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797 どんな技術も

「てめえは……いつもこうなのか」

隣で腹の苦しさに呻いていたダーロさんが、ちらりとオレを見た。

「いつも? なにが?」

首を傾げてから、ああ、と頷いた。

「うん、いつも外でお風呂に入るし、お食事も……大体こんな感じだよ!」

食事はいつももっと豪華だなんて言えない。さすがに察するだけの気遣いは備えている。


だけど、ダーロさんは思い切り眉間にしわを寄せた。

「ちげえんだよ! てめえは相手が――いや、いい。分かる」

「何が?!」

近づけた顔をわし掴んで押しのけられ、思い切り頬を膨らませた。

「てめえの行動なんざ、聞かなくても分からぁな」

鼻で笑ったダーロさんが、続けてまだ何か言いたげにするのを遮り、オレもフンと鼻息荒く見上げる。

「オレだって分かるよ! どうせダーロさんたちは、明日もまたビックリするんだよ!」

「は? てめえ、まだ何か規格外な能力があんのかよ?!」

「なぃ……な、なくはないけど! でも別に何かするわけじゃないよ! ダーロさんたちって何もなくてもビックリするじゃない!」

「どの口が言いやがる?!」

伸びて来た手を躱してくぐり、満腹のおなかをべちっと叩いた。


うっと呻いたダーロさんにほくそ笑みつつ、違和感を覚えて裾をまくり上げる。

「ダーロさんって、いっぱい食べたらお腹丸くなるんだね」

「うるせぇ! 当たり前だろが!」

カロルス様はいくら食べたって、丸いお腹にならないのに。

さすがに丸いお腹は恥ずかしかったのか、慌てて裾を下げる姿は、ちょっとばかりかわいいかもしれない。

「鍛え方が足りないんじゃない?」

「おまえに言われたかねえわ!」

「オレ、まだ幼児だもん」

ふふん、と胸を張ってみせると、面白いように悔し気な顔をする。


「けっ、てめえなんざ奇跡が起こってデカい体になったところで、舐められて終わりだ」

捨て台詞のようにそう言って、唇をへの字に曲げた。

「あの時も、そう言ってたね」

とても既視感のあるセリフを思い返し、首を傾げた。

彼らが言う舐められる、は冒険者関連のことに限定されるだろう。だったら――

「オレ、思うんだけど。それって実力があればいい話じゃない?」

「は?!」

「実力を知らずに舐めるのは仕方ないよね。だけど、実力を知っていればそうはならないよね? ……ダーロさん、今もオレを舐めてるの?」

目を剥いて言い返そうとしたダーロさんが、ぐっと詰まった。

おや、当たり前だろとか言われるかと思ったのに。

案外、嘘のつけない人だ。


こと冒険者において実力がなかったら、依頼の成功率は低いだろう。だったらギルドでの優遇順位だって低いし、依頼者からありがたがられもしないだろう。だけどそれは、舐められるって言うんだろうか。もちろん、実力がどうあれ、馬鹿にするのは間違っていると思うけど。

「じゃあさ、ダーロさんたちは実力はないんだけど下に見られたくないから、乱暴な態度をとるってこと?」

それって、カッコ悪くない?

