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804 おつかい

「めんどくせえな……ラキは来ねえし」

タクトは気乗りしない様子でムゥちゃんの葉っぱを咥え、シロ車に寝転がっている。

「ラキに来てほしかったの?」

くすっと笑うと、途端に飛び起きた。

「ち、違うだろ! その、1人だけ来ねえってなんか……アレだろ!」

どれだろうか。まあ、分かるんだけども。


オレたちはラキに色々お願いした手前、こうしてお使いをやっている。

一応、討伐と言えば討伐、採取と言えば採取だろうか。

相手はそれなりに大きな虫。枕くらいのサイズで、ガラスよりも丈夫な透明の素材になるらしい。つまり、全てはオレたちの依頼品を作るためなんだけども。

採取と聞けばやってくるラキだけど、それよりも今は魅力的なものに意識が向いているらしい。

主にオレのせいで。

「そもそもお前、なんであんなに素材貯めてんだよ。ギルドに渡すだけだろ」

「だって、気軽に出していいかどうか調べるのが面倒で……」


シロが持って帰って来たお肉の付属品とか、管狐部隊の訓練に巻き込まれた哀れな魔物の一部とか。あと、チャトが夜散歩に出た日に置いてある、何かしらとか。

あれ、朝起きたらビックリするんだから……布団の中から出てくる魔物の遺体。

みんなどこで狩って来たのか分からないし、そもそも一部しかなくて元が何か分からないものもあって。

シロや管狐部隊の獲物なんて、下手すると他国の生き物なんて可能性まであるんだもの。

オレやラキが素材素材って言うからなんとなく持って帰ってきてくれるけど、そもそも素材になる部分かどうかも知らない。

今回はいい素材が交換条件ということで……。つまり、渡りに船とばかりに秘密基地で披露しちゃったものだから、ラキはそこから動かなくなってしまったわけだ。

食料は置いてきたけれど、ちゃんと食べているだろうか。


「なあ、森なんだからさ、ついでに何か討伐していこうぜ!」

「何かって? 森って言っても町のそばで、そんな都合よく獲物がいるかなあ。ひとまず、虫は討伐するんだからそれでいいんじゃない?」

「虫は討伐って言わねえ! ただの害虫駆除じゃねえか!」

確かに、クリアビートルは大した攻撃力を持たないからね……。ただ葉野菜が好きらしく、枕サイズの虫の食害となると、畑の被害は割と深刻だ。

今回は依頼ではないけれど、増えて来た森があると聞いてやって来ている。


『とうちゃく~!』

遠く町が見えてきた頃、シロがスピードを落とした。

広大な畑が町を越えて外に広がり、少し離れた場所には森がある。なるほど、いかにも虫に都合のいい場所だ。

シロ車から飛び降りたタクトが、にやっと笑って振り返った。

「見ろ、結構でかめの森だぞ! 獲物の匂いだぜ!」

「いいけど……先に虫だよ?」

「分かってるって! さっさと見つけようぜ!」

普段は森に潜んでいるらしいから、探すなら森だ。

枕サイズの虫だもの、そう難しいことはない――と思ったのだけど。


「いねえんだけど?! 本当に増えてんのかよ?!」

全身に大量に葉っぱを乗せて、どこかへ消えていたタクトが戻って来た。

「うーん、探している場所が違うのかな。地下に潜むとか? 町で聞いてみる?」

図鑑は持っているけど、こういう些細な虫は載っていないんだよね。レーダーで探すにも、魔物ならともかく、ただの虫だと気配が薄すぎる。

「ええ……めんどくせえ」

「そんなこと言って、見つからないものを探し続ける方がめんどくさいよ」

諦めて町へ向かおうとしたところで、近くに人の気配を感じた。


驚かせてもいけないと立ち止まると、横合いの獣道から二人組の冒険者が姿を現した。

「おや、随分小さな冒険者だ」

「迷子……になるには浅すぎる場所だな」

顔を見合わせて笑う二人の青年は、セデス兄さんより若いくらいだろうか。

「迷子なわけねえだろ! なあ、クリアビートルってどこにいるか知らねえ?」

ものすごく単刀直入に聞いたタクトに、内心焦って服を引っ張った。情報って、冒険者は割とお金でやりとりしたがるんだから!

