさっきからブツブツ呟いているので、少し遠巻きにしている。

「……いや、片っ端から全ての魔物をユータの収納に入れるというのは……。ダメだね~回収している間に他の人も回収を始める……ここはやはり、初手で会場に土壁を巡らせて……。う~んむしろ、他を戦闘不能に……」

それは、オレの想像する祭りじゃない。

「ラキ……? これは戦場じゃなくて……楽しくみんなで取り放題祭りだよ?」

ハッと我に返ったラキが、いつもの爽やかな笑みを浮かべる。

「うん、大丈夫だよ~。どっちにしろ、全員を殲滅は難しそうだし~」

全然大丈夫じゃなさそう。


そうこうしているうちに、周囲がざわめき始めた。そろそろ開始らしい。

「ユータ、頑張って来いよ? いっぱい肉を仕入れて来てくれ」

ぽん、と頭に乗せられた大きな手。

「カロルス様は参加しないの?」

「さすがに(領主)が参加したらダメだってよ」

それもそう。じゃあ、もっと貴族らしいエリーシャ様やセデス兄さんはもってのほかだね。

「分かった! オレ、いっぱい確保してくる!」

……とは言ったものの、考えてみれば収納の中にまだ貯肉は余っているくらい。

うん、ほどほどでいいか。


まず会場に兵士さんたちが散っていき、即席の監視台の上にアルプロイさんが立った。

「――それでは、ロクサレン素材採取祭り、開始です!」

その声と同時に、わっと一斉に冒険者たちが解き放たれる。オレたちは、瞬時にシロに乗った。

「いいね~? 作戦通り、奥から攻めるよ~!」

ラキ曰く、森が暴走した時などもまず先頭を突っ走っていくのは、低ランクの魔物が多いらしい。ならば、手前の方は捨てて、少し進んだところから回収する作戦だ。


「ストップ~! あれは……グリーンホーン~!」

「あ、ちょっとラキ!」

素材隊長が、シロから飛び降りるように駆け出して行ってしまった。

……そこからは、お察しの通りというやつだ。

鬼の形相で快進撃を続けるラキと、シロ。ついでにタクト。オレはただ、ただひたすらに獲物を収納袋に入れるのみ。

徐々に周囲に人も集まり始めたけれど、そうなると面倒な手合いも現れるもので。


「おいっ、それはガキには勿体な――」

ラキが手にした魔物を奪おうと、横合いから手を伸ばした男が――吹っ飛んだ。

そちらを見もせずに撃ったラキは、既に別の獲物を手に取っている。だ、大丈夫……? 加減、間違ってない? しかし素材を扱うラキにちょっかい出すなんて、命知らずもいいとこだ。

「その肉! 俺が先に見つけ――」

ぱぁんと軽快な音と共に、また一人、吹っ飛んでいく。

こっちはタクトか……加減は、大丈夫だろう。それにしたって、セリフくらい聞いてあげればいいものを。二人ともマリーさん思考で困ったものだ。


「なあ君、今どこに獲物を入れた? おじさんにちょっと見せてくれないかい?」

あっ……オレの方にも来た。だけど、オレは二人とは違う。

「これだよ。だけど、これは大事な貰い物だからね」

きっと欲しいと言うのだろうと、先手を打ってにっこり笑う。そもそも収納袋じゃなくオレの魔法だからあげられないけど。

そして、またラキに指示された魔物を収納すると、おじさんの喉がごくりと鳴った。

「見ていたぞ……さっきからどれだけ入れた? へ、魔物素材なんかよりその収納袋の方がずっと価値がある」

「だけど、あげないよ」

もう一度釘を刺すと、彼は嫌な笑みを浮かべた。


「問題ないさ、勝手にもらうから――ッ?!」

伸びて来た手をするりと躱し、勢いのままに回転。後頚部へ見事に蹴りが決まった。

どしゃり、崩れ落ちた男は兵士さんが運び出してくれるだろう。

『……話を聞いた意味』

『スオー、最初からぶっ飛ばす方が早いと思う』

チャトと蘇芳が相変わらず淡々とツッコんで来る。

確かに。やはり、出合頭にぶっ飛ばす方が効率的だったかもしれない。

この戦場の地では、マリーさん思考こそが正義なのかも。

『結局、戦場になったのね』

オレは、ぐるりと見回して頷いた。うん、間違いなく戦場だなあ……。だから、兵士さんたちが必要だったのか。

方々で始まった喧嘩は、すぐさま駆け寄って来る兵士さんが鎮圧してくれている。こっちを向いて親指を立てているのは、オレたちのことは放置するから自分で頑張れ、と言っているのだろうか。


