815 準備は上々
「……というわけで、なんだかお祭りになってしまいそうで」
「いいじゃねえか、祭りの方が楽しくて」
それはそうなんだけど……でも、トラブルだってきっと増えるだろうな。オレたちの警備担当は本会場の建物内のみなので、外でいざこざがある分には無関係ではあるんだけど。
今回はオレたちの学校が学会主催ということで、本来は屋内訓練場とその周囲のみ貸し切って行われる予定だったらしい。だけど、屋台が……。
かなり強気の出店料設定で屋台を募集したところ、想定外な応募数に。もちろん、多すぎる方で。
それもこれも、きっかけはロクサレン。
出店料が高いのであまり応募がないだろうと思って、ついジフに言ってしまったんだよね。出店しないかって。
「ロクサレンカレーを広める機会、かあ……」
まさか、ジフからOKがもらえるとは思わなかった。ロクサレンカレーの公表にちょうどいい機会だと、執事さんやエリーシャ様とも話がまとまってしまったんだよね。
別に今も隠してはいないのだけど、販売している場所は、ロクサレンの食堂くらいしかないからね。
「カレーが食えるなら、俺も行くか」
「カロルス様は来ちゃダメだよ、あ、来てもいいんだけどカレーを食べちゃダメだよ」
だって、食べつくしちゃうかもしれないじゃない。
食えねえなら行かねえと不貞腐れる大人を撫でて、今日はカレーにしようかと考える。
「それにしても、ロクサレンの影響がこんなに凄いなんて、思わなかった……」
ロクサレンの新作が食べられる、その噂があっと言う間に広がり、そこからは凄かった。ぽつぽつしか応募のなかった出店希望が、突如殺到したんだ。
「そりゃ、ウチは美食の権化みたいになっちゃってるから。誰かさんのせいでね? 新作を盗む意味でも、便乗して売り上げる意味でも、応募は殺到するだろうね。僕も会場に行くつもりだけど、混雑が凄いことになりそうだねえ」
のほほんとセデス兄さんが紅茶をすする。
おかげで、学校敷地内の通路と言う通路にお店が立ち並ぶという状況になりそう。
学園祭みたいで、楽しそうではある。
ちなみにB級グルメ的な立ち位置で、猫缶もお試し販売するらしい……。大丈夫なんだろうか、見た目的に。
オレもひとくち紅茶を含んだところで、勢いよく扉が開いた。
「ユータちゃん!これで完成よ!!」
「メイド一同、身命を賭してやり遂げました!!」
身命は大事にして?! だから、大変そうならチャトのだけでいいって言ったのに!
そう、今日は完成した衣装を取りに来ていたんだ。そもそも、完成一歩手前までは随分前から出来上がっていたのだけど、この角度がどうとか、裏地がこうとか、もはやオレには差が分からない部分で、時間の限りこだわりを詰めたらしい。
「これ……オレも着るの?」
一応聞いてみたけれど、有無を言わせぬ微笑みが返って来た。女装じゃないからいいけども……。
広げてみた衣装は、パッと見た限りはスーツっぽい正装スタイルでカッコイイ。だけど……
されるがままに着せられているチャトが、にゃあと鳴いた。
「へえ、これなら飾りに見えるね」
感心したように呟くセデス兄さんの言う通り、これならチャトに本当に羽が生えてるだなんて思わないだろう。
「ええ、ですがカモフラージュとバレないためには他の方々、特にユータ様がきちんと着ていただかなくては」
ちらちらとこちらを窺う視線に苦笑する。大丈夫、ちゃんと着るよ。
ひとまずジャケットを羽織ってみると、背中でぴょこぴょこ何かが揺れる。
そこにはまるで、幼児の仮装みたいな、可愛らしい天使の翼が縫い付けられていた。
『見て見て、ぼくも! ぼくも羽が生えたよ! 飛べそうだね!』
大興奮したシロが、部屋中を駆け回っては飛び上がっている。シロはふれあいコーナーで活躍してもらうので、あまり体を覆わないよう、前掛けタイプの衣装と翼だ。
「か、かわいい……!」
ついでれりと笑み崩れ、自分の顔がエリーシャ様みたいになっているのを感じる。だけど、これは堪らない。だってモモもチュー助たちやティアも、ちゃんとお揃いなんだもの!