「――ッ! うるせぇ! てめえが住んでる世界とは違ぇんだよ!」

ぎりぎりと拳を握って、今にも噛みつきそうな顔。オレにそんな顔したって、怖くない。睨みつける視線をさかのぼるようにばちりと目を合わせ、にこりと笑う。

「そっか。だけど、オレの住む世界にもダーロさんたちはいるんだよ」


虚を突かれたような顔をした隙に、さらに想定外だろうことをしてみる。

ひょい、と膝に乗り上げると、ギクリとその身体が強張った。

「オレの住む世界ではね、そんな態度だと損しかないよ。使い分けるといいよ」

「……使い分ける」

ぽかんとした顔で繰り返し、ダーロさんは重なった想定外に混乱している。


彼らの態度は、言動は、必要なんだろう。少なくともダーロさんが住む世界では。そんな世界だって、きっとある。だけど、他の世界で使っていいかは別の話だ。

「せっかく持っている技術なんだから、使い時を考えればいいのに」

「は? 技術?! てめ、一体何の話を……じゃねえッ! 何、涼しい顔で乗ってやがんだ!」


「オレにはない技術。だって、生まれた時から持ってるわけないじゃない。ダーロさんが培ってきた技術でしょう。どんな技術も、ないよりある方がいいよ」

使いどころを間違えなければ、どんな技術も役に立つ。

見上げたダーロさんは、ただ口を開閉するだけで、何も言わない。

「ひとまず、ダーロさんたちが舐められるのが嫌なら、まず人を舐めるのをやめたらダメなの?」

「……何を言うかと思や、そんなことかよ。実力がなければ舐められんのは、当たり前だろが」

小馬鹿にする顔をまっすぐ見つめる。ダーロさんたちは、そう言われたんだろうな。


「だって、必要なくない? 何のために? あと、それは相手のために、じゃなく自分のためだよ」

実力が下だから舐めていい。それって間違っているだけじゃなく、危険でもあると思うけれど。

だって、冒険者だもの。オレみたいな場合ももちろんあるし、思わぬ怪我や失敗もある。実力なんていつ逆転するか分からないのに。

こっちの理由の方が、きっと彼らには納得できるんじゃないだろうか。

案の定、聞いたその視線が揺らめいた。


「――ねえ、誰に言われたの? 誰に馬鹿にされたの? それ、ダーロさんたちがやっちゃうのはどう?」

ふと、にんまり笑ったオレに、ダーロさんが若干身を引いた。

「……何を言ってんだ」

「そ、そんな物騒なことじゃなくて! 実力のこと! 馬鹿にした相手がいつまでも下だと思うなよってやつ!! 見返せばいいじゃない」

「はぁ~……馬鹿か、そんな簡単にひっくり返せたら、誰もこうならねえわ」

もはや憐れみを浮かべた瞳を、ムッと見つめ返す。

「やって損はないよ! 無理でも強くはなるんだから。どうせ、自己流でしか鍛えてないんでしょう? オレたちと訓練する? その代わり――」

無論、交換条件だ。オレは他の二人も手招いて、耳打ちしたのだった。




「――俺は、もうあいつが何をしても驚かねえ」

「なんつうか、あれだね、慣れるもんだ」

「慣れたんじゃねえよ、麻痺しちまったんだ。頭が受け入れ拒否しちまってんのかもな」

思いのほか話し込んでしまい、さあ寝ようと小さな小屋へ入ったものの、3人はどうも疲れた顔でぼそぼそ言っている。

オレは素知らぬ顔でベッドへ乗り上げた。だってもう、何もしていない。今度こそオレのせいではない。

『そりゃないぜ主ぃ、そこの布団って異物があるだろぉ?』

『むしろ、ベッドそのものが異物よね』

……。それは盲点だった……。

でも、そのくらいなら土魔法と収納袋だもの、問題ないね。


「もう寝るよ! 今日はモモとシロたちが見張ってくれるから、ゆっくり寝よう!」

ぱんぱんと布団を叩いて言うと、大きな3人がそろそろとやってきた。

「固いベッドだから、気を付けてね!」

「固くねえわ、いつもの宿の方が固えわ」

そんな宿なら外で泊まった方が……なんていうのはオレたち特有だったね。


*****


「じゃあ、おやすみ! 朝になったら起こしてね!」

いつでも変わらない柔らかな声が、そう告げる。

朝になったら目は覚めるだろうが、と憎まれ口をたたくのも忘れ、滑り込んだふかふかの布団に思わず口角が上がる。

からりと乾いて軽い、柔らかい布団。

生まれてこの方感じたことのないほど、頭の先から足の先まですっきり汚れの落とされた体。

程よく落ち着き始めた、満ち足りた腹。

布地とこすれ合う肌が、こんなにも滑らかに感触を伝えて心地いい。

足の裏が、さらさらとする。


押し寄せる快が惜しくて、落ちそうになるまぶたに抗って何度も寝返りを打つ。

朝が来れば、なくなってしまう。

きっと俺は忘れる。この感覚も、感情も。

こんなに悔しいと己を呪ったことはない。今の、この俺を明日も持っていられれば、何かが変わるかもしれないのに。

明日起きれば、きっとまたあの俺になる。眠らなければ、持ち越せるのだろうか。


ぎり、と食いしばった歯が、音を立てた。

その時、さらり、と柔らかいものが額を撫でた。


羊毛がメインだけど、youtubeも登録してみたんですよ!


「ひつじのはね パジャマDE羊毛」@hitsujinohane12

 

ってやつです!ひつじのはね、youtubeまともに見たことなかったから四苦八苦。

この名前?だってどんな風に見えるんだろ?って適当に変えてるうちに変更不可になったっていうね……多分数日したら変えられたんだろうけど、もういいやってなった。

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