「者ども、気合入れて行け!!」

ふいに雄叫びが聞こえて振り返ると、場違いな一団がいた。

うおお、と気合十分な声で素材を集め始めたのは、とても見覚えのある料理人たち。

「ジフも参加してたの?」

「そりゃあ参加するだろが。けど、ハンデとして今から参加、そして早く撤収だ」

そうだよね。ただハンデというか、お祭り準備があるからじゃない?

日々の食材を確保せんと血眼になった白服の一団は、あっと言う間に素材をかき集め、それを見た周囲が色めき立ってさらに熱が入る。

「くっ……僕たちもスピード上げるよ?! 手を動かして!!」

――その後、日が傾いて終了の合図が響くまで。それは、随分と長い半日になったのだった。



徐々に沈んでいく夕日が、美しく周囲を染め上げていく。

方々に付着した血痕も、汚物も、全てなかったかのように美しく。

回収の合図とともに引き上げてきたオレたちと冒険者たちは、さっきまでの魔物のように死屍累々と横たわっていた。

疲れた……舞った時くらい疲れた。

そして、臭い。

さすがの夕日も、ニオイまでは染めてくれなかったらしい。慣れてしまった鼻はほとんど臭いを感じないはずなのに、ふとした拍子に臭い。

「せっかくご馳走でも、これじゃあ……」


オレはまだいい、洗浄魔法をかけていくから。だけど、周囲の人たちがみんなこの状態では、お祭り会場は阿鼻叫喚だろう。そして不衛生極まりない。

勝手に全員に洗浄魔法をかけるべきか……悶々としながら横たわっていると、またアルプロイさんがやってきた。

「皆様! 祭り会場にご参加予定の方は、湯と着替えの準備があります! 順次汚れを落としてからご参加下さい! 不潔な方は――ご退場願います」

にこ、と一瞬だけ受かんだ笑みが怖い。

一般人にとって湯を使えるのは、贅沢なこと。アルプロイさんが去った後には、嬉々としてついていく人の列ができていた。


「だけど、いくら順番って言ってもこんなにたくさん入れる場所……あ、もしかして外の大浴場も完成したのかな!」

クラスメイトたちが泊まった、ロクサレン初の大型宿泊施設。みんなが泊まった時は室内浴場だけだったけれど、多分外の大浴場が完成したんだ!

じゃあもしかして、着替えって浴衣のこと?

オレ監修、メイドさんたちが作り上げたロクサレンの宿専用着。なんだか、この機会に色々宣伝してやれという魂胆がアリアリと……。


「大浴場は気になるけど、今日は入りたくないね~」

「だな。あの人数だろ? ユータ、綺麗にしてくれよ」

うん、オレも今日はいいかな。どんなに大きな浴場でも、さすがにあの人数だとイモ洗い状態だろう。

「オレは、やっぱり厨房へ行った方がいいかなあ」

「そりゃそうじゃねえ? 俺、カレー欲しい!」

「僕、ちょっとアッサリ目の料理も欲しいな~」

それは、オレに用意してくれと言ってる?

オレは3人とも洗浄魔法をかけると、渋々厨房へ向かったのだった。


お祝いのお言葉ありがとうございました!

とても嬉しい誕生日になりました~!!これからも頑張っていきます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強かわいい表紙を携え、もふしら書籍版19巻、8月10日発売! かわいいイラスト付きの相性診断や、帯のQRコードでキャラ投票に参加できますよ! そして今回の書き下ろし120ページ以上!!ほぼ半分書き下ろしです!
今回も最高~のイラストですよ!!

ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろう 勝手にランキング
ランキングバナー https://books.tugikuru.jp/20190709-03342/
― 新着の感想 ―
[一言] 夕日が全てを紅に染め上げていくのが目に浮かびます。激闘に合掌。 そして次回も宴会で激闘なんでしょうね(^-^)
[一言] さすがに素材が関わるとラキも目の色が変わるねww
[一言] 見逃していました、、 誕生日だったのですね?!おめでとうございます!!!! この作品が好きすぎて、もう何周もして読み込んでます!! これからも楽しく読ませてもらいます! 応援してます!無理な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