パジャマパーティのお揃いも凄かったけれど、正装と翼のお揃いは中々破壊力が高い。
この翼はロクサレンの天使教モチーフという建前らしく、それはそれで嫌なんだけど。
――ラピスも羽が生えてるの! 面白いの!
くるくる舞うラピスの背中で、翼がはたはたと揺れる。
なくても飛んでいたラピスたちだけど、翼があるとまた違った雰囲気で素晴らしい。今回は時間があったので、翼と前掛けは50セットも用意がある。今後管狐が増えても賄える量だ。
「分かるけどよ……お前、顔が溶けそうだぞ」
下から顎を持ち上げられ、締まりなく開いていた口がかこんと閉じた。
「だって……ウチの子が可愛すぎる!!」
つい口走ったセリフがメメルー先生と被って、思わず真顔になったのだった。
「――あのさあ、俺らはロクサレン関係なくねえ?」
「僕、むしろ女装の方がまだ恥ずかしくないっていうか~」
当日の朝、にっこり押し付けた衣装は、タクトとラキの分。当然のように用意されていたそれ。
遠慮しなくていいよ、サイズだってバッチリなんだから。
二人にはこの背中の翼がかわいらしすぎると大変不評だけれど、オレだって着てるんだから我慢して!
ちなみに、エビビ用衣装は本エビが不要とのことで作っていない。心持ちメイドさんたちもホッとした様子だった。
「いいから!もう時間もないし早く着て!」
ものすごく胡乱な目を向けられたけど、もう押し問答をしている時間はないんだから!
会場は、もう既にすさまじい熱気だった。
まだお客さんがいないのに、ブース準備をする人と物と生き物が溢れかえっている。いろんな音と声と鳴き声が入り混じって、耳が馬鹿になりそうだ。
「これ、間に合うのか?」
「少なくとも、僕たちの所は間に合わせるよ~」
言いつつオレたち生徒展示のブースへやって来た。
正装になった二人は、ぐんと大人っぽくてカッコイイ。だけど、背中には翼。
途端に漂う仮装感が笑える。
笑みを堪えていると、両側からほっぺを引っ張られた。笑ってないのに!
「はあ、この格好で警備かよ……。それで、管狐部隊も協力してくれんの?」
「うん、表立って姿は見せないけど、盗難の可能性がある従魔には必ず付きそってるよ」
召喚獣は盗難できないので問題ないし、先生たちのコレクションについては、ラキの特製ショーケースに入れてもらうことになっている。
「ショーケースの設置はバッチリだよ~。透明度よし、強度よし、やっぱり最高だね~」
ラキがつやつやした顔で、そこにあったチュー助ゲージを撫でた。
オレたちの視線がぬるくなるのは仕方ないだろう。
ロクサレンの参戦により、屋台の出店料だけで相当なプラス見込みとなったため、ラキが黒字分を使ってショーケース作成を提案した。
何でも、オレのため込んでいた素材と大量に確保したクリアビートルで、かなり上等なものができるそう。ちょっとやそっとで割れたり壊れたりしないので、少なくとも先生たちのコレクションへの心配がなくなる。
どうしようかと思っていたんだ。さすがにコレクション全部に管狐を配置できないし、ごった返す会場で小さなコレクションを守り抜くのは至難の業だと思っていた。
これで安心と思う一方、まさか、ラキはこれを狙って……? これまでの全てはこのために? なんて、まさかそこまでってことはないだろうけども。
『そこまでってことはあると思うわよ』
『俺様もそう思うぜ! とにかく主、俺様のお部屋に張り付いて撫でまわすのをやめさせて!』
うっとり張り付くラキに身震いして、オレとタクトはそっとメメルー先生の手伝いに走ったのだった。
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