「クリアビートル? その辺にいるだろうよ。増えてきて困ってんだからな」

割とどうでもいい情報だったらしい。簡単に答えてくれた青年が訝し気な顔をする。


「それが、全然見つからねえの!」

地団太踏むタクトに、二人はああ、と手を打った。

「見つけ方を知らねえのか。お前ら、字が読めねえんだろ。にしたって、絵と一緒にあちこちに貼り出してあったはずだぞ」

まさか随分離れた場所から来ましたとも言えず、オレたちは互いに肘を突き合って押し黙った。ほら、やっぱり町へ行くべきだったんだよ!

「教えるのは構わねえけど、俺らもちょっと急いでんだよ。けど、お前らも手ぶらで町まで戻れねえよな。確かに虫ごときで収穫ゼロはなあ」

「森の奥まで行かなきゃなんねえんだ。道すがらで良けりゃ、道中の目途がついた時点で教えてやるよ」

それを聞いて、タクトが目を輝かせないわけがない。

「ってことは、奥にも虫はいるんだな! 行く行く!」

「あ、ああ……」


まさか即答で返ってくると思わなかったのか、二人が若干引いている。

これは、最深部まで行ってしまう流れだろうか。いやいや、その前にこの二人に止められてしまうだろうけども。

「じゃあ、行こうぜ!」

すっかり乗り気になったタクトが、先頭を切って歩き出す。

どこへ行こうと言うのだね。

3人で乾いた笑みを浮かべたのは、言うまでもない。


改めて先頭を交代すると、言った通り急いでいるらしい二人は、結構な早足で森を行く。

「ねえ、森の奥まで急いで行って、何をするの?」

「討伐か? 手伝うぜ!」

声を掛けると、振り返った二人が黙って視線を交わし、1人が口を開いた。

「……中々見つからねえ魔物がいるから、長期戦で奥に拠点を作ってんだ。いや、なに、危険な部類じゃないんだが臆病なやつでな」

その時点で、タクトの目の輝きが8割減になった。

「じゃあどうして、そこを離れたの?」

首を傾げると、彼は腰から回復薬の小瓶を取り出してみせる。


「こいつを切らしてな。1人、怪我してんだよ」

「えっ! 大変じゃない! もっと急いで、早く行こう!?」

何をのんびりしているのか。大慌てしたオレに、二人がきょとんとした。

「あー。こいつ、ちょっと回復できるから」

タクトが肩を竦め、目くばせした。

そうか、まずはそこを言わなきゃ。そして、言いすぎちゃダメってことだね!

「はは、それはいい。何なら、拠点まで来るか? ま、大事になるほどの怪我じゃねえんだ」

タクトの目が、行くと言っている。そしてオレも、心配だから行こうと思っている。だけど彼らの目は、ジョークの一環だと言っている。

どうやって連れて行ってもらうか、それが問題だ。


「おっと……この辺りまで来ると、ちょっとばかり危険になる。離れるんじゃねえよ」

いつの間に切ったのだろうか、前を行っていた彼が草間からこと切れた大きめの魔物を拾い上げて収納へ入れた。

「大丈夫だぜ! 俺ら、結構強いからな」

タクトが胸を張ると、二人が笑った。

「へえ、元気な子どもはいいな。おあつらえ向きだ」

「けど、ひとまず気が散るから、後ろにいることだ。そうだ、暗くなるまでには到着できそうだから、俺らから離れないって約束なら、クリアビートルを探してやる」

言われて、虫のことをすっかり忘れていたことに気が付いたのだった。


16巻の発売日は、公式には1月9日でした!!すみません(;´・ω・)

Amazonさんのを参考にしましたが、あれはアレでAmazonさん独自みたいで……!

本来は、1月9日です!!!

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― 新着の感想 ―
[一言]  偶然出会った冒険者がいい人でよかったですねえ。 意外と子供相手ならこれが普通の対応で、この前引率業務やった時の連中が酷すぎただけだったのかも……?(^^;)  それとユータちゃん、結構ム…
[一言] またまた「おつかい」に留まらない予感(^_^;